兵庫県の光都……この名前はあまり知られていないかもしれないが、
中核施設である SPring-8 のことは知っている人は多いかもしれない。
加速器を中心とした町には、それにちなんだ施設がいろいろあり、
その1つが 兵庫県立粒子線医療センター である。
2001年に開設された 陽子線と重粒子線(炭素イオン線)によるがん治療を行う施設である。
ところが老朽化と経営悪化により閉鎖される可能性が高いという。
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そもそも陽子線治療、重粒子線治療とは一体どういうものなのか。
がんの治療法としては、手術療法、放射線療法、化学療法、免疫療法があるという。
この放射線治療の一種である。
手術はがん自体を外科的に取ってしまう方法で確実性が高い。
しかし、がんの部分を全て取り切るのは条件によっては難しい。
化学療法は抗がん剤を投与する方法で、がん細胞を投薬により死滅させる方法である。
がんは他の部位に転移することもあるので、広く治療できるのはメリットである。
手術である程度取ってから、残った分を化学療法で叩くというやり方も多いという。
ただ、細胞を殺す薬を全身投与すると、全身に大きな影響があるわけですよね。
免疫療法は免疫系を刺激して、免疫機能により がん細胞 を殺すというもの。
投薬による点では化学療法にも似ているが、細胞を殺す方法が違うと。
免疫に作用する薬を様々投与するので全身的な影響はやはり大きい。
放射線療法は局所的であるという点では手術療法とも共通する。
一方でがんを取るのではなく、体外からがん細胞を死滅させるという点では化学療法などに似ている。
このため手術ではうまく取れない部位や、手術が適さない患者に適用されることが多いとみられる。
この放射線は基本的にはX線だという。昔からの実績があり取扱がよいということだろう。
X線というのは身体を透過して通り道にある細胞にほぼ一律に影響がある。
しかし様々な方向から照射して、周辺の臓器を分散させながら、目的の部位に多く照射するという方法は取れる。
しかし、これでは周辺の臓器への影響を抑えながら十分な効果を得るのが難しいケースがある。
そこで考えられたのが陽子線・重粒子線を使う治療法だった。
これらの粒子を体内に打ち込むと、エネルギーによりある程度の深さのところまでで止まる。
このピークを がん の場所に合わせると、X線に比べて他臓器への影響を減らせる。
重粒子線はより重い粒子を使うことにより、細胞を殺す作用が強いという。
これは正常細胞への影響も大きいが、他の放射線治療では十分な効果が得られない場合には有効なこともある。
2001年の開設当初はこれらの治療ができる施設は世界的にも珍しかった。
当時は粒子線治療も実績が少なく、健康保険適応の治療がなかった。
先進医療に指定された治療はあったので、それで実績を積みながらやっていたわけですね。
先進医療はその治療自体は健康保険の適用対象外で全額自己負担だが、
それ以外の保険適用対象の部分には健康保険が適用できるものである。
将来的な健康保険適用に向けて、効果を測る目的で指定されるのが通常である。
それで効果が認められれば健康保険適用になるわけである。
というわけで2016年以降順次、粒子線治療が健康保険適用になっている。
そうしたら光都で陽子線・重粒子線治療を受ける人が増えるかと思ったが、
治療ニーズが増えれば対応施設も増えていくものである。
近畿圏より西に限ってみても……
- 九州国際重粒子線がん治療センター(鳥栖市) (2013年)
- 岡山大学・津山中央病院 がん陽子線治療センター(津山市) (2016年)
- 大阪陽子線クリニック(大阪市) (2017年)
- 神戸陽子線センター(神戸市) (2017年)
- 大阪重粒子線センター(大阪市) (2018年)
- 高清会陽子線治療センター(天理市) (2018年)
- 京都府立医科大学附属病院 永守記念最先端がん治療研究センター(陽子線)(京都市) (2019年)
といった具合ですね。ちなみにここ以外は重粒子線と陽子線で別々の施設になっている。
特に影響が大きかったのが 神戸陽子線センター と 大阪重粒子線治療センター の登場である。
神戸陽子線センターは兵庫県立粒子線医療センターの付属施設で、
ポートアイランドの兵庫県立こども病院に隣接したところにある。
この特徴から 小児がんを注力分野としているが、大人の治療もやっている。
大人については入院が必要な患者、重粒子線治療を行う患者は光都で行うが、
逆に言えば陽子線治療で通院の患者はポートアイランドでやることが多いと。
一方の重粒子線治療にしても大阪都心の大阪重粒子線治療センターで受けられるようになった。
そもそもなんで光都なんて山奥に粒子線治療の施設ができたのって、
粒子線を作るための加速器がすごい巨大だったからだけど、
これが小型化されたことで都心立地の施設もできるようになったと。
採算面でも保険適用によりある程度まとまった需要が見込めるようになった。
それもひとえに兵庫県立粒子線医療センターが20年ほど積み上げてきた実績があってのことである。
そして25年も経てばありとあらゆる設備が老朽化、更新には多額の費用がかかる。
ここでポートアイランドや大阪の施設にバトンタッチという考えは合理的に思える。
ただ、陽子線治療については同じ組織の中で継続はできるが、
重粒子線治療について兵庫県ではやらなくなるということで、
長年にわたって積み重ねてきた体制が失われることは懸念ではある。
陽子線治療にしても神戸陽子線センターの機能強化をするとしても、
それが完成するまで光都の施設を持たせられるかが微妙な状況。
おそらく治療を受ける手段がなくなるということはないのだが、
継続性などの観点ではかなり課題があるのも現実である。
余談ですが、光都というのは 上郡町、佐用町、たつの市(旧新宮町)にまたがるのだが、
いずれの市町でも町名は「光都○丁目」である。
施設によりどの市町に属するかまちまちで、粒子線医療センターは たつの市 、
SPring-8は玄関があるのが佐用町(他の市町にもまたがる)、
兵庫県立大学 播磨理学キャンパス は上郡町といった具合である。
ただ、どの市町であっても光都の小中学生は播磨高原東小学校・播磨高原東中学校に通学する。
市町の名前で書かれると全然違うように思うけど、実態はあまり差がないと。
どの市町の中心から見ても遠いってことなんですけどね。
道路交通の面では相生との往来が便利なようだが、それも大概遠い。