「株式報酬で税負担増も、税率最大55%に 国税庁が見解」というニュースが流れていて、
詳細は読めていないのだが「信託型ストックオプション」と呼ばれる物に関連しているらしい。
というので、ストックオプションと税金の話。
ストックオプションは一定の価格で株式を買える権利、日本語で言えば新株予約権ですね。
役員・従業員の報酬として使われることがあり、特にベンチャー企業で効果が大きいという。
これはストックオプション自体はお金がかかるものではないこと、
役員・従業員が会社の価値を高めるよう努力するインセンティブが働くこと。
裏返せば株価が上がらなければなんの価値も生まないものなんですけどね。
役員・従業員がストックオプションを付与された場合、
ストックオプションを行使したとき、行使価格と株価の差が給与として扱われる。
株価が大きく上昇した場合、このタイミングで多額の所得が発生し、
累進課税のシステムと相まって高額の税負担になることがある。
しかし、ストックオプションを行使しただけだと手元にあるのは株式、
株式を売却しなければ納税に窮することになるが、インサイダー取引との兼ね合いもあり売却が容易でないこともある。
このような事情からストックオプションには典型的な使われ方がある。
1つ目は税制適格ストックオプションというもの。
これはいくつの条件を満たせば行使時に給与としての課税を行わず、
売却時の課税となり、分離課税(所得税・住民税あわせて約20%)の対象になる。
ストックオプション行使時に納税に窮する問題と、行使した年に多額の課税をされる問題が回避できる。
満たすべき条件はいろいろあるが、最も大きな制約が年間の権利行使価格の上限が1200万円となっていることらしい。
あまりに株価が上がってしまうと、この枠内でストックオプションが消化しきれなくなる。
総合課税に比べて有利な分離課税が適用される都合、このような制約が設けられているのだと思うが。
2つ目は株式報酬型ストックオプション、あるいは1円ストックオプションとも。
条件を満たせば典型的に1株1円で買える権利を与えるもので、
これは条件を満たせば株式をもらえるということにほぼ等しい。
これは役員の退職金として使われることが多いそう。
なぜならばストックオプションは行使時に課税されるため。
退職時に行使できるストックオプションは退職所得として扱われるのだ。
そうすると税額は給与に比べて少なくとも半額には圧縮される。
3つ目が有償ストックオプションと呼ばれるもの。
これはストックオプションを有償で買うということを表している。
給与ではなく純粋な金融商品としての課税が行われる。
欠点はストックオプションを買うためのお金が必要なこと。
発行時点の株価で株が買える権利というのもタダではないんですよね。
ただ、行使できる条件を制限するとストックオプションの価格は安くなる。
こうして買いやすい価格にした上で、行使条件を満たすように、会社の価値を高めるように努力すると報われますよということである。
冒頭に書いた「信託型ストックオプション」は有償ストックオプションの一種ということになるのかな。
ただ、ストックオプションを買うのは従業員ではない。
信託型ストックオプションの典型例はこんな形らしい。
- 委託者(オーナー経営者など)が信託の受託者に資金を拠出する
(この時点では受益者が決まっていないことがポイント) - 受託者は会社からストックオプションを購入する
- 信託終了時(上場時など)に会社が決定した受益者(役員・従業員など)にストックオプションを与える
信託というのもいろいろあって、受益者を後から決める信託というのがある。
例えば、まだ生まれていない孫を受益者とする信託などが一例である。
ストックオプションを信託するメリットの1つが信託した時点の行使条件が保たれること。
ストックオプションは付与するタイミングの株価で行使価格を決めるのが一般的、
通常は早く会社に加わった人ほど有利なストックオプションが得られる。
それが成果に見合っていればよいが、早く会社に加わっただけで貢献度に見合わないほど大きな利益を得てしまうケースもある。
ストックオプションを報酬として使うのはこのような不公平さもある。
そこで信託終了時点で関わった役員・従業員の貢献度を評価して、
その評価に応じてストックオプションを分配することで、この不公平を解消しようとしたわけである。
ただ、この方式にはそれだけではないメリットがあるとされていた。
それが給与としての課税を逃れられるという点である。
信託からストックオプションが割りあてられ、これを行使したら、
給与としての課税が発生しそうに見えるのだがそうはならないという。
受益者がまだいない信託に適用される法人課税信託という仕組みによるらしい。
信託というのは受益者に課税されるのが原則だが、
受益者がまだいない場合は信託に法人税が課税されるという規定がある。
この時点で課税されているので受益者が決まった後の課税はないということらしい。
ただし、受益者が委託者の親族である場合は、贈与税または相続税とすでに支払った法人税の差額が課税される。
このため、ストックオプションを行使するときに給与としての課税はなく、
株式売却時に行使価格と売却価格の差が分離課税の対象になる。
ここには年1200万円の上限もないという主張がなされていたらしい。
しかし、国税庁としてはそうではないという見解を出すということである。
形式上はともかく、実態は会社が従業員にストックオプションを付与しているだけで、
これは給与として扱うストックオプションと何も変わらないじゃないかと。
確かにこれが給与として扱われないのは正義に反すると思う。
税制適格ストックオプションという制度がすでに存在する中で、
この枠から逃れることを大きな目的としている点もよくない。
貢献度に応じて後から付与できるというのは確かにあるかもしれないが、
それって結局は信託終了のタイミングでボーナスを計算しているだけだし。
全てにおいて、目をくらませるためだけに信託を使ってるだけなんだよな。
すでにかなりの企業に普及しているため、裁判になるのはほぼ確実だろう。
やはりそれなりの理論武装があって導入された仕組みではあるので。
ただ、国税庁の言うように給与として課税するべきという判決が出てしまうと、
それで損害を被るのは最終的な受益者となる役員・従業員である。
となれば、信託終了前に なかったことにするのが現実的なんだろうなぁ。
制度間のバランスを考えれば明らかにおかしいわけですから。
というわけで一部においては相当に衝撃的なニュースだったようである。
ストックオプションもメリットあるケースはあるけど、現実にはなかなか難しく、
困った挙げ句に信託なんて持ち出したけど……って話かね。