ウルグアイ市民権とパスポート

こんな怪しげな記述があって一体何があったのか気になった。

2025年4月16日以降に発給された新ウルグアイ旅券(身分事項ページ(顔写真の頁)に出生地欄の記載が無い旅券)は日本政府が有効と認めていないため、新旅券では日本に渡航できません。ウルグアイの査証免除の対象は旧旅券を所持するウルグアイ国籍の方に限ります。旧旅券を所持するウルグアイ国籍の方は旅券の発行日が2025年4月16日以降であっても、査証免除の対象となります。

(ビザ免除国・地域(短期滞在) (外務省))

新しいウルグアイのパスポートはビザ免除の対象外だという。

パスポートの有効性まで否定されているが、あくまでもフォーマットの問題のようだ。


出生地欄があるかというより“NACIONALIDAD/NATIONALITY”(国籍)欄を

“NACIONALIDAD/CIUDADANIA NATIONALITY/CITIZENS”(国籍・市民権)欄に置き換えたことの問題のようだ。

ここにはウルグアイ特有の事情がかなりあったようである。


ウルグアイにおいて国籍(Nacionalidad)は出生時に取得するしかない。

取得条件はウルグアイ国内で生まれるか、ウルグアイ国籍者の子として生まれるかである。

生まれながらしか取得できない代わり、喪失することは一切ない。

ただし、市民権(Ciudadania)は他国に帰化することによって失われる。

しかし、ウルグアイ国籍者が改めてウルグアイに居住した場合は市民権は回復すると規定されている。

日本でも日本人の子は日本国内に定住するだけで帰化要件を満たす。

親の意向で日本国籍を失った子の話

元日本人が日本国籍を回復する手法の1つである。


他方、市民権はウルグアイに滞在する外国人でも取得できる。

一定期間以上居住し、申請することにより取得でき、選挙権などを得る。

なお、在ウルグアイ日本国大使館のページには、

市民権を取得した場合は「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に該当し、日本国籍を喪失するとある。

ウルグアイ市民権の取得による日本国籍の喪失について (pdf)

じゃあウルグアイ市民権が日本で言うところの国籍なのかというとまた違う事情があるのだが。

でもこういう取扱は日本に限ったことではないので。


ところがこの状態で旧フォーマットのパスポートを申請すると困ったことがあった。

さっきも書いたようにウルグアイ国籍は生まれながらに取得するしかない。

一方でウルグアイ市民権を取得したことで、日本国籍は失った。

これによりウルグアイ国内では無国籍者と扱われることになるのだ。

市民権があればパスポートは取得できるのだが、国籍として書けるものがない。

このため“NACIONALIDAD”が無国籍扱いになることがあったという。

そうでなくても記載される国籍と実態の乖離が大きいことはあったようだ。


このことが国内外でいろいろ問題を引き起こしていたので、

ウルグアイ国籍がなくてもウルグアイ市民権があれば、

“NACIONALIDAD/CIUDADANIA“欄に”URUGUAYAN”と書くことにした。

ところがこれによりこの欄の意味が変わってしまったことが一部の国で問題になった。

その1つが日本なのである。

さっき国籍法の規定ではウルグアイ市民権を取得すると日本国籍を失うと言っておきながら、

ウルグアイ市民権は国籍とは異なるという言っているのである。

矛盾してないか? と思うのだが、後で書くが一応理由はありそうだ。


しかも困ったことに同時に出生地欄も消えてしまった。

少なくともウルグアイ生まれであることが確認出来れば、ウルグアイ国籍であることはわかる。

外国で生まれたウルグアイ人の子はこの方法では確認出来ないが、

そういうケースは個別対応でという話はあるかも知れない。

というわけでこれでは全く使い物になりませんねということらしい。


ビザ免除に限ったことを言えば両国間の取り決めが確認出来て、

ウルグァイとの査証免除取極 (pdf) (外務省)

古ぼけた書類だが「有効なウルグアイ旅券を持つウルグアイ国民」に6ヶ月までビザ免除で滞在できるとなっている。

6ヶ月? と思った人もいるかもしれないが、一部の国ではそういうのがあるんですね。

入国時には3ヶ月で上陸許可が出るが、出入国在留管理局で手続きをすると3ヶ月延長できる。

で、そのスペイン語表記は “Los nacionales uruguayos, en posesión de un pasaporte uruguayos válido” となっている。

すなわちウルグアイ国籍者であり、ウルグアイ市民権ではない。


さっきの国籍法上の扱いとは異なるわけだけど、

外国人という観点では日本政府はウルグアイ国籍(Nacionalidad)を国籍と考えている。

ゆえにウルグアイ市民権でパスポートを発行されている人は、

その国籍国(無国籍の場合もあるが)の国民として扱うべきと考えていると。

それを前提としてビザ免除の取り決めはしているじゃないかと。

ところがパスポートの形式が変わったことでこのような運用はおおよそ困難になったので、

そのようなパスポートを持つ人は事前にビザを取得するようにと。

「新ウルグアイ旅券は日本政府が有効と認めていない」というのは、

ビザを貼れないという意味なのか、ビザを貼れば有効という意味なのかはわかりませんが。


承認している国の発行する渡航書類は外国人に対して発行されたものでも有効であることが多い。

有効なパスポートとは?

日本に在留していて一時的に出国する場合は、再入国の手続きを取る。

現在は多くの場合は在留カード・特別永住者証明書とパスポートを呈示して みなし再入国 の手続きを取る。

ところが何らかの事情でパスポートを取得できない人はそうもいかない。

その場合には再入国許可書という冊子が発行されることになる。

典型例は朝鮮籍の人で、仮に「朝鮮民主主義人民共和国」のパスポートがあっても日本では無効なため。


再入国許可書は日本に戻ってくるための証明書として発行されたものだが……

実はこれは日本以外の国でもパスポート相当として認められて、ビザを受ければ、外国へ入出国するための証明書として使えるケースが多いらしい。

このように外国人に発行された渡航書類自体は認められることが多い。

ところが、これは日本のパスポートと同じ効果はないわけですよね。

日本のパスポートを持って韓国に行けばビザ免除の対象だが、

日本の再入国許可書だけ持って韓国に行ってもビザがなければ門前払いである。

事前に韓国のビザを得ておけば、それはそれで有効ということになる。


なお、朝鮮籍の場合、韓国へは北韓住民の渡航に発行される旅行証明書の発行を受ける必要があるよう。

果たして日本の朝鮮籍の人を北韓住民として扱うのが妥当かはわからないけど、

潜在的な韓国人として扱う妥当性はありそうである。

この旅行証明書もまた韓国のパスポートではないわけですよね。

だから、旅行証明書をパスポートとして再入国の手続きはできない。

日本を出国して戻ってくるための書類はやはり再入国許可書である。


これとはまた違う話だが、イギリスのパスポートには”Nationality”欄にはいくつかの表記がある。

“BRITISH CITIZEN”, “BRITISH OVERSEAS TERRITORIES CITIZEN”, “BRITISH NATIONAL (OVERSEAS)”などがある。

“BRITISH CITIZEN”は本土と周辺の王室属領にルーツをもつ人で、

一般的にイギリス国民といえばこれですね。

“BRITISH OVERSEAS TERRITORIES CITIZEN”は現在のイギリス海外領土にルーツを持つ人。

“BRITISH NATIONAL (OVERSEAS)”は1997年以前に香港に居住していた人に発行されるものである。

新規の取得はできず、更新だけ認められているというやつ。


この3種類は日本におけるビザ免除の効力が違うんですね。

“BRITISH CITIZEN”はビザ免除の対象で6ヶ月まで延長できる。

“BRITISH OVERSEAS TERRITORIES CITIZEN”はビザ免除の対象外。

“BRITISH NATIONAL (OVERSEAS)”は香港の居住権を持つ人が呈示する場合は、

香港特別行政区のパスポート同様に香港のパスポートとしてビザ免除の対象になる。

そう、日本政府は香港籍の人のビザ免除はイギリスと中国の双方に表明してるんですね。


制度的に差があるなら判別手段があればなんとでもできるわけで、

ウルグアイ国籍者 と ウルグアイ市民 を区別できる手段があればよくて、

まさにイギリスのパスポートのフォーマットはそれが実現できていると。

こういうのは世界的にも珍しいんですけどね。

あるいはウルグアイ市民と国籍者を同一視できるような取り決めを事前にしておくか。

そこを怠ったがために問題が起きているのではないかなと。

確かにウルグアイ市民権を後から獲得した人の従来の扱いはあんまりだし、

この変更自体はもっともな内容ではあるんですよね。