巨視的なトンネル効果?

以前、新しいSIの定義の話を書いたときにこんな話を書いた。

ジョセフソン効果を決めるジョセフソン定数は 2e/hで、量子ホール効果を決めるフォン・クリッツィング定数は h/e2 とのこと。(e:電気素量. h:プランク定数)

ここで気づいたが、新しいSIの定義ではプランク定数と電気素量がそれぞれ定義値になる。

ということは、電気標準に使われる2つの重要な定数が定義値になるということである。

でも、実はすでにこの2つの定数は実務上は定義値らしい。

(電気エネルギーが先に決まるということ)

このジョセフソン効果を含む一連の研究にノーベル物理学賞が与えられることになったそう。

ノーベル物理学賞に米3氏 「トンネル効果」量子コンピューターに道 (日本経済新聞)


タイトルに「電気回路における巨視的な量子力学的トンネル効果とエネルギー量子化の発見」とあり、

「巨視的な」となっているところにポイントがあるらしい。


トンネル効果という、ポテンシャル障壁を粒子が通り抜ける現象がある。

フラッシュメモリでは、絶縁体を挟んだところにある浮遊ゲートに電子を蓄積して記録し、放出して消去する。

絶縁体を挟んだ先にある浮遊ゲートには古典的には電流は流れない。

しかし、電子には波動としての性質もあり、絶縁体を超えて電子が存在する確率が生じうる。

これを使って絶縁体に挟まれた浮遊ゲートと電子のやりとりができると。

この研究はトンネル現象に関する研究は1973年にノーベル物理学賞を受賞しており、

その受賞者の1人に江崎玲於奈氏がいるわけですね。


通常は電子も様々な量子状態があり、その中で絶縁体を越える状態も様々あり、

それで絶縁体を越える確率がこれだけあるという言い方になる。

でも、もしも電子の量子状態を1つだけにできれば?

絶対零度付近まで冷却していくと電子のとりうる状態が減っていき、

同じエネルギーを持つ電子ばかりになっていくのだそう。

絶対零度付近にある超伝導体と超伝導体の間に絶縁体を挟む。

そこで絶縁体を越えて流れる電流を測定する実験をしたそうである。


当然、普通には流れないのだが、トンネル効果により電子が通り抜けることが考えられる。

で、その流れる電流というのが波動の位相差で説明できるんですね。

通常はいろいろなエネルギーの電子が存在するところ、

絶対零度付近まで冷却しているのエネルギーが揃っているので、こういう説明ができるそう。

この位相差に相当する電流が流れるという特徴から、

もしも絶縁体を挟んで電位差がある場合は、交流電流が流れていて、

その周波数と電位差には関係があることが導かれ、これをジョセフソン効果という。

これを決めるジョセフソン定数は 2e/h という現在のSIの定義に出てくる数字で決まるというわけ。


外からマイクロ波を与えてやると、電圧特性がステップ状になり、

これを利用して正確な標準電圧を作っているということらしい。

正確な周波数、言い換えれば時間を測定できれば、そこから正確な電圧を出せるというわけで、

しかもその数字というのは計量単位令に書いてある数字を持ってくればいいと。

プランク定数はkgの定義、電気素量はAの定義に書かれている。


これらの研究によってもたらされたものは様々利用されているが、

期待されている用途の1つに量子コンピュータがあるそう。

量子コンピュータでは様々な量子状態を重ねて入れて、計算結果の量子状態を得るものだが、

この中でジョセフソン効果が使われているという。

最近ホットな話題が多く、これが受賞理由なんだろう。

でも、ジョセフソン効果で電気標準を作るのは1990年から始まってたので、

そういう意味では今さらの技術ではあるんですけどね。