遺伝子組み換えウイルスの出荷停止

こんなニュースを見た。

米製薬会社が筋ジストロフィー治療薬「エレビジス」出荷停止…死亡例報告、厚労省は5月に製造販売承認 (読売新聞)

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬「エレビジス」を投与された患者が急性肝不全で死亡、

アメリカで出荷停止が出るも、すぐには応じなかったが結局は停止されたという話。

この薬は日本で条件及び期限付き承認が出ているのだが、健康保険を適用するかはわからないという。

アメリカで出荷停止になったことを考えると停滞は避けられないのだろう。


この薬は一体どんな薬かという話だが、遺伝子組み換えウイルスですね。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーというのは遺伝子の問題により、

筋力低下・筋萎縮が起き、歩行できなくなったり、呼吸できなくなる病気である。

このような病気はなかなか治療方法に乏しいことが多いのだが、

近年は不足している遺伝子を細胞に入れることで治療する動きがある。

1回の投与でかなり長期間効果が続くので、薬自体は高価でもコストパフォーマンスは高い可能性がある。

この手の薬としては脊髄性筋萎縮症に対するゾルゲンスマがある。

2020年の薬価収載時点で1患者あたり1億6700万円と報じられている。


エレビジスについてはアメリカで320万ドル(4.8億円)なんて書かれている。

日本では薬価を決めるルールは様々あり、どのような価格になるかはわからない。

ゾルゲンスマの場合は定期的に投与するタイプの脊髄性筋萎縮の薬が存在して、

この薬自体も高価だったが、この薬を基準に1回投与で完了することなど考慮して決められた。

ある程度納得感はあるのではないかと思う。実際に効いているようだし。


ただ、エレビジスについてはそもそも健康保険を適用するべき薬なのかという点に疑問もあるようだ。

そもそも条件及び期限付きになったのは有用性の立証が不十分であるためで、

適用される患者数が増えて有用性が立証されれば正式に承認しようということではあるが、

そんなに高くない薬ならよいけど、エレビジスはおそらく超高価なので、

やっぱりダメでしたというのでは困るというわけである。

折しも2024年には条件及び期限付きの薬が2つ立て続けに削除されている。


そんな中で、投与された患者が死亡するようなことが起きれば、

そもそも薬自体の安全性がどうなのかという話にもなる。

すでにこの報告は日本の中央社会保険医療協議会にも届いていて、

安全性が確認出来るまでは薬価収載の議論もストップだとなっている。

というわけでなかなか状況が見通せない状況ではある。


しかし、どうして肝機能障害が起きるのだろうか。

冒頭にも書いたようにこの薬は遺伝子組み換えウイルスである。

ウイルスというのは細胞に入り込んで増殖する性質がある。

この細胞に遺伝子を運び込むという観点に着目して、

あまり害のないウイルスに治療用の遺伝子を組み込むことで、

治療対象となる細胞(この場合は筋肉)に遺伝子を運び込もうとすると。


ただ、こういう細胞に十分入り込むだけのウイルスというのは相当な量らしい。

投与からしばらくは血液・排泄物などにもウイルスが相当量いると。

あまり害のないウイルスとはいうが、感染した細胞は多少の影響はある。

筋肉に感染すると、筋炎を起こすというのはわかりやすい話である。

で、どうも肝臓にも影響があるみたいなんですよね。

なので投与後はこのあたりの影響を見て免疫抑制剤を投与するようにとなっている。

この点では難しい薬でもある。


もともと効果的な治療法に乏しい病気なので、新たな治療方法への期待は大きい。

薬価が超高価といっても適用対象の患者数もそう多くはないので、

効果が高ければそれなりに合理性を見いだしやすいものでもある。

ただ、やはりその前提となる情報が不足しているということなんでしょうね。

原理的に効果があるはずという治療法でも、実際には様々な事情で効果が乏しいこともある。

エレビジスもそういう薬なのかもしれない。


デュシェンヌ型筋ジストロフィー、歩行困難というだけなら車いすでもよいが、

呼吸困難になり、心臓の機能も衰え、腸の機能も衰え……

というのではそう長生きできなくてせいぜい20代で亡くなることが多いよう。

これを回避して長生きできるようになればとても大きいわけですよね。

まだ生まれて間もない薬なので、そこまでは立証されていないけど。

果たしてどうなんでしょうか。