電気運搬船の使い方は何がある?

昨日、東海道新幹線の周波数変換所の話を書いた。

同期発電機がなくなると発生する問題があるところを打開したという話だった。

これと部分的に似ているかもしれない話。

パワーエックス、電気運搬船の初号船「X」の詳細設計を発表。25年完成を目指す (DRONE)


電気運搬船というが、単純にバッテリーを大量に積んだ船である。

余剰な電力を積んで航行して、需要地で放電するというもの。

蓄電池を運ぶというのは運搬にかかるエネルギーがあまりに無駄そうだが、

蓄電池なので機動的な充放電ができるというのは長所である。

その上で市場価格ではタダ同然になる電力系統で受け入れきれない電力を積み、

需要地で夕方など太陽光発電が減りながらも需要が高い時間帯に放電すれば、

その差額というのは相当に大きなものになると考えられる。

また、電気駆動も可能で、そうすればタダ同然で手に入れた電気で動けるわけである。


ただ、これを太陽光発電が盛んな九州から関東圏への運搬に使うのはなかなか実用的ではなさそうだ。

確かに九州電力と横浜市港湾局と、それっぽい名前は並んでるんだけどね。

宮崎~横浜は900kmぐらいあるが、電気だけでそんなに航行するのは難しそう。

電気での航行距離は100~300km程度を想定しているという。

900kmを普通に航行すると2日ぐらいはかかってしまう。

それなりに高価な船を使って、移動に燃料を使い、航行・放電・航行で5日ぐらいはかかる。多分割に合わない。

多分、九州に留まり、昼に充電、夕方に放電を繰り返す方がお得だと思う。


なのでもっと近くで使いたいということであろう。

洋上風力発電との組み合わせも考えられているようだが、まずは陸から陸でやるという。

一体どんな使い道があるんだろうといろいろ考えてみたのだが、

そういえば九州って独立した電力系統を持つ離島が多かったよなと。

そんな離島こそ太陽光発電の制限が問題になっている。


それが顕著な島が種子島である。

2015年に日本で初めて太陽光発電の出力制限が行われた地である。

種子島には内燃力発電所、ディーゼルエンジンを回す発電所がある。

内燃力発電所はコンパクトであるとともに、始動・停止が容易であるのも特徴。

ただ、急に太陽光発電の発電量が減少したとき、それをすぐに補うには発電所が動いてなければならない。

それに対応できる下げ幅が発電機の出力の50%だったという。

このため種子島では太陽光発電が多い時間帯でも内燃力発電が50%を占めることになる。

なお、蓄電池が充電された時間帯では、太陽光発電の出力が急に下がったとき、

追加の発電機を動かすまでの時間稼ぎに蓄電池を使えるそうで、

これにより太陽光発電の受け入れ可能幅を増やしている部分もあるそう。


このあたりは狭い島特有の問題でもあり、同じ太陽光発電でも広域に分散していれば、

急激な出力低下といっても太陽光発電がほぼ0になる想定はしなくてよい。

一方で九州では夕方以降のために石炭火力発電所が必要で、石炭火力発電所は機動的に始動・停止が難しい。

なので必要な石炭火力発電所は出力を15%まで下げて運転し続けているそう。

(かつては1機残して日中停止していたが、故障すると大変なのでやめたらしい)

風力発電が増加するとこのあたりの事情も変わってくるのかもしれないが。


というわけで、種子島のような離島に大型蓄電池船がやってくると、

太陽光・風力発電の多い時間帯は、余剰な電力を貯めつつ、急激な出力低下時に放電できるように備える。

こうすると内燃力発電所の運転台数を減らすことができそうだ。

少ない時間帯は蓄電池から放電して、内燃力発電の肩代わりもできる。

日単位ではこうして島内の調整をして、全体として余剰な電力を運び出す。

種子島から志布志までは85kmほど。これなら電気駆動の想定範囲である。


離島での再生可能エネルギーの導入拡大と、離島の電力供給の安定化に寄与するので、

こういう使い方はメリットを感じやすいかもしれない。

発電に向かない天候が続くときに他地域の電力を島に運ぶこともあるかもしれない。

内燃力発電所をなくすことはできないだろうが、稼働率は大きく下げられそう。


実際、この船はどういう使われ方をするのだろうか。

やはり洋上風力発電との組み合わせなんだろうか。

送電線を通じて時価で売却するより、輸送費はかかるが送電線なしで高価なところで売る方がお得というのが成り立つとすればあるのかもなぁ。

少なくとも冒頭に書いたような九州~関東みたいな使い方をするもんじゃないな。


蓄電池は機動的に充電・放電できることに期待があるが、

この機動性を発電所に持たせることができれば経済的である。

レシプロエンジン発電に脚光、機動性理由に東京ガスが30万kW導入 (日経xTECH)

ガスタービンじゃなくてガスエンジンを使った発電があるという話。

停止状態から90秒でフル出力になるとかそんなんらしい。

熱効率はコンバインドサイクルに劣るが、運転時間が4時間以内なら経済的と。

だから離島以外でも内燃力発電所の出番が増えるのでは? という話。


機動性という点では太陽光・風力発電もそうである。

というのも現在はこれらの発電所には指令により出力を止める機能を持たせている。

出力制御というとネガティブな印象もあるかもしれないが、

他の発電所と違うのは出力制御を解除すれば、すぐに発電が再開できること。

出力制御にかかるのは発電が多い数時間のみで、それも輪番である。

出力制御が解除されればすぐにフル出力に戻ることが出来る。

この下げる方向の機動性の高さは他の発電所にはなかなかない特色でもある。

発電を止めるのはもったいない気がするけど、全体としてわずかな時間帯のために余剰な電力を吸収する設備を作るのもなかなか経済的ではない。


電気運搬船は発電所自体に調整機能を持たせるより高価な方法だとは思うのだが、

時間帯・地域をまたぐことで得られるものもまた大きい。

マネージメントとしては難しいと思うのだが、条件次第では役立ちそうだ。