回転する発電機が必要だった理由

このニュースを見たとき意外だなと思ったんですが。

東海道新幹線の周波数変換装置が2037年度ですべて静止型に JR東海が発表  (TECH+)

東海道新幹線は東京~新富士では50Hz地域を走るが、全区間に渡って交流60Hzの電気で走っている。

後に開業した北陸新幹線では沿線の電源周波数に合わせて50Hz/60Hz両対応になっている。

この都合により、東海道新幹線には50Hzから60Hzに変換する変電所があるが、

なんと50Hzの電気で発電機を回して60Hzの電気を作る設備がまだ残っているという。


確かに当初の周波数変換は全てモーターを回す方法で行っていた。

電力会社の周波数変換所は最初からスイッチング素子を使った方法なのだが、

他励式変換器といい、他の発電所が動いているのが前提である。

東海道新幹線の開通当初はモーターを回すのが最も合理的だったと。

しかし、後に大容量の自励式変換器が作られるようになった。

これならば他の発電機に依存せずに電力供給が可能で、設備もコンパクトになる。

モーターを回すより効率がよいのは言うまでもなく、東海道新幹線では2009年から導入が始まったという。


段階的に置き換えが進められてきたが、まだ回転式は残っている。

西相模周波数変換所の2機は2027年度末に静止型への置き換えが決まっているが、

綱島周波数変換所の2機は技術的な問題があり、この時点では残ることになっていた。

しかし、打開策が見つかったということで2037年度末に全てが静止型になるという。


なにが問題だったのか。

伝統的な発電所というのは同期発電機を使っている。

系統内の全ての同期発電機は同一周波数を出すように回っている。

この特徴はごく短時間の需給バランスを保つために役立っていて、

急激に負荷が増加したときには、全ての同期発電機が揃って回転数を下げ、

回転エネルギーを放出して電力を供給するという挙動をする。

回転数が下がると電源周波数も下がるが、それを打ち消すように発電量を増やすことで短時間の需給バランスを取っているわけである。


全てが静止型の周波数変換器になると、このような機能が完全に失われる。

新幹線において急激な負荷増減が発生するケースとしては、

架線の地絡とダイヤ乱れ時に発生する列車集中があるという。

この2点に対処できれば、全ての周波数変換器を静止型にできる。

架線の地絡については電圧を下げるという方法で対応できるとのこと。

ダイヤ乱れ時については、運行管理システムによる調整を行うという。

このあたりは負荷を全てマネージメントできる新幹線だからこその方法か。


この問題はもしかすると新幹線だけの問題ではないかもしれない。

というのも太陽光発電・風力発電の導入拡大が進みつつあるから。

すでに需要に対して太陽光発電が集中するときに太陽光発電の出力抑制が発生しているが、

今のところは火力発電を最小限生かした状態を保っている。

現在、火力発電を最小限生かすのは日が落ちる夕方以降に備えてのものだが、

風力発電の拡大が進み、蓄電池の充実が進むと、それもほとんどいらなくなる時が来るかも知れない。

まとまった時間で停止できる火力発電所が増えれば、それだけ燃料の節約になる。

しかし、そうして火力発電が止まっていくたびに同期発電機の調整力が減っていってしまうのである。


この問題に対して、外国では同期調相機を設置するという対応例があるという。

同期調相機とは無効電力調整のために無負荷の同期電動機を接続するもの。

ただ、現在は無効電力調整の役目はコンデンサであったり、

スイッチング素子を利用したSTATCOMという機器で代替されたという。

同期調相機は無駄に回転するのでメンテナンスやエネルギ損失に難があると。

しかし、電力の需給バランスを回転エネルギの出し入れとして調整できるという点で注目されていると。

不要になった発電所の同期発電機を改造することで作ることができるのも長所。


実際のところ、どうなるかはわかりませんが。

この機能を蓄電池に持たせるという考えも当然ある。

まだ、系統に組み込まれている蓄電池の量がそこまで多くないので、

揚水発電のように昼間に蓄電して、夕方に放出するぐらいの使われ方だが。

しかし、蓄電池の速さを生かした使い方として短時間の需給調整は想定されている。

まずは火力発電所と蓄電池の協調で対応することになりそうですが。