以前、関西空港・神戸空港の発着枠拡大のための飛行ルート案の話を書いた。
関空は離陸後早々に6つのルートに散らせることと、神戸は出発ルートと到着ルートから分離することが主な内容。
このルートに対する騒音シミュレーションの結果が出ていた。
簡潔に言えば、住宅地の基準より厳しいLden52dBの範囲すら海上に収まるという内容である。
Ldenというのは1日当たりの騒音エネルギの平均値を表す指標で、
19~22時の騒音は5dB増、22~翌7時の騒音は10dB増で計算するというもの。
国の基準では住宅地では57dB以下、それ以外の地域では62dB以下となっている。
これより5dB厳しい数字で見ても海上に全て収まってしまいますよということである。
ただ、平均値というところに納得感があるかということは考える必要がある。
大きな騒音があっても頻度が低ければ小さな数字になるからである。
まず、そもそも空港を発着する便数というのはある。
便数の多い空港ほど騒音の影響は大きく見積もる必要があるとは言える。
次に風向きごとの頻度ですね。
伊丹空港では発着便の99%が滑走路を北向きに使うことが知られている。
この結果、南側の市街地への騒音は大きく抑えられていると言える。
でも、南向きに離陸することも稀にあり、その時は大きな騒音が続くことになる。
伊丹は極端だが、発生頻度の低い風向きのルートは低く見積もられる。
視界条件により騒音の範囲が変わることがある。
羽田空港では東側から着陸する場合、好天時は千葉市付近から海上を飛行し、空港近くで曲がるルートをとるが、
悪天候時には直線的に飛行するため浦安市・江戸川区付近まで陸上を飛行する。
このため陸域での騒音影響が大きくなりがちだが、頻度が低いので低く見積もられる。
しかし天候が悪い日は延々とこの状態が続くことになる。
時間帯により騒音の範囲が変わることもある。
Ldenでは深夜の騒音を大きく評価するので、深夜帯の騒音対策がより評価される。
関西・中部・羽田の3空港は深夜帯は海上に飛行ルート収めることで24時間運用を実現している。
このことに文句を言う人は誰もいないと思うけど。
逆にケチが付きそうなのが羽田空港の混雑時間帯に使われる飛行ルート。
北側から市街地上空を通って2つの滑走路に向けて着陸していくので、
このルートが使われる時間帯は品川区・渋谷区周辺の騒音がかなり大きい。
ただし、1日最大3時間、それも南風(頻度は4割程度)のときのみである。
なので、Ldenで評価すると新たな騒音対策が必要な地区は発生していない。
というわけでLdenで見て小さいから騒音の影響は軽視できるとも単純には言えない。
とはいえ、関西・神戸の両空港の新しい飛行ルートはそこまで極端なことはないのかなと思った。
関空は飛行ルートを多く分散させることにより騒音影響を分散させているが、
特定の時間帯・特定の天候のときに集中するという性質のものではない。
Lden52dB未満の地域についてもいくつか試算が書かれている。
- 48~52dB: 多奈川小島, 夢舞台★
- 44~48dB: 岩屋, 鵜崎★, 釜口, 由良★, 大川
- 40~44dB: 二色, 中川原★, 沼島
★を書いた地域は新しく騒音の影響を受ける地域である。
夢舞台は新しい神戸からの出発ルートの真下だね。
夢舞台自体は公園や国際会議場で、騒音も比較的受け入れられるとみたか。
そこから南北に離れて岩屋・鵜崎となると影響は減りますよと読める。
由良は友ヶ島水道の淡路島側、関空の発着ルートの分散の影響が比較的大きい。
いずれも海上で高度を稼ぐ対策はある程度効いているとは言える。
あとは実運用上の飛行ルートや高度がどうなるかですね。
可能な限り、陸上を飛行する高度を上げてほしいというリクエストは書かれている。
このルートを多少逸脱する飛行機も実運用上は発生する。
これは発着する飛行機の間隔を調整するために少し遠回りさせたり、
逆にショートカットさせる指示を出すことがあるからである。
その観点では淡路島のかなり広い範囲で騒音の影響を受けることになる。
ただ、頻度としては比較的低いのでLdenで見ると軽視されることにはなる。
そういうこともたまにはありますと素直に説明して納得を得るしかない。
そんなわけで数字だけで見ると見誤ることもあるという話だった。
とはいえ、やはりそれなりに理由があって世界的な基準になっているわけで、
これを低く抑えるための作戦自体は騒音対策に寄与する内容と言える。