愛知県の矢作川にある「明治用水頭首工」が漏水で困っているという話。
愛知 大規模漏水 工業用水は利用可能も 農業用水のめどたたず (NHK)
とりあえずポンプで水をくみ上げることで工業用水分は確保できたとのこと。
引き続き農業用水分の暫定対策と、漏水の手当を行うことになるが、
なかなか漏水に対して直接的に対応できる方法がないことが難しいようだ。
この対応に当たってるのが農林水産省の機関である東海農政局ということからわかるように、これは元々農業用水のための施設なんですね。
こういう構造の物は通常「堰」と呼ばれるが、
その堰に「頭首工」という名前を付けるのは農業用水関係に特有のものだと。
もっとも今回、工業用水に影響が出ているように、多目的利用はされているのだが。
堰とダムというのは川をせき止めるという意味では類似した性質がある
河川法の規定ではダムというのは、堤高が15m以上のものと規定されている。
15m未満のものはダムとはみなされない。
なので通常は15m未満のものを堰と呼ぶのだと言われるけど、
実際のところ、もっと数量的に多いのは一般に「ため池」と呼ばれるものよね。
形式的にはアースダム(谷に土を積んだものをそう言う)であることが多いのですが。
堰というのは貯水を目的としているというよりは、取水を目的としたものが多い。
今回の明治用水頭首工は川の中間で水を安定的に取水することが目的で、
すなわち川をせき止めて、そこに水路を付けて、流量をコントロールしてると。
水位が下がると水路が機能しなくなるので、断水になってしまったわけだな。
ただ、なんとかして流れている水をくみ上げられればよいので、
土のうで取水施設に水が流れるように仕向けて、ポンプでくみ上げることで暫定対策している。
あるいは河口部に作られる堰は海水の遡上を防ぐという役割もある。
河口部では海水が上流に遡上してくることで、淡水のくみ上げが難しくなることがある。
川をせき止めて、海水が下流から上流に行くのを防げば、このような問題は起きない。
これにより利用できる淡水の量が増えるということが期待される。
これが治水目的になることがある。
洪水時の流下能力を増やすために浚渫が行われることがあるが、
洪水を流すのを妨げるということは、逆に海水の遡上を妨げていた場合もある。
この目的で作られた堰の1つが長良川河口堰で、けっこう効果はあるらしい。
貯水を主目的にした堰もないわけではないんだろうけど。
以前、愛媛県の銅山川に設けられた影井堰の話を書きましたね。
銅山川の水を愛媛県内で使い切るというところで気づいた人もいるかもしれないが、
銅山川3ダムのもっとも下流にある新宮ダムから下流には水を流さなくてもよいということになる。(略)
このままでは銅山川が枯れ川になってしまい環境への影響があるということで、
対策として新宮ダムの下流に作られた影井堰で、流量調整を行い、銅山川の維持に必要最低限の流量は保つようにしているそうだ。
ただ、新宮ダム自体には河川機能維持という役割はないので、常に流量が保たれているわけでもないらしく。可能な範囲でということのようだ。
もちろん安定的な取水のために水位を稼ぐのも貯水そのものではあるんですがね。
取水の安定性には問題はあるかも知れないが、とりあえずポンプアップでも水を水路に流せればOKではある。
土のうを積んだり、堰の一部を使って、少しでも水たまりを作って、そこにくみ上げ用のホースを突っ込んで、それでなんとかという状況ですね。
まだ農業用水用は対応できていないが、堰の機能が回復するのを待ってては農業への影響が甚大だろうから、同様にやるんだと思うけど。
ただ、両岸に取水施設があるから、果たしてどうやって対応するのだろう。
さて、今回の事象は堰の地下の水を通しやすい地層を通って、水が抜けたということですね。
通常、こういうことがないようにダムや堰の施工時には、セメントを流し込んだりして水を通しにくい層を作っておく。
ただ、なにしろ古い施設ですから、そこが不十分だったのか劣化したのか。
ダムや堰の工事でわりと早い段階でする処置が不十分か劣化したということであれば、修理というのもそれはそれで大変な話ではないかなと思う。
暫定的に水をせき止める施設を作らないとどうにもならないんじゃないかな。
当たり前ですが、ダムや堰を作るにも、川に水が流れていては作れない。
そこで川とは別にトンネルを掘ったり、川を半分に分けて水を流したり。
何らかの方法で水が流れない状態にして工事をせざるを得ない。
でも、よく考えればそういう工事をするのは川の水が少ない時期。
これからは梅雨前線・台風など川の水が増える可能性が高いからそもそも着手が難しい。
そもそも着手したところで川をせき止めるにはどう考えても時間がかかる。
秋頃まではその場しのぎのような対策で乗り切るしか無いのかも。
なかなか見ないトラブルですけどね。
どうしてもダムや堰というのは一度作ると手が入れにくい施設である。
それだけに最初にきちんと作ることが大切ではある。
しかしやはり予期できないトラブルというのはあるわけで。