小選挙区比例代表並立制がゆえ

衆議院議員選挙といえば小選挙区比例代表並立制ということで、

選挙区で議席が取れなくても比例代表で復活当選したり、

政党によっては小選挙区はさっぱりだけど比例代表の議席は狙えるとか、

そうかと思えば小選挙区では自民党の候補同士が一方あるいは両方無所属でぶつかるなんてことも。

基本的に二大政党制に帰結すると言われる小選挙区制だが、そう単純でもない。


今回の衆議院議員選挙、フタを開けてみて驚いたのは小選挙区での共産党の多さだった。

小選挙区は分が悪いのは承知で候補者をねじ込むのは昔からだが、それにしても多いような……

2021年は105選挙区、今回は213選挙区、倍増してるんだな。

この213選挙区というのはほぼフルエントリーに近い自民党の266選挙区に次ぐ多さで、

立憲民主党の207選挙区に近い数字である。


どうしてこれほどまでに小選挙区での立候補をするのかといえば、

比例代表の議席を確保するためだというのが定説である。

衆議院議員選挙は政党単位での選挙活動が基本となっており、

小選挙区に候補者がいる政党は候補者の選挙カーとは別に都道府県ごとに1台の選挙カーが使えて、

都道府県ごとの政見放送(衆議院は政党単位)も流せる。

都道府県ごとに1人は候補者を立てたいというのはこの制度による。

さらに言えば選挙区の候補者の選挙活動の中で比例代表の選挙活動もできるので、

なりふり構わずに候補者を立てるのは比例代表の票の掘り起こしのためと言える。


もう1つ、共産党の候補者擁立には特徴的な点がある。

それは選挙区と比例代表との重複立候補が少ないことである。

立憲民主党が一番わかりやすいが、小選挙区207人に対して、

比例代表234人が立候補し、うち204人が重複立候補となっている。

小選挙区単独が3人、比例単独が30人、あとの204人は重複立候補である。

これに対して共産党は小選挙区213人、比例代表35人、うち12人が重複立候補である。


これも理由があって、重複立候補の場合、小選挙区での得票率が1/10を切ると比例代表で当選する資格を失うのである。

得票率1/10というのは小選挙区の供託金没収でもある。

共産党は213選挙区で候補者を立てたわけだが、これは多額の供託金没収を覚悟しているのである。

それでも比例代表の票の掘り起こしのために候補者を立てていると。

小選挙区で供託金没収された上に、比例代表の当選資格も失うでは困るのである。

だからこそ比例代表単独候補をメインに据えているわけである。


比例代表の供託金没収ラインというのは小選挙区ほど単純ではない。

参議院の場合、立候補者1人あたり600万円の供託金がかかり、

政党ごとに最大で当選者数×1200万円の供託金が返金される。

2022年の参議院議員選挙で言えば、供託金没収なしなのは自民党(33人中18人当選)だけである。

参議院の比例代表は候補者単位での選挙活動が可能なので、どの政党もかなり多めに候補者を立てがちなのだろう。

まだ参議院は理解しやすいが、衆議院はさらに複雑である。

まず供託金の金額は比例単独が600万円、小選挙区との重複立候補が300万円である。

小選挙区の供託金が300万円なので、重複立候補でも比例単独でも1人600万円という意味である。

ここだけ見れば重複立候補というのはお得に思える。

ただ、供託金没収ラインのことを考えると難しい。


まず、小選挙区で当選すると比例代表のリストから消えるので、300万円が返金される。

それ以外の供託金のうち当選者数×1200万円が返金されるという仕組みである。

立憲民主党と近畿ブロックを例に取ると、重複立候補23人・単独4人で、

このうち5人が小選挙区で当選、比例代表での獲得議席は4議席だった。

比例代表分の供託金は300万円×23+600万円×4=9300万円で、

小選挙区当選者の1500万円と、比例代表の議席数に応じた4800万円が返金される。

結果として没収された供託金は3000万円となる。

比例単独4人+重複立候補2人に相当する供託金が没収されているわけである。


だからといって比例単独候補を減らすのは危険である。

なぜかというと小選挙区が好調だと比例代表の当選者が足りなくなるからである。

国民民主党はそれで3議席損をしてしまったのである。

東海ブロックでは本来3議席の獲得が可能だったが、

6人全員が重複立候補でうち5人が小選挙区で当選、残るのは1人だけになってしまった。

比例単独候補を2人置いておけば回避できたのだが、供託金没収のリスクも高い。

比例単独候補を置いて選挙活動の幅が広がるならともかく、衆議院では大した恩恵もないのである。


だから小選挙区と比例代表の重複立候補を使わないという選択肢が出てくる。

小選挙区の得票率1/10以下あるいは当選で比例代表で当選できないリスクのある候補者は極力減らし、

その上で比例代表の当選者数の見込みを大きく超える立候補者は置かないと。

この作戦に最も忠実なのが公明党である。

公明党は重複立候補0人、比例候補39人に対して23議席獲得と無駄がない。

ただ、それでも供託金没収は発生しているようですね。厳しいな。


とはいえ、この戦略があまり一般的ではないことにも理由があり、

それは復活当選という形でも議員になれれば、次の選挙に向けた政治活動がやりやすくなるからである。

2人の候補者が競り合う選挙区だとどちらも国会議員ということはよくある。

共産党にしても小選挙区にチャンスがあると見ているところでは重複立候補を活用しており、

実際に小選挙区で当選したのは沖縄の1選挙区だけではあるのだが、

小選挙区の立候補者という切り口で見れば、復活当選3人で計4人とも言える。


二大政党制に収束すると言われる小選挙区制において共産党というのはほとんど意味を持たない政党である。

立憲民主党あたりは主張に近しい部分もあり、相乗りを選ぶケースも少なくない。

共産党も小選挙区制での戦い方という点ではそっちの方がよいと思っている節はあり、

都道府県知事・市町村長・改選数1の参議院選挙区では大抵そうである。

でも、衆議院は単なる小選挙区制ではないのである。

だからこそ目先の比例代表の議席のために小選挙区に候補者を立てまくるのである。

立憲民主党・国民民主党・日本維新の会にとってみれば厄介者だな。


さて、小選挙区比例代表並立制の長所・短所は挙げればキリはないが、

さっき書いた重複立候補のデメリットは有権者にとってメリットに成り得るのではないかと考えた。

まず得票率の低い候補は比例代表で当選できないというシステム。

小選挙区で一定のふるいを超えなければ比例代表で当選できないというのは、

国会議員にふさわしい人を選別する仕組みとして役立つのではないか。

得票率1/10というラインは若干易しくて、法定得票の1/6ぐらいが相応か?


そして小選挙区で当選しすぎると重複立候補だけでは足りなくなる点、

これは小選挙区で絶好調の政党が、比例代表でさらに議席を伸ばすのを防げるのではないか。

小選挙区比例代表連用制で全体的に比例を得よう

大昔に書いたのだが、ドイツやニュージーランドの選挙は小選挙区と比例代表の2本立てだが、

比例代表の議席は小選挙区での獲得議席数を引いて配分する仕組みになっている。

これにより小選挙区絶好調の政党は比例代表の議席は得られないこととなる。

ただ、この方法には難点があり、それは無所属候補の議席はどの政党からも差し引かれないということである。

国ごとに選挙事情はいろいろだが、日本では選挙区に無所属で立候補するのはけっこうみられる。

選挙活動に制約はあるものの、小選挙区だけならわりとなんとかなってしまう。


そんなわけで日本にこの考えを適用するのは難しいなと思っていたのだけど、

必ず重複立候補でなければならないとすれば、それにより各党の当選者数の上限というのが決まるわけである。

小選挙区・比例代表の合計で小選挙区の数以上の当選者が出ることはない。

なぜならば1つの政党は小選挙区に1人しか候補者を立てられないためである。

無所属候補と公認候補に手分けして、選挙区で無所属候補、公認候補が復活当選、

なんてことができれば実質的に小選挙区の数よりも多い当選者を出せるかもしれないが、

それは現実的とは思えないので、おのずと上限が決まるわけである。


現在の制度では比例単独候補が認められているのでそうはならないが、

必ず重複立候補でなければならないとすれば、上記のようなことは実現される。

小選挙区の数で当選者数の上限が決まるというのは、

議席の取り過ぎを調整する仕組みとしては弱いとは思うが、今よりはマシでは?


さて、途中までは共産党が比例代表の票集めに必死という話を書いたが、

結果を見てみると比例代表の獲得議席は前回9議席、今回7議席と減ってしまった。

それと対照的に議席数を積んだのが れいわ新選組 で比例代表のみで9議席である。

立憲民主党・国民民主党の2つの民主党が並立する形になったことで、

最近は立憲民主党に食われがちだったところ、れいわ新選組にも食われ、党勢を失いつつある。

依然として地方議員などの基盤は強い政党だと思うが、国政政党としてはかなりの苦境である。


大勢においては自民党と公明党が議席を減らしたというのが大きな話である。

当選したら追加公認するなら最初から公認候補にしといたらええやろにと思うのだけど、

一定の線引きが必要だったのは公明党との関係性によるものなのだろうか。

その公明党も小選挙区では思ったように議席を取れず。

重複立候補を使わない方針もあり、党代表が落選する有様。

その議席がどこに回ったかというのは地域性がかなりあって、

東日本の小選挙区では立憲民主党にだいぶ回っている。野党第一党の基盤は相当なものである。

大阪府では日本維新の会が小選挙区の議席を独占、異様な光景である。


比例代表については国民民主党が大きく議席を伸ばしている。

比例代表だけみれば立憲民主党は5議席増に留まり横ばいに近いが、

日本維新の会が10議席減らし、国民民主党が12議席増やすという具合。

2つの民主党で苦しい立場になることが多かった国民民主党だが、

労働者の政党という本来の役割で支持を集めるようになってきているようだ。


主要政党とみればこんなところだが、れいわ新選組が9議席というのは書いた通りだけど、

参政党が3議席、日本保守党が3議席(うち1議席は愛知県の小選挙区)と、

なんか面倒そうな政党が出てきたなという感はある。

れいわ新選組が共産党の勢力を食っているとさっき書いたけど、

参政党と日本保守党については自民党なのかなぁ。

自民党の強みは国民政党であるということで、様々な意見を集約させれば強いし、結束力も強いが、

党内の勢力図が移り変わるごとに、支持者も付いたり離れたりという側面もある。

その一端がこうして見えてしまっているのかなと思う。


今回の選挙で一番変わったのは自民党の党内勢力なのかもね。

なんて、そんなことを考えてしまったが、実際にはどうなのやら。

ここまで議席を減らすつもりはなかったんだろうけど、それにしてはいろいろチグハグである。