父日本人で日本国籍を取得する条件

少し前にニュースになっていたが詳細な事情が最近出てきた。

比残留2世の日本国籍認めず 「就籍」申し立て、家裁が却下 (JIJI.COM)

太平洋戦争後にフィリピンに残された日本人の子が後に日本国籍取得を求めて、

裁判所の審判を経て就籍が認められた事例は過去にもたくさんあったはず。

なのになぜ認められなかったのか? 気になっていたのである。

年月を経て立証が困難なのが問題だと思ったが、それより問題だったのが嫡出子でなかったことである。


現在は父母問わず親が日本人であれば日本国籍が与えられるが、

1984年の国籍法改正以前は、母が日本人で父が外国人の場合は日本国籍は与えられないことになっていた。

父が無国籍とか不明の場合はこれでも日本国籍だったそうだが。

かつてはこういう制度は世界的にも一般的でフィリピンもそうだった。

すなわち太平洋戦争中やそれ以前に生まれた母フィリピン人・父日本人の子は日本国籍しか取得し得なかった。

しかし戦後の混乱により無国籍のまま、ここまで来たわけである。

現在は日本もフィリピンも両親いずれかということで一応解消している。


しかし、ここで問題となったのが法律上の親子関係が認められるかどうかである。

母子関係は特に問題ないが、父子関係を認める条件は大きく2つである。

1つは結婚している妻の子として生まれる場合。嫡出推定ですね。

その場合でも嫡出否認が認められると親子関係はなくなるけど。

もう1つが認知による場合で、基本的には父親の意志で行う必要がある。

しかし、父親が認知を拒めば親子関係が生じないのは問題があるので、

裁判所の審判により強制的に認知させる制度も存在する。


ところがこのケースでは審判で認知させることはできないんですね。

民法第787条 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。

父親の死後、長期間が経過すると強制的な認知はできないのである。

父親が遺言などで認知した事実もなかったので、後にDNA判定などの方法で親子関係が立証できても、法律上の親子関係は生じない。

それでも日本国籍は認めてもいいんじゃないかという裁判だったと思うが、

現在の法律の解釈としては認められませんねと。それ自体は仕方ない判断かもしれない。


わりと近年まで、母外国人・父日本人の場合に法律上の親子関係が生じるタイミングが問題となることがあった。

現在もそうなのだが、生まれた時点で親子関係により国籍を取得する方法は、

「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」となっている。

(生まれた時点で父死亡の場合は死亡時点で日本国民であればよい)

一見どうってことなさそうな規定なのだが、両親が結婚していない場合には問題がある。

出生時点で父親が決まるのは嫡出推定による場合か、胎児認知による場合しか存在しないのである。

生後まもなく父親が認知する意図があっても、胎児認知がなければ父不明という扱いになってしまうのだ。


このため、母外国人・父日本人で両親未婚かつ胎児認知なしの場合、出生時点で日本国籍は取得できない。

ただ、こういうケースを救済する制度として届出による日本国籍取得がある。

しかし2008年まではこの条件が「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のもの」となっていた。

生まれた時点で両親が婚姻関係になくても、後から結婚すれば夫婦間に生まれた子は嫡出子の身分を取得する。

これを準正と言うのだが、この条件を満たす必要があったのである。

すなわち母外国人・父日本人で日本国籍を得るためには、

両親が出生前後はともかく結婚するか、父親が胎児認知するかどちらかだったわけである。

なお、胎児認知は父親の意志で母親の同意を得て行う必要がある。

出生後の認知は父親の意志だけでできるし、裁判所が関与して強制的に認知させることもできる。

この点で従来は救済されない子がけっこういたわけですね。


このことがまさに母フィリピン人、父日本人のケースで問題になったわけですね。

2008年に最高裁判所で国籍法の規定は法の下の平等に反して違憲なので、日本国籍を認めるという判決があった。

これを踏まえて国籍法の改正が行われ。嫡出子の身分を取得するという条件がなくなり、認知のみでよいことになった。

もっとも従来の場合も日本人の子であることに違いはないので、

日本人の配偶者等の在留資格や、日本人の子としての条件での帰化は可能だったはずである。

帰化は日本国内に定住するのが条件だし、国の裁量権が大きいので、届出による国籍取得よりだいぶ不安定だが。

(裁判でもこのワークアラウンドがあるのを認めながら、法の下の平等に反すると判断している)


今回のケースも現在の法律上の規定としてはこうならざるを得ないという話なのだろう。

なので法律の方に問題があるという判断が必要になるのだろう。

おそらく死後の強制認知ができる期間に制限があるのは、

すでに行われた相続などに影響するのを避けるためなんだと思う。

平穏に相続した財産が、相続後何年もして奪われるようなことがあっては困りますからね。

だから今回の論点は無国籍状態を解消するという点だけのはずである。


とはいえ救済するべきという判断になるかは難しい。

今回は当時の日本・フィリピンが親子関係での国籍取得について父系優先だったという事情がある。

しかし、現在はそこまでして救済する必要はないという判断はある。

そもそも父親の死後、長期間を経ると、親子関係の立証自体かなり困難である。

これも戦後の混乱という事情があったから仕方ないという話だが、

こういう問題は本来は早期に解消しなければならないわけですよね。

総合的に見て現在の法律の規定は問題が無いという判断も十分あると思う。

一方で今回のケースは特殊ケースだと救済するべきという判断もあるし、

年月を経て立証が難しいなどの事情も考えて、やはり認める必要はないという判断もある。


気の毒な話だなとは思うんですけどね。

当時は母フィリピン人・父日本人の子はフィリピン国籍を取得できなかったが、

かといって2009年以前の国籍法の規定では両親が未婚のままでは日本国籍も取得できなかった。

(父系優先が一般的な時代でもこの規定だったのかはわからないけど)

となれば国籍取得は日本なのかフィリピンなのか帰化によるしかなかったわけですね。

ただ、ここまで先延ばしにするとさすがに困難だという考えはある。

今回はそれ以前の問題と突っぱねられているが、親子関係の立証だけでも難題だったはず。