プランク定数でキログラムを定義すると言うことはどういうことかをたびたび書いている。
新しいSIの定義は直感的? 直感的ではない? , プランク定数ってそうだったの?
そもそもプランク定数は光の振動数と光量子のエネルギーを結びつける定数で、直接、質量を定義するものではない。
NHKは「簡単に言うと、1キログラムを原子何個分の重さで表すということです」というけど、
これは、精度良く測定されている他の物理定数を使うと、プランク定数と原子1つの質量を結べることを意味している。
日本の産業技術総合研究所は、アボガドロ定数を精度良く測定することで、プランク定数を求め、
これがプランク定数によるキログラム定義に大きな役目を果たしたのだ。と書いた。
プランク定数を求めるもう1つのアプローチとして、ワットバランス法がある。
こちらもプランク定数によるキログラム定義に大きな役目を果たしたアプローチである。
ワットバランス法というのは、電磁力と分銅をつり合わせる天秤だそう。
この手の装置は従来の定義で電流を定めるために使われていた装置に似ている。
というのも、従来のアンペアの定義は電流の流れる導線の間に働く電磁力の大きさを使って定義されていた。
ワットバランス法のポイントは、ここに流す電流をプランク定数を使って決められることらしい。
ここで使われるのが、ジョセフソン効果を使用した標準電圧と、量子ホール効果を使った標準電気抵抗だそう。
あれ? なんか聞いたことあるなと思って調べると、この2つは現在の電気標準を決める上で重要な役目を果たしているものらしい。
ジョセフソン効果を決めるジョセフソン定数は 2e/hで、量子ホール効果を決めるフォン・クリッツィング定数は h/e2 とのこと。(e:電気素量. h:プランク定数)
ここで気づいたが、新しいSIの定義ではプランク定数と電気素量がそれぞれ定義値になる。
ということは、電気標準に使われる2つの重要な定数が定義値になるということである。
でも、実はすでにこの2つの定数は実務上は定義値らしい。
そこで、1988年に国際度量衡委員会(CIPM)は電圧標準供給における実用上の協定値として、KJ-90=483597.9GHz/V という値を、1990年1月1日より世界中で統一して用いることを勧告しました。この値不確かさをもたない定義値として、量子ホール抵抗標準におけるフォンクチッツィング定数の協定値RK-90 とともに、電気標準体系において今日まで用いられています。
すなわち、今はアンペアの定義を天秤で決めるということはやらないんですね。この定数を使って標準電圧・標準抵抗を作ればOKと。
今後は名実ともに定義値になる。厳密に KJ=483597.8484[GHz/V]ですね。
すなわち、ワットバランス法でキログラムを決める場合は、まず最初に電圧の単位Vと抵抗の単位Ωが先に決める。
これにより電流と電圧を精密に測定できるようになる。
ワットバランス法で質量を決める方法は次の通りである。
- ある磁場Bの中で、長さLの導線に電流Iを流したときの電磁力が質量mの分銅とつりあうと BLI=mg (g:重力加速度) の式が成り立つ
- 同じ磁場Bの中で、長さLの導線を速度vで動かしたときの起電力Uを測定すると、 U=BLv の式が成り立つ
- 1, 2の式から UI=mgv の関係が成り立つ
重力加速度g、導線を動かす速度vは精密に測定できる。
あとは 導線に流した電流 I と導線を動かしたときに発生した起電力 U を精密に測定すればよいわけだ。
僕が最初にプランク定数でキログラムを決めると聞いたとき「まずエネルギーの単位 Jが決まり、それからkgが導かれる」と書いたけど、
ワットバランス法で質量を決める場合は、まさにそうなってるよね。
電流Iと起電力Uのかけ算って電力(時間あたりの電気エネルギー)ですからね。エネルギーを決めて質量を決めるということだから。
どちらかというと、こちらの方が質量標準のメインになりそうではある。
それにしても電気関係の単位はすでに電磁力の測定ではなく、物理定数と量子デバイスで標準器を作ってやってたとはね。
アンペアの定義が変わることについて、影響はほとんどないと言っていたけど、そりゃそうだ。
実質的には28年前の1990年から先取りしてやっていたわけだから。
取り残されていたのはキログラムばかりという感じもするが、分銅を上回るのは意外と難しかったということなんだろう。