誘導路が代替滑走路となり離陸用滑走路となる

セントレアで代替滑走路の整備が行われるらしい。

国交省、中部空港の代替滑走路整備で公聴会 12/17開催 (Aviation Wire)

なんと誘導路を滑走路にしてしまうのだという。

こんなのありなんですね。


目的は現滑走路の老朽化対策である。

24時間運用の空港ということで滑走路のメンテナンスにかけられる時間が限られるという事情がある。

思い返して見れば関空も開港から13年後にB滑走路が作られ、

真の24時間空港となるとともに、A滑走路の全面改修が行われた。

セントレアは今年で開港から20年、滑走路の老朽化も当然考えないといけない。

そこで滑走路閉鎖中に使うための滑走路を作ることにしたのだという。

これにより現在の滑走路の改修が大きく進むとともに、

どちらかの滑走路は常に利用できるため、関空同様に真の24時間空港となる。


いろいろ調べてみると、実はこの代替滑走路には他の目的もあるらしい。

セントレアでは埋立による空港島の拡張が進められている。

と言うのも名古屋港では浚渫土の捨て場に困っていまして……

いい土捨て場はないかと考えたところ、空港島の拡張につかうのがよいとなったのである。

これ自体は港の都合で行うことだが、当然その先には空港の拡張も考えられていて、

その際には滑走路を海側に増設するという想定でいると聞いていた。

滑走路増設にあたって重要なのが滑走路間の距離で、ここに関係あるらしい。


滑走路間が1310m以上離れていれば両滑走路は完全に独立運用ができる。

これをオープンパラレルといい、2本以上の滑走路の並べ方としては最も柔軟性が高い。

この方式は羽田(A滑走路とC滑走路、B滑走路とD滑走路)、関西、成田、那覇で採用されている。

那覇以外は滑走路間にターミナルビルを置くことで距離を取っている。

那覇空港は大きく海側に張り出してB滑走路を整備したことでオープンパラレルとなっている。


2本の滑走路を近接させるクロースパラレルという方式がある。

最近、福岡空港ではこの方法で2本目の滑走路が作られた。

他の採用例としては新千歳、伊丹(2本の滑走路長が大きく異なる)など。

この方式は2本の滑走路で同時に離着陸ができない。

そのため滑走路増設による処理能力増加は限定的である。

ただ、それでも一方の滑走路で離着陸準備中に、もう一方で離着陸できたり、

何らかの事情があり滑走路閉鎖になった場合でも、もう一方が使えるメリットはある。

そういえば新千歳空港は冬に一方の滑走路を閉鎖して除雪、

除雪が終わったら反対の滑走路を除雪なんてことをやってるんだったな。

セントレアの代替滑走路もクロースパラレルの一種と言えそうだ。


セントレアの滑走路増設はクロースパラレルで考えていると聞いていた。

滑走路の横に滑走路を並べるのだからそうだろうと。

しかし、760m以上離せばセミオープンパラレルという使い方ができる。

この方法は一方を着陸・一方を離陸に固定すればお互い独立して運用できるというものである。

オープンパラレルの場合、2本の滑走路から同時離陸・同時着陸もできる。

(羽田・成田では時間帯によりこの使い方をしている)

時間帯により出発・到着に偏りがあるため、同時離陸・同時着陸は効果的だが、飛行経路の設定に様々制約がある。

それで羽田空港で混雑時間帯に市街地上空を飛行するルートが必要となった。

市街地上空を通って着陸する理由

このような事情もあってか関空の発着枠拡大では同時離陸・同時着陸は採用されていない。

関西・伊丹・神戸の3空港で分担することで出発・到着の集中に対応する考えである。


話は戻ってセントレアの話。

普通に考えれば、滑走路を増設してもクロースパラレルにしかならないのだが、

現在の滑走路を陸側にシフトさせれば、なんとか760m取れそうだという話で、

その陸側にシフトさせた滑走路こそが、誘導路を転用した代替滑走路なのだという。

中部国際空港の将来構想 (中部国際空港)

代替滑走路には高速離脱誘導路が存在しないので着陸時の滑走路占有が長くなる。

夜間の便数の少ない時間帯なら問題はないが、便数が多い時間に着陸に使うのは不適。

でも離陸専用なら全く問題ないですよね。この点でもセミオープンパラレルは理にかなっているのである。

このため当面は夜間・緊急時の代替滑走路として使いつつ、

埋立完了後(2037年ごろ)、新たな滑走路ができたときには主に離陸用滑走路として使うという想定があると。


ちなみにセミオープンパラレルは成田空港のC滑走路でも採用される予定である。

こちらはB滑走路と前後に並ぶ形のセミオープンパラレルである。

新滑走路の整備等 (成田国際空港)

用地確保の都合で当初想定していた形での滑走路整備が進まない中、

現在のB滑走路を北に、南側にC滑走路を作るということである。

C滑走路の新設は滑走路3本になることで処理能力が伸びるのも理由だが、

北風のときはB滑走路は南向きに着陸、C滑走路は南向きに離陸、

南風のときはB滑走路は北向きに離陸、C滑走路は北向きに着陸とすれば、

ターミナルビル(両滑走路の中間にある)との地上走行が少なくなるメリットがある。

この使い方に限れば平行誘導路はほぼ不要なので、B滑走路の北端・C滑走路の南端にはターニングパッドがある。

成田空港の更なる機能強化 滑走路整備計画の概要について (pdf)(成田国際空港)

A滑走路もある中で想定外の向きで使うことはほぼないということなんだろう。

用地確保には苦心してきた空港なので、少しでも用地をコンパクト化したと。


ただ、セントレアについて言えばターミナルビルが貧弱なのが課題である。

関空は伊丹空港を飲み込める規模で作られたこともあり、

元々施設に余裕があり、近年は国内線から国際線への設備転用で需要増に対応してきた。

一方のセントレアは低コスト化が求められたこともあって元々の規模が小さい。

最近は外国人旅行者の利用も増え、バスラウンジの増設、第2ターミナルの新設など需要増に対応しているが、

処理能力が1.5倍になったとき対応できるかというと、とてもそうは思えない。

関空の場合は2期島が大規模な埋立で、ターミナル増設の余地は未だ残されているが、

セントレアの場合、埋立で拡張される範囲も限定的である。

果たしてどういう形で活用されるのか。正直気になる。