なぜ土地収用を使いたいか

成田空港のB滑走路延長、C滑走路新設の事業について、

B滑走路延長のための用地確保はできそうなのだが、C滑走路の用地が予定より遅れているとのこと。

以前紹介したのだが、成田空港ではセミオープンパラレル方式による滑走路増設を進めている。

誘導路が代替滑走路となり離陸用滑走路となる

B滑走路は当初計画エリアの南側の地権者からの用地取得が進まず、北側にシフトして延長、

ただ単に北側にシフトすると地上走行が長くなってしまう。

そこで南側にC滑走路を作り、風向きにより離着陸を使い分け地上走行を短くする。

さらに2本の滑走路をセミオープンパラレルの条件を満たすように作ると、

離陸と着陸を同時に出来るため空港の処理能力を高めることもできる。


ただ、C滑走路は明らかに新規に取得する用地が広域である。

なかなか大変だろうなと思っていたが、やはり大変らしい。

B滑走路も含めた事業全体での用地確保率は88.4%、

それなりとは言えるが、難しい土地ばかり残っているのだろう。

そこで土地収用に向けてまずは事業認定の手続きに入ろうという話らしい。

一見大したことない話だが、成田空港となれば大きな話である。


ところで用地買収が難航している要因としてはこう書かれている。

「親族間で土地の相続問題が解決していない」「取得の条件で折り合わない」「機能強化の趣旨に賛同しない」

3つ目の理由はともかく、あとの問題は収用で大きく進む可能性が高い。

収用の手続きは所有者の全部または一部が不明(所有者不明土地)、

遺産分割の協議が整わない場合、土地境界に争いがある場合でも進められる。

資料によれば土地収用のうち4割ほどはそんなケースらしい。

また、土地収用に当たっては収用委員会での審理が行われる。

損失補償について中立な立場で検討するのが収用委員会の役目で、

その結果をもって双方合意に至る和解というケースもけっこうあるよう。


ところで土地収用にはまず事業認定が必要だと書いたのだが、

都市計画施設については事業認定があるという扱いになる。

典型的には都市計画道路ですね。他の都市計画施設でもよいが。

成田空港は都市計画施設ではないから認定から必要だが、

理屈の上では空港を都市計画施設として決定することもできて、

調べたら調布飛行場は都市計画空港らしい。全国的にも珍しいよう。


地元からも土地収用を活用して、早期の滑走路増設を望む声はあったようだ。

用地確保に困難が生じているケースのうち、どの程度かわからないが、

土地収用の活用で円満解決するケースもそれなりなのだろう。

とはいえ、成田空港と土地収用には悲惨な歴史もある。


成田空港が用地確保に苦心した空港であるというのは知られているが、

初期には用地収用を多く活用し、それでも立ち退かない土地に行政代執行を適用した。

その中では警察官3人が集団暴行で死亡している。

そんなこんなで開港を迎えて、B滑走路などの拡張事業を進める中で、

土地収用を進めるのに不可欠な千葉県収用委員会の会長が襲撃、

これにより収用委員会の委員を務める人がいなくなってしまった。

最終的に用地収用の取り下げが行われ、1994年以降は対立は解消に向かって行ったとされている。


2002年にB滑走路が2180mで暫定運用開始したのもこの成果で、

2009年の2500mへの延長、現在計画中の3500mへの延長につながっている。

ただ、屈曲した誘導路など、いかにも合意に至らない地権者の存在を示すものもある。

しかし、これまでの経緯もあり、ここに土地収用を適用しなかったわけですね。

一見どうかと思う話だが、ここには相当な理由があったんですね。


土地収用の事業認定が出ることで交渉が進む部分もあるだろうし、

土地収用を効果的に使うことで円満解決に至ることも大いに期待できる。

でも、かえって強硬化する地権者も出てくるのかも知れない。

制度上はそれを強制的に収用することはできるが、

それが原因で争いを引き起こすのは本望ではないだろう。

となればその土地を外した計画とかも考えるのかもしれない。


余談だが、所有者不明土地については地域福利増進事業のために利用できる制度ができた。

土地収用は用地を買収してしまう制度だが、こちらは土地を借りる制度である。

裁定で定められた補償金を供託することで、原則10年、要件を満たせば20年の使用権が認められる。

収用に比べると認められる事業の範囲が広く、集会所、購買施設、発電施設なんていうのもある。

ただ、この制度、まだ思うようには活用されていないようだ。

数少ない活用事例も防災広場・公園などの空地化を目的としたものである。


活用できていない背景には様々な要因があるのだが、

そもそも前提として所有者が不明であるということがある。

手を尽くしても所有者が見あたらない土地というのはそう多くないのである。

見つかった所有者と交渉して土地を借りたり、売却・寄付してもらえれば、これはこれでよいが、

所有者が交渉に応じないとか、所有者数が多く交渉が成り立たないケースはどうにもならない。

土地収用は交渉に応じないなら裁定で決まった補償で買収できる。

でも、それより範囲が広い制度なので、そこまでの強硬措置は執れない。

けっこう期待されてる制度なんですけどね。難しいんですね。