知床半島の観光船が沈没か、乗客乗員の生存は絶望的か。
そうなる前に救助に行ければよかったのですが、知床半島の立地では急行するのも大変である。
たどり着いたとしても荒波の中では救助は大変である。
その上にあまりに冷たい海では長時間待てませんから。
事故を起こした時点でもうダメなのは決まってたのかも知れない。
まだ全貌はわかってませんからなんとも言えませんが。
さて、船の安全設備は航行区域と船の大きさなどの条件で決まるが、
航行区域が広い船ほど多くの安全設備を備える必要があるのは確かである。
その航行区域は平水区域・沿海区域・近海区域・遠洋区域となっているが、
実務的にはさらにこれらの間の航行区域もあるためより複雑である。
- 平水区域: 湖・川・湾内など波・風の影響が少ない水域 (ex. 東京湾・琵琶湖)
- 沿岸区域: 沿海区域の範囲で海岸から5海里以内 (ex.八幡浜~臼杵)
- 沿海区域: 日本・朝鮮半島の海岸から概ね20海里以内 (ex. 東京~御蔵島,下関~プサン)
- 限定沿海区域: 母港からの距離を制限した沿海区域
- 限定近海区域: 沿海区域の範囲を拡大して海岸から離れて直線的に航行できるようにしたもの (ex.舞鶴~小樽や東京~那覇を直線的に航行する場合, 東京~八丈島)
- 近海区域: 東経175度・南緯11度・東経94度・北緯63度に囲まれた範囲(ex. 東京~青ヶ島・小笠原諸島、那覇~先島諸島・大東諸島など)
- 遠洋区域: 全世界の海(ただし高緯度地域などでは必要な設備が変わる)
この法規制は近年ゆっくりと緩和されてきた経緯がある。
なぜかというとプレジャーボートの運用には厳しい傾向があったためである。
例えば、かつては沿海区域はトカラ列島と奄美大島の間で切れていた。
これはこの間の距離が40海里より少し長かったためである。
なので、九州~沖縄を航行する船はかつては必ず近海区域(限定近海含む)以上の航行区域が必要だった。
定期的に航行するフェリーや貨物船はそういう要件を揃えればよいだけだが、
プレジャーボートにとってはこの区間を往来するためだけにあれこれ揃える必要がある。
これは負担が重いということで、安全面からどうか検討された結果、陸から20海里は少し超えるが沿海区域に含んでも問題ないだろうと緩和された。
なので現在は陸から大きく離れず航行すれば九州~沖縄は沿海区域で航行可能である。
さて、今回の知床半島の観光船は陸近くを航行することから、沿岸区域以上の航行区域があれば足りる。
事故が起きた船は元は瀬戸内海で使われていた船みたいですね。
瀬戸内海だと平水区域の船で足りる範囲が多いので、それよりは1ランクは上げないといけないけど。
しかしそれだってそんなに大した差はないはずである。
(最小限の設備追加で対応できるように沿岸区域や限定沿海区域という設定があるのであって)
陸から近いならそれぐらいの設備でも問題ないはず……だった。
しかし、知床半島というのは陸路での往来が難しく、だから海上観光が行われていたわけだけど、そういう中で陸から近いことはそんなにメリットはない。
推定される事故地点から母港となっていたウトロ漁港の距離は25kmほどである。
比較対象としてよいかは微妙だが、本州と隠岐諸島で有人島から離れて航行する範囲が49kmほど、その半分だと25kmである。
だから陸からは近いんだけど、実際に救助に行くことを考えれば、隠岐に行く船が陸から一番遠いところで事故にあったのとそんなに変わらない可能性があると。
もしかするとそれより悪いかも知れない。
こちらは境港という重要港湾からも近いし、付近を航行する船は比較的多いはずである。
観光船同士の情報交換などの協力関係が安全航行に寄与してきた実情はあるようだ。
しかし報道されているようにこの船は他の船が出ない中で出港していったため、当然、他の船に助けてもらえるわけもなく。
この状態で出たのが無謀というのはその通りなんでしょうけど。
ただ、他の海域なら陸からそう離れなければ比較的安全に航行できて、万が一のときも救助もしやすいはず……というのは成り立たなかったのは確かかもしれない。
これを見て思ったのは海の安全というのは、船同士の協力関係によるところはけっこうあるんだなと。
ここでも瀬戸内海は難しい海だという話をしばしばしているけど、
一方でそういうところで事故を起こした船が近くにいた船に速やかに救助されるようなことは聞く機会もけっこうある印象である
事故を未然に防いだ取り組みを含めればもっともっとあるでしょう。
そう考えると無謀な出港というのがなにもかも悪いという話にはなるが、
そこの判断の妥当性は今後問われることになるんじゃないかなと。
乗員から話が聞ける可能性は低いですから、調査するといっても陸にいる人から聞けることはそういうところに絞られるんじゃないかなと思う。