けっこう衝撃的なニュースだったんだけど。
村の生徒は1人だけ、大半の高校生が越境通学の「奈良県立山辺高校山添分校」存廃決断のリミット迫る (読売新聞)
山添村立の昼間定時制高校「奈良県立山辺高校山添分校」だが、今年3月末に存廃を決めなければならない状況にあるという。
そもそも村立の昼間定時制高校ってなんだよって話はともかくとして、
衝撃的だったのは全校生徒32人のうち村内出身者は1人だけということである。
ちなみに32人というのは4学年合計の数字である。うーん。
いろいろ意味不明な言葉が並んでいたと思う。
定時制高校というと仕事終わりに通う想定の夜間定時制がよく知られているが、
昼間に通う定時制高校もあって、これは農繁期休暇を長く取ることが目的である。
家業の農業をやりながら学校に通うことを目的としているものの、
必ずしも農家とも限らないので、インターンシップ期間と考えるべきかもしれない。
このため全日制高校に比べると授業時間が少なく、4年制が基本となっている。
(山添分校はどうか知らないけど通信教育と組み合わせて3年で卒業するコースがある学校もある)
この学校の生徒は三重県の伊賀地域(伊賀市・名張市)からの通学者が多くを占めている。
分校のWebサイトに出身中学校リストが載っていたが、
県内が4人、うち1人が山添中学校出身、大和高原地域の出身者はあと1人かな、
これに対して伊賀地域出身が27人と圧倒的な割合である。
村外との往来のための運行しているコミュニティバスの利用者のうち相当割合が伊賀地域からの通学者だという。
果たしてこれは村立高校としてどうなんだという話は当然あるわけである。
そしてこの学校のおかしな点が「奈良県立」の山辺高校に「山添村立」の山添分校があることで、
これがまさに存廃が問題になっている大きな要因である。
2016年に文部科学省と奈良県教育委員会が是正を求めたわけである。
この問題に対する解は簡単で山辺高校の分校であることをやめてしまえばよいことである。
実は奈良県には同様の形態の分校が存在して、それが五條高校賀名生分校である。
五條市立(元は西吉野村立)の分校だったが、2021年に五條市立西吉野農業高校という独立した高校になった
この再編に向けてか従来存在した家庭科を廃止して、農業科のみの高校となっている。
西吉野地区は全国的に知られる柿の産地で、果樹農業の後継者育成に果たす役割が大きいということで、
独立に向けて寄宿舎の整備、全国募集の開始などの投資を行っている。
全校生徒60人なのでやっぱり小さい学校なんですけどね。
正直なところ山添分校はそこまでの特色のある学校でもない。
確かに山添村周辺の大和高原地域では山辺高校ぐらいしか高校はないので、
この点では貴重な学校とは言えるのだが、それでも村民が全然いないのである。
なぜかというと奈良県と三重県の取り決めにより伊賀地域の県立高校に進学できるためである。
奈良県と三重県は長く県境を接するが、だいたい奈良県側は辺境の地である。
奈良市月ヶ瀬・山添村・曽爾村・御杖村からは伊賀地域の指定された高校
下北山村からは熊野市内の高校に進学することが可能となっている。
実際、山添村の高校生の多くは名張市内の高校に通っているという。
一方で三重県側から奈良県の高校に進学することができる取り決めもあり、
その1つが伊賀地域から山添分校への進学である。
もう1つは二次募集に限り名張市から奈良県立の指定された高校を受験できるものだが、
二次募集限りと考えれば、山添分校への進学が奈良県側の譲歩のほとんどである。
山添分校がなくなったとしても、奈良県から三重県立の高校への進学を拒むのは現実的ではないでしょう。
山添分校がなくなっても奈良県側が二次募集限り受け入れる部分は一応は残ってるわけだし。
ただ、この協定がスムーズに締結された背景に山添分校の存在は一定あったんだろうと想像する部分はある。
というのも最近、京都府南山城村・笠置町から伊賀市内の県立高校に進学できる協定が拡充されたそうなのだが、
これは三重県側が一方的に受け入れる協定なので府県同士の協定ではなく、
三重県と相楽東部広域連合(笠置中学校の設置者)との協定になっている。
なので、山添分校は広い意味で村民の学びの機会を拡大しているのは必ずしも間違えてないのではないかと。
小さな村立高校が存続している背景には、市町村立の定時制高校の教員の給与は都道府県が負担するルールもある。
指定都市を除き、市町村立の小中学校の教員は都道府県から雇われている。
この制度は本来は全日制高校には適用されないが、定時制高校には適用される。
すなわち山添分校の教員は奈良県職員ということである。
県立の山辺高校に村立の分校が付いているのはおかしいと書いたが、
教員はどっちも奈良県から雇われているのである。この点ではそこまで変な組織とも言えない。
このことは独立した高校になっても何ら変わらないわけである。
ただ、山添分校には校長室もないし、独立した高校になると従来かからなかった費用がいろいろかかる。
山添村は人口3000人弱の小さな村である。実態として村民がほとんど通わない高校に見合う投資なのか。
ここに大きな悩みがあるようで、結論を引き延ばしてきたのが実情のようだ。
さっきも書いたようにこの学校は広い意味で村民の学びの機会を拡大していると言えるし、
主に伊賀地域ということにはなるが、実際に学びの選択肢を増やしていると言える。
村外からの進学は僅かながらに村の交流人口を増やすものでもあると言える。
ただ、一方でこの学校が重要かと言われるととても難しい。
奈良県にとってみれば全日制高校の充実は問題が無いという立場だろうし、
三重県にとってみれば山添分校に進学できることはそもそも重要ではない。
伊賀地域にとっても地域内に一通りの高校はある状態で山添分校をバックアップする必要性には乏しい。
山添村が必要と考えるなら、奈良県は教員を雇うし、伊賀地域からも通うけど、
山添村がいらないと判断すれば、それでもかまわないということである。
長期的に考えれば校舎の改修とかも考えないといけないんでしょうけどね。
そこを乗り越えてまで存続できる学校かというとかなり疑問はある。
そもそも山添村というのは名阪国道が貫通する村であり、
村内・村外(多くは伊賀地域)の工場などで働く人が多いのである。
奈良県の辺境の山村というイメージよりは都市的ではないかと思う。
そこに農業科と家政科の昼間定時制高校なんて時代錯誤も甚だしい。
でも、それが村のアイデンティティなんだと言われれば否定はしませんよ。