土曜日に保土ケ谷→武蔵小杉→羽沢横浜国大と乗車した話を書いたとき、
「特定の分岐区間に対する区間外乗車の特例」で認められた乗車方法だと書いた。
実はこれを書く前に確認する以前は「分岐駅を通過する列車に乗車する場合の特例」と混同していた。
この2つは類似点もあるが、特定の分岐区間の特例はより特殊な事情を反映している。
それで 特定の分岐区間の特例の鶴見駅関係の特例を見ていて、
あれ? これって特例でカバーされないの? と思った乗車パターンがあり、
調べてみたところ「尾久問題の類例」という指摘があった。
尾久問題って名前は聞いたことはあるけど、詳しく知らないのでそこを含めて調べた。
というわけでまずは特定の分岐区間の特例のリスト。
特定の分岐区間に対する区間外乗車の特例 (JRおでかけネット)
特定の分岐区間の特例は11パターン規定されている。
便宜上、上から順番にNo.1~No.11と書くこととする。
分岐駅通過の特例と特定の分岐区間の特例の違いは2つあるようである。
分岐駅や折り返し区間の駅へ行く場合も折り返し乗車ができる場合があること、
分岐駅を通過する列車に乗るかは問わない場合もあること。
例えば、分岐駅通過の特例に 山科~京都 がある。
山科は東海道本線と湖西線の分岐駅だが、東海道新幹線とサンダーバードは停車しない。
これらを利用する人で両路線にまたがる場合は、山科駅で乗り換えることになっているきっぷでも、京都駅まで行ってもよい。
ただし京都駅での途中下車は禁止である。(新幹線絡みでは認められることもある)
しかし、この特例は山科駅で降りる人には適用されない。
京都市内発着のきっぷなら京都市内での折り返しは認められるのだが、
それ以外の場合では京都駅できっぷを切らないといけない。
また、山科で両路線で停車する列車に乗る場合は対象外。
山科は特急以外なら全停車なので、特急に乗らない人には関係ない。
何らかこれでは対応できないケースに 特定の分岐区間の特例 が設定されている。
一番多いのは運賃計算上の隣の駅に停車する列車がない場合。
- No.1 仙石東北ラインの高城町~塩釜は運賃計算上は松島で東北本線に合流しているが、実際は松島駅近くを通過するのみだから
- 仙石線と東北本線(一ノ関方面) の間は松島乗換のきっぷで塩釜まで折り返してよい
- 仙石線と松島の間のきっぷでも塩釜で折り返してよい
- No.3 尾久~上野の宇都宮線は日暮里・鶯谷に停車できないから
- 尾久と西日暮里~大宮・池袋方面、常磐線 の間は日暮里乗換のきっぷで上野まで折り返してよい
- 尾久と日暮里・鶯谷の間のきっぷでも上野で折り返してよい
- No.5~6 武蔵小杉~羽沢横浜国大の相鉄直通列車は新川崎・鶴見に停車できないから
- 東海道本線(横浜~小田原方面)・根岸線 と 羽沢横浜国大 の間は鶴見乗換のきっぷで武蔵小杉まで折り返してよい (No.5)
- 新川崎と羽沢横浜国大の間のきっぷでも武蔵小杉まで折り返してよい (No.6)
- No.7 上記に加え、武蔵小杉に停車する列車は鶴見・新子安・東神奈川にも停車できないから
- 鶴見・新子安・東神奈川・横浜線・鶴見線・東海道本線(川崎~蒲田方面)・南武線(川崎のりかえ) と 羽沢横浜国大 の間は鶴見乗換のきっぷで、横浜・武蔵小杉と2回折り返してよい
- No.8 新川崎~横浜で横須賀線の列車は鶴見・新子安・東神奈川に停車できないから
- 東海道本線(川崎~蒲田方面)・鶴見線・南武線(川崎乗換) と 新川崎~西大井・南武線(武蔵小杉乗換) の間は鶴見乗換のきっぷで横浜まで折り返してよい
- 鶴見・新子安・東神奈川・横浜線 と 新川崎~西大井・南武線(武蔵小杉乗換) の間のきっぷでも横浜まで折り返してよい
- No.9 大川発着の鶴見線支線は本線との分岐駅、武蔵白石に停車できないから
- 大川 と 鶴見線(浜川崎~扇町)・南武線 の間は武蔵白石乗換のきっぷで安善まで折り返してよい
- 大川と武蔵白石の間のきっぷでも安善まで折り返してよい
- No.11 瀬戸大橋線を走るマリンライナーは児島~坂出で運賃計算上は宇多津駅を通過しているが、実際は離れた地点を通過するだけだから
- 特急ならば宇多津駅に停車するが、普通列車は現在はマリンライナーのみ (昔は宇多津停車の普通もあったが本数は極少)
- 岡山県内 と 予讃線(丸亀~松山方面) の間は宇多津乗換のきっぷで坂出まで折り返してよい
- 岡山県内 と 宇多津 の間のきっぷでも坂出まで折り返してもよい
No.11は特急なら児島~宇多津の隣駅同士の移動もできるが、特急以外になければそれは移動手段が存在しないのと同じだろうとこちらに入れた。
ほとんどは上記のケースだが、No.2,4,10は本来の接続駅で乗換できなくもないケース。
- No.2 東北本線(西日暮里~大宮方面) と 常磐線(三河島~水戸方面)は日暮里乗換のきっぷで上野・東京まで折り返してよい
- 日暮里・上野に停車する列車同士でも、上野・東京まで折り返してよい
- No.4 湘南新宿ライン(西大井~横浜方面) と 東海道本線(品川~東京方面)は品川乗換のきっぷで大崎駅で乗り換えてもよい
- 湘南新宿ラインは運賃計算上は品川駅を通過する扱いなので、大崎で乗り換えると品川を2回通ることになる
- No.10 大阪環状線(今宮~西九条方面)とJR難波の間は今宮乗換のきっぷで新今宮まで折り返してよい
- 環状線・大和路線の双方が今宮停車の列車でもよい
- 明確な理由はわからないが今宮での乗換が不便だから?
かつては 福北ゆたか線(東水巻~直方方面)と鹿児島本線(折尾~博多方面)でも黒崎までの折り返しを認めていた。
これは折尾駅で福北ゆたか線が使う短絡線ホームが他と離れていたから。
折尾駅を停車する列車同士でもこれでは面倒なので特例があったと。
立体化に伴い移設され、短絡線も同じ駅舎に入るようになって廃止された。
No.2で上野までの折り返しはともかく、東京までの折り返しを認めている理由はよくわからない。
No.10は今宮駅の環状線ホーム設置が1997年と後発なのも関係があるかも。
ただ、JR難波~新今宮~今宮という乗車ができる理由は謎である。
さて、長々と書いてきたのだが、冒頭に書いた「尾久問題」というのは、
赤羽~上野で尾久経由の宇都宮線を使って、日暮里で他に乗り換える体で日暮里~上野を折り返し乗車できるかという話である。
もしも日暮里~上野で分岐駅通過の特例があれば当然可能である。
でも、日暮里駅周辺で使えるのは特定の分岐区間の特例 No.2,3 のみである。
No.2の図には尾久経由で日暮里~赤羽を結ぶ線はないが、暗黙的に存在するというのが現在の定説である。
日暮里~赤羽を通過する場合は、経路特定区間と呼ばれるルールがある。
田端経由の本線(新幹線含む)も尾久経由も区別せず短い方のきっぷを売って、どちらか自由に選べる。
大宮方面から尾久経由の宇都宮線に乗っても、田端経由と同一視されてNo.2の特例が適用できる。
これはほぼ確かでこのようなケースでは上野・東京まで折り返し乗車できる。
ただし、本線と尾久経由の両方にまたがるきっぷは区別が必要になる。
例えば、池袋~田端~赤羽~尾久~(日暮里)~常磐線 というケースである。
それでも「西日暮里以遠の各駅」に尾久経由で行く赤羽が含まれるとすればNo.2の特例が適用でき、上野・東京までの折り返しが認められる。
これはやや議論が分かれるところだが、まだ成り立ちそうな気がする。
昔はNo.2の特例が大宮駅より遠くから来る場合に限られていたらしい。
新幹線開通前に東京発着の東北本線・常磐線の優等列車があった時代である。東京駅までの折り返し乗車を認めていたのはその時代の名残とみられる。
(新幹線工事のために上野発着に一本化され、近年に上野東京ラインとして再建された)
そのような事情からNo.3の特例を尾久を通過する場合にも適用できないのはおかしいという主張もあったようである。
現在の規定ではNo.2とNo.3の特例は常磐線方面で上野までの折り返しならば差はない。
しかし、No.3の特例は鶯谷~日暮里~大宮・池袋方面と尾久の間も対象で、
これが認められると例えば 大宮~尾久~(日暮里)~駒込 も上野まで折り返してよいことになる。
今となっては無理がありそうだが、そういう解釈もある。
尾久問題の説明はこんなところで、だいたい3つの説がある。
「尾久問題の類例」があると書いたのはNo.8の特例のことである。
鶴見乗換のきっぷで横浜まで折り返してのりかえできるのは、
「新川崎、西大井または武蔵小杉以遠(武蔵中原または向河原方面)」発着に限られている。
これは 品川~武蔵小杉~(鶴見)~川崎 のようなきっぷがあっても、
横浜までの折り返し乗車が認められないので、鶴見での乗換が成立しない可能性を示している。
なお、横浜線への乗換については東神奈川~横浜に分岐駅通過の特例があるため、
品川~武蔵小杉~(東神奈川)~横浜~東神奈川~新横浜 は東神奈川乗換のきっぷで問題ない。
西大井~新川崎を通過する場合に特例が適用できないのが、No.3の特例の尾久と似ていると。
この区間にも経路特定区間があり、品川~鶴見は川崎経由と武蔵小杉経由を区別しない。
品川~鶴見を貫通するなら京浜東北線を選んで乗れるはずだから、横浜までの折り返しを認める必要はないと。
確かにそれはそうかもしれないが……
ただ、それならこの特例のもう一方「鶴見、新子安、東神奈川または川崎以遠(蒲田または尻手方面)、国道以遠(鶴見小野方面)もしくは大口以遠(菊名方面)の各駅」もどうなんだと。
川崎以遠(蒲田方面)には品川やそれより先の駅も含まれる。
品川~(鶴見)~新川崎 というきっぷを買って横浜まで折り返すというのは、
最初から横須賀線の電車に乗って品川~武蔵小杉~新川崎と直行すればいいじゃないかと。
でも、こちらは現在のルール上はOKである。
むしろ、湘南新宿ラインの列車が走る武蔵小杉経由の方が折り返しの合理性を主張しやすいように思える。
湘南新宿ラインは運賃計算上は品川駅を経由するが停車できない。
埼玉県方面から湘南新宿ラインで大崎まで来て、品川~横浜の京浜東北線停車駅に行く場合、
そのまま乗り続けて新川崎を過ぎると鶴見~東神奈川の各駅には戻れない。
(分岐駅通過の特例が認められる横浜線への乗換を除く)
なので、大崎~品川の1区間を山手線に乗り、京浜東北線に乗り換えるしか無い。
でも、本当にそこまでしないといけないの? 西大井と大崎でそんなに違う?
尾久問題は解釈が分かれるところはあるのだが、
宇都宮線~常磐線であればNo.2の特例で対応できる考えが一般的で、
現在はこれでほとんどのケースは救済されているので実用上の問題は少ない。
一方で、西大井~新川崎を貫通する場合の問題はほぼどうにもならない。
西大井~新川崎を通過する場合もNo.8の特例が適用できると主張するならともかく。
そもそも京浜東北線を選択しろというのはわからなくもないが、
他と比べて、あえて封じるほど変な乗車方法ではない気もするのだけど。