先日、こんなニュースが出ていた。
「初動に人災」「阪神の教訓ゼロ」 能登入りした防災学者の告白 (朝日新聞デジタル)
こう言うのは酷ではないかと思うのだけど、「石川県の災害危機管理アドバイザー」ということで身内の話でもある。
有料記事なのであまり読めないかもしれないが。
過去の大地震と比較しても救援の難しさが際立っているのではないか。
今回の能登半島地震は交通の寸断が深刻で、七尾~珠洲は1ルートしか取れない状況が続いている。
苦しんでいる被災者を目の前にして、「道路が渋滞するから控えて」ではなく、「公の活動を補完するために万難を排して来て下さい」と言うべきでした。(略)
交通渋滞の問題ならば、例えば緊急援助の迷惑にならない道をボランティアラインとして示す方法もあったのではないか、と思います。
行政のやらないことをカバーするボランティア団体が各地にあるのだから、
なんとか来てもらえるようにするべきだったのではという話である。
でも、使える道路が1本しかない状況では、その道路が詰まってしまえば、
消防・警察の活動も患者搬送も水・食料の輸送も道路・水道の復旧もできなくなってしまう
阪神・淡路大震災のときは阪神間の交通網がズタズタにやられたわけだが、
一方で神鉄・北神で神戸市内に入るルートは早期に回復したため、
このルートで支援に入った人も多いという話を聞いたことがある。
被災地を大きく迂回して被害の大きな地域に近づくことができたわけですね。
今回、道路の寸断により孤立した集落がいくつも出たわけだが、
海沿いならば海からの往来ができるのではないかと期待したところもある。
能登半島の特徴から海上輸送に期待したところはあるが、限定的な活躍に留まっている印象である。
港が被災したこともあるのだが、海況が悪いのもあるようだ。
また、ヘリコプターによる航空輸送も天候の悪化に苦しめられている。
冬の日本海側ということでこのあたりの状況がよくない。
陸路は天候に左右されにくいが、道路状況の悪さはなかなか打開できない。
これらの状況は民間団体だけでなく、公的な救援活動にも影響しており、
緊急消防援助隊の投入も小出しで、救命ニーズに追いついていない。本来は「想定外」を念頭に、迅速に自衛隊、警察、消防を大量に派遣するべきでした。
それができないのは道路状況の悪さもあったわけですよね。
そこをバイパスして海から入るという方法が取れればまた違ったのだが、それができる状況にはなかったのだろう。
七尾あたりまでなら比較的早期に2ルート以上取れるようになっていたし、
富山県側の氷見もそれはそれで被害が大きい地域だったし、
そういうところでは早くから民間団体も活動に入れたんじゃないかと思う。
能登地域といっても、交通状況は一律には言えないところがある。
これらの地域でも避難の長期化は避けられない状況で、継続的な支援が期待されているところはある。
でも奥能登に比べるとだいぶ被害は軽く、支援ニーズが低いことは確かか。
耐震性を欠く建物が多かったという事前の対策における課題や、
人口が少なく高齢化が進んだ地域ゆえの課題もあったことは確かである。
一方で同じ県内の加賀地域への2次避難という選択は比較的とりやすかった。
ただ、これもなかなか進んでいないようである。
加賀側の受け入れ体制については全く問題ないのだが、
なにぶん遠いので2次避難をためらう人が多いようである。
いろいろ調べてみると医療・介護の体制を継続させることに難しさがあるよう。
例えば、介護施設の入所者だけが加賀に避難すると、従来の体制が維持できなくなってしまう。
介護施設の職員も一緒に避難すれば体制は維持できるが、職員には家族もいる。
奥能登では中学生・高校生が加賀地域に避難して授業を受ける話がある。
学校の被災が深刻で、かつ避難所に使われている状況からすればよい話だが、他の家族と離れる点に課題がある。
その家族というのも実は能登で医療・介護に従事していることが多いようだ。
すなわち医療・介護が必要となる人がいれば、動くことが出来ないのである。
高齢化の進んだ地域というのは相対的にそういう職業の人が多くなる。
全部一気に動ければよいが、そこまでの踏ん切りが付くのは孤立集落ぐらいなのだろう。
集落全体で加賀地域への2次避難を選んだ地域の中には、道路の復旧が見通せない地域もいくつかあるのだと思う。
こうなると元のところに戻るというのはなかなか現実的ではないかもしれない。
制度的なことを言えば、防災集団移転ということで災害の危険がある地域がまとまって移転する制度がある。
津波・洪水・土石流などで被災した地域は再び被害を受ける可能性があるため、
この制度で安全な地域に移転するという方策が考えられる。
特に洪水被害が想定される地域だと、移転で引堤などの河川改修に必要な用地が確保できるメリットもある。
ただ、今回の地震は土砂災害による被害が大きく、そこで使えるのかはよくわからない。
今後も集落への土砂災害の危険があるとなって、地域で合意できれば防災移転もありうるが、
高々道路の寸断に留まるとなれば、対象にならないかもしれないし、
例え可能だとしても地域の合意形成が難しいかもしれない。
そうはいっても高齢化の進んだ地域では現地での再建ができない人も多いし、
再建を急いで地域外に転出する人がでてくることはやはり避けられない。
元いたところに戻れないにしても、早い内に能登には戻したいところですが。
と、交通の寸断は今後の生活再建にも尾を引く話である。
地理的特性を考えればやはりなんともしがたいところはある。
事前の耐震化にしても、あまりに厳しい揺れだったので、どれぐらい功を奏したか。
いろいろ制約がある中ではよくやってんじゃないかと思うんですけどね。
ただ、それが十分ではないですねと言われれば、それはそう思いますけど。