東京都多摩地域で児童相談所の新設を含む再配置が行われるらしい。
児童相談所は概ね50万人ごとに設置することになっている。
地域によりある程度幅があることは考えられるが20~100万人ぐらいだろうと。
ところが東京都では100万人以上の地域を管轄する児童相談所もあり、
概ね50万人程度という意義に合うように3つ新設し、計7つにするという計画である。
ところで児童相談所というのは基本的に都道府県が設置するが、市が設置する場合もある。
児童福祉法 第五十九条の四 この法律中都道府県が処理することとされている事務で政令で定めるものは、指定都市及び中核市並びに児童相談所を設置する市(特別区を含む。以下この項において同じ。)として政令で定める市(以下「児童相談所設置市」という。)においては、政令で定めるところにより、指定都市若しくは中核市又は児童相談所設置市(以下「指定都市等」という。)が処理するものとする。(略)
この条文では指定都市、中核市、児童相談所設置市が処理する事務は政令で定めると書き、
指定都市は児童福祉法の都道府県が行う事務のほとんどを行うと政令にある。
すなわち指定都市は都道府県同様に児童相談所を設置する義務があると。
一方の中核市だが児童福祉法のうち一部の事務を都道府県に代わって行うが、
中核市が行わない事務の中には児童相談所の設置も入っている。
なので中核市は基本的には児童相談所を設置しないという結論になる。
ただし、政令で定められた児童相談所設置市は、一部の事務を都道府県に代わって行うこととなる。
当たり前だが、その中には児童相談所の設置も含まれている。
その児童相談所設置市は「東京都港区、世田谷区、中野区、豊島区、荒川区、板橋区、葛飾区及び江戸川区、横須賀市、金沢市、明石市並びに奈良市」となっている。
児童相談所設置市とは言うのだが、法律に特別区も含むとなっているので、東京都の特別区が多く列挙されている。
なお、横須賀市・金沢市・明石市・奈良市はいずれも中核市である。
ということは上の条文で中核市と児童相談所設置市の両方に該当するわけだ。
というわけで児童相談所は都道府県・指定都市・児童相談所設置市が設置するというのが答え。
冒頭の話に戻るのだが、元々東京都では児童相談所の体制が十分とは言えないところもあり、
特別区の規模の大きいところは1区で50万人前後の人口があるので、
それなら区で児童相談所を設置するよという話が出てきたわけである。
練馬区以外の22区が設置済みあるいは設置の意向があるとのことである。
(ちなみに練馬区は今年、区の施設内に東京都の練馬児童相談所が開設されている)
ただ、人材確保の面では課題が多いようである。
児童福祉司ら「人材の奪い合い」が激化 新宿、品川…東京23区内の児童相談所、人手足りず開設延期が相次ぐ (東京新聞)
ともかく、これにより東京都自身が児童相談所を設置するのは多摩地域が主となる可能性がある。
離島(児童相談センター(新宿区)が管轄)もあるし、特別区も全部設置できるとは思わないけど。
そんな中で多摩地域での児童相談所再配置に動いたということである。
なお、多摩地域では八王子市が中核市だが、特に市で児童相談所を設置する意向はなさそう。
児童相談所の業務が市・区の業務と統合されることの意義は大きいと思われるが、
児童福祉司の確保、一時保護施設の設置など、かなり難しい事情もある。
多摩地域の児童相談所再配置の計画を見てもわかるのだけど、
「多摩中部児童相談所(仮称)については、今後、一時保護所付設の児童相談所を設置可能な用地確保に努める 」
とあり、一時保護施設は他の児童相談所と共用になることが書かれている。
東京都の施設の中での分担であって、特に問題があるとは思わないが、
児童相談所設置市となるには、これらの体制がすべて揃っているのが原則である。
(一時保護施設は都道府県と共用というのも可能とは書かれているが)
中核市レベルでもそうそうできることではないという実情である。
このような都道府県が設置することになっている役所を市町村が設置するというのは福祉事務所と保健所が知られている。
福祉事務所は生活保護などの業務を行う役所で、市・特別区は必ず設置、
町村でも条例で定めれば設置できる。
裏返せば都道府県が福祉事務所を設置するのは福祉事務所のない町村のみである。
福祉事務所というが市役所の一部署として存在するのが一般的である。
市町村合併が進み、町村というのも数を減らしており、かなり少数派である。
町村でも福祉事務所を設置できるならと、島根県・広島県では全市町村が福祉事務所を設置したので、県の福祉事務所はもはやない。
一方の保健所だが、こちらは指定都市・中核市・特別区は必ず設置、それ以外でも政令に列挙されれば設置できる。
中核市以外で政令に列挙されたのは小樽市・町田市・藤沢市・茅ヶ崎市・四日市市、
いずれも大規模な市で、中核市への移行も見据えての保健所設置と言えそう。
保健所も専門的な人材が様々必要でなかなか市で設置するのは容易ではない
ただ、保健衛生関係の業務を従来の市の業務と途切れなく提供できるメリットは多い。
児童相談所はそれよりさらにハードルが高いとみてよいのだろう。
それは都道府県が児童相談所の体制を充実させる場合にも言えることで、
東京都では児童相談所のサテライトオフィスとして、
区の施設に週何日か職員を派遣して対応するという取り組みをしている。
実は練馬区にもサテライトオフィスが設けられていて、
その後に東京都により児童相談所が開設されたという経緯がある。
優先度の高いところから対応しているというのが実情だろう。