昨日、直流送電の話を書きましたが。
日本海経由で北海道から電気を送る
日本で直流送電と言えば忘れてはいけないのが、周波数変換設備である。
60Hzの中部電力と50Hzの東京電力の間の送電は直流送電による必要がある。
これを周波数変換設備と呼んでるんですね。
この周波数変換設備、両社の営業エリアの境目付近にありそうなもので、
確かに東清水変電所はそういう立地なのだが、これは3番目に出来た設備である。
他はあんまり境目付近じゃないんですよね。
日本初の周波数変換設備は 佐久間周波数変換所 なのだが、
所在地は浜松市天竜区佐久間町、静岡県ではあるけど1kmも行けば愛知県豊根村なんですね。
かなり中部電力エリアに入り込んだところだが、なぜそこで60Hz地域と50Hz地域をつなごうと思ったのか?
その理由は近くにある佐久間ダムと佐久間発電所(水力)にある。
このダムと発電所はJ-POWERの施設で、1956年に運転開始している。
天竜川の豊富な水量と、大きな渓谷を生かした当時としては破格の大規模発電所である。
このため静岡県・愛知県境という立地にもかかわらず、60Hz・50Hzを切り替えて発電できる仕組みが導入された。
発電所からの電力を送る送電線もJ-POWERが建設・所有していて、
60Hzの電気は名古屋付近で中部電力の送電線に接続する佐久間西幹線、
50Hzの電気は川崎付近で東京電力の送電線に接続する佐久間東幹線で送られる。
両地域に大電力を送るのだから2つとも275kV送電線である。
これが1965年に日本初の周波数変換設備が佐久間町にできた理由だという。
この頃は大電力を扱える半導体素子がなく、水銀整流器(整流器という名前だがコントロールにより直流→交流の電力変換も可能)を使っていたという。
1993年には光サイリスタを使った設備に更新されている。
次に作られた周波数変換設備は新信濃変電所である。
信濃とある通り中部電力の営業エリアである長野県朝日村にあるのだが、
この変電所は東京電力の50Hz用の施設である。
なぜかというと東京電力は信濃川水系の水力発電の権利を持っていて、
このために長野県内に東京電力の水力発電がいくつかある。当然50Hzである。
特に1970年頃には揚水発電所が3つもこの地域にできて、大量の電気が出入りするようになった。
当時、送電線の大容量化のため500kV送電線というのが導入されつつあり、
水力発電所群と埼玉県方面と500kV送電線で接続するための変電所として作られたのが新信濃変電所だそう。
周りは60Hzの中部電力管内、その中に東京電力の営業エリアと大電力をやりとりできる変電所があるということで、ここも周波数変換設備の適地とされた。
そこで中部電力の275kV送電線が引き込まれ、1977年から周波数変換設備が稼働している。
そして3つ目が最初に「営業エリアの境目付近」と書いた東清水変電所である。
これ自体は中部電力が静岡市清水区周辺に電気を供給するための変電所で、
末端の需要家に向けて電圧を下げるために存在していた変電所である。
ちょうど営業エリアの境目付近ということで周波数変換設備が置かれることになったが、
実は中部電力にとっても、東京電力にとっても営業エリアの端なので、送電線の増強が必要だったのである。
中部電力側の送電線はもとも154kV送電線だったので、275kV送電線を新設する工事を行ったが時間を要したとのこと。
東京電力側は駿河変電所(富士市:東京電力の営業エリア内)まで来ていた154kV送電線を延長するのがやっとだった。
2021年、4つ目の周波数変換設備として飛騨信濃周波数変換設備が運用開始された。
飛騨と信濃とついているのは、60Hz側が飛騨変換所(高山市)・50Hz側が新信濃変電所と違うところにあるためである。
他の周波数変換設備は同じ敷地内に60Hz・50Hzの送電線を引き込んでいるのだが、
この周波数変換設備は2つの施設の間を直流送電線で結ぶ形で作られている。
どうしてこういう方法が取られたのか?
明確な理由は書かれていないが、おそらくは中部電力側の送電線の都合ではないかと思う。
飛騨変換所は越美幹線、越中と美濃を結ぶ500kV送電線に接続されている。
この送電線の沿線には目立った発電所や需要地はないが、おそらくは北陸電力と接続する南福光連系所(南砺市)のために作った送電線であろうと思う。
この送電線にはかなり余裕があるので、60Hz側の接続先に選ばれたのではないか。
現在、佐久間周波数変換所・東清水変電所の周波数変換設備の増強が進められている。
変換設備を増設すれば済むという話ではなく、接続する送電線の増強も必要である。
佐久間東幹線を増強し、そこから分岐して50Hzの275kV送電線を東清水変電所に引き込むルートを作り、
60Hz側も接続先の変電所を通る電力が増えるということで、変圧器の増設をしたり。
周波数変換設備が4箇所に分散して設けられているのは、地理的分散というのもあるかもしれないけど、周辺設備の都合もけっこうありそう。
結局のところ交流のまま接続できたとしても、送電線の増強、変圧器の増設といった対応は必要なんですよね。
50Hz地域・60Hz地域ともども連系線の強化を進めているが、これもけっこう大変なんですよね。
直流送電(周波数変換設備含む)がいらないけど、だからといってそう簡単ではないのはこういう事情である。