売春防止法の穴をふさぎたい理由

今さら? という話もあるのですが……

売春防止法、買う側の勧誘行為も処罰案 法務省、検討会立ち上げへ (朝日新聞デジタル)

どうもこれ、ある種の性風俗特殊営業を取り巻く環境が変化していることも理由なのかもしれない。


売春防止法というのは昔からある法律だが、まずこういう規定がある。

第二条 この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。

第三条 何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない。

ゆえに、昔から売春については売方・買方いずれに関与しても違法である。

ところが罰則規定があるのは下記に限られている。

  • 公衆の目に触れる場所での勧誘
  • 売春の周旋
  • 困惑等による売春
  • 売春の対償の全部または一部を収受すること
  • 売春させる目的で前貸しすること
  • 売春させる契約をすること
  • 売春を行う場所の提供
  • 居住させて売春をさせる業、そこに土地・資金を提供すること

といったところで、組織的な売春行為を取り締まることを重視している。

唯一、売春の勧誘については個人間取引でも発生しうるものである。

ここで取り締まられた女性を収容する施設として婦人補導院というものが2024年まで存在した。

もっとも1980年代以降は収容者はほぼいない状態が続き、有名無実だったというが。


さて、上記を真面目に考えれば、売春そのものは罰則がないが、

それを宣伝する行為については罰則があるので正面からやるのは難しい。

そこである種の性風俗特殊営業などを隠れ蓑にする方法が考えられた。

売春を宣伝するのは罰則があるが、性風俗特殊営業に列挙された営業であれば一応は問題はない。

そこで提供されるサービスは表向き、性交は含まれないとしておく。

商慣例により暗黙的に含まれていると解される店もあるわけだが。

その上で、店としては売春そのものには関与しないし、その報酬は本人が全て受け取る。

店としては売春以外の部分に対して報酬の一部を受け取るという建前である。

こういうことで一定の秩序により売春が行われていると言われている。


ところが、最近は売春場所の提供などで摘発される性風俗特殊営業の店舗が相次いでいる。

これは今さらの話ではある。店は関与しないと言ってもそこで売春が行われているのを知らないわけはないだろうと。

そうすれば売春場所の提供から逃れることはできないじゃないかと。

ただ、今まではそこは黙認されていたということなんですよね。

なぜ、今さら取り締まりが行われているのか? これはいくつかの側面があるよう。

1つは他の組織犯罪対策のため。スカウトグループの取引先を取り締まっているということである。

匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)とよばれるものの1つで、

その名前の通り、匿名かつ組織が流動的で取り締まりが難しいと。

そこでその取引先の検挙をきっかけに取り締まりを強化していきたいと。


もう1つは悪質ホスト対策の一環である。

悪質ホスト対策の改正風営法成立、6月下旬に実施 好意つけ込み禁止 (朝日新聞デジタル)

ホストクラブ側の対策に着目されることが多かったが、それ以外にも及んでいる。

売掛金の回収を目的として、顧客を性風俗特殊営業に紹介すること、

さらにその売上の一部を紹介料として支払う「スカウトバック」も禁止されることになった。

当然、こういう行為を行わなければ問題はないのだが、それでは商売が厳しいのが実情らしい。


そんなこんなで店舗を設けて実質的に売春を行う商売は難しい。

派遣して、その先で個人間の売春を行う行為であれば場所の提供の問題はない。

ただ、店側の関与が減る分、売春する側にとってのリスクは高い。

それを承知でやるという判断もあるのかもしれないが。

さらに言えばこういう商売でもスカウトバックの取り締まりの対象である。

こうなってくるとやはりこういう商売も難しくなるようである。


ともあれ、従来は一定の秩序により実質的に売春が行われていたが、

それが排除されてくると、より組織化されない、あるいは組織化されていないように装った売春が増えるだろうと。

これに関連して調べごとをしていて偶然発見したのだけど……

「援助交際デリバリーヘルス」か、北九州市の少年6人逮捕 女子中学生を勧誘し売春させた疑い (西日本新聞)

タイトルがほぼ全てなのだが、「援助交際デリバリーヘルス」はまさにそれである。

出会い系サイトで、実際に売春を行う人になりすまして相手を探して交渉し、

その上で成立した相手のところに実際に売春をする人が派遣されると。

外見的には個人間取引だが、実態は組織的な売春であると。

これもトクリュウが関与していることがしばしばあるようだ。


性風俗特殊営業への取り締まりが強化される中で、売春の形態がより悪質化しかねない。

ゆえに従来処罰の対象としてこなかった買方にも処罰が及ぶようにしていかないと、

より悪質な形態の売春に対処できないという危機感があるのだろう。

これは今さらの話ではあるが、悪質ホスト対策から地繋ぎの話とも言える。

なお、18歳未満に対しては 児童買春・児童ポルノ禁止法 が適用され、

売春防止法の売春よりさらに広い概念で買方に対して処罰を行うことができる。


一方で自分で分別が付くはずの18歳以上について、単純に同じ考えは適用できない。

このことは国会答弁でも言及されていたようで、

平口法相は昨年の国会で、「私生活上の行為として、あえて処罰の対象とすることまでは適当ではない」などの議論があり、性行為自体は罰しない現行法になったと経緯を説明。「国民の自由を不当に制限しないか、十分な検討が必要だ」と慎重な姿勢を示した。

というわけで、罰則を設けるにしても一定の類型を定義しないといけないのかなと思った。


冒頭に書いた定義に立ち返ると「対償」と「不特定」というのがある。

公衆の目に触れる場所での売春の勧誘は、不特定多数に対償を呈示している。

なのでこの要件に当てはまるのは明確で、だから罰則の対象にできる。

こういう行為に買方として関与することもまた罰則の対象にできるかもしれない。

ところが世の中に目を向けてみると「パパ活」とか聞きますけど、

金品は受け取るが、そこには対価性はないという名目である。

通常の人間関係におけるプレゼントの範疇であると。

どう考えてもそんなわけはないのだが、こういう主張が抜け穴になりかねないわけである。


これで売春を根絶できれば良いが、どうもそんな気はしない。

それは抜け穴が残るだろうということもあるが、分別の付かない人はいるだろうと。

買方にはまともではない人ばかりが残り、それでも売春から脱却できない人はより苦境に追い込まれる。

もうそういう傾向はあるんじゃないかと思う。

脱法的に売春を行う手法が減れば、見つからないように悪質化していくのは必然か。

あるいは日本の法律が及びにくいように外国で行うとか。

外国への人身売買もまたトクリュウが関与していることがしばしば。


どうせ売春の根絶に至らないなら、行政が関与して秩序を示すべきでは? という意見もありますが。

ただ、そもそも性風俗特殊営業も届出を受け付けるに留めていて、

これは行政が公認したものではないという建前によるものらしい。

こういう立場で一貫している以上、行政の積極関与は現実的ではない。

どうしてもこれまでの経緯を考えると仕方ないのかなとは思うけど、

なかなか思ったような効果は得にくいのだろうなと思うところ。