広島県廿日市市の宮島、船で渡るが2社が同じ航路を運航している。
JR西日本宮島フェリーと宮島松大汽船である。
JR西日本宮島フェリーは国鉄時代から鉄道連絡船として経営していたもので、
宮島松大汽船は広島電鉄のグループ会社なので、接続する鉄道2社がそれぞれ宮島への航路を経営している形である。
宮島口以外からの航路もあるようだが、多くはこの2社で渡るでしょう。
先ほども書いたようにJR西日本宮島フェリーは鉄道連絡船として鉄道との連帯輸送を行ってきた。
鉄道・船にまたがるきっぷが買えるということですね。
ただ、10月からは定期券以外で鉄道・船にまたがるきっぷが買えなくなる。
合理化のため? と思ったかも知れないし、そういう側面もなくはないが、
それ以上に大きな理由があり、それが「宮島訪問税」の導入である。
JR西日本宮島フェリーでのICOCA 新サービスについて~ICOCA 定期券、ポイントサービスの導入~ (pdf)(JR西日本)
今年10月より廿日市市は宮島訪問税の徴収を開始する。
対象は島内在住・在勤・在学者を除いて島を訪れる人。
(在勤・在学は月48時間以上の雇用契約・授業があることが条件)
訪問1回ごとに100円または1年間で500円、どちらかで納付する。
観光客は訪問1回100円で納付することが多いだろう。
用務で定期的に訪問する人は1年間500円で納付することが多いだろう。
納税方法だが、訪問1回ごとに100円払う場合、船会社に払うのが基本となる。
もしも個人の船で訪問する場合は桟橋の使用料とともに支払う
桟橋を使用せずに船で訪問する場合は後日、市役所(支所)で申告納付をする。
(船を使わず泳いで島に入ると、条例上の訪問者にあたらないらしい)
申告納付になるケースはほとんどないと考えているのだろう。
1年間の訪問に500円納付する場合は、訪問10日前までに市役所(支所)で申告納付となる。
納付すると納付証明書が発行される。
在住・在勤・在学者に発行される課税対象外証明書と同じカードである。
このような都合もあり、鉄道・船の連絡きっぷを売るとしても、
宮島訪問税は免除・納付済もいるし、対象者でも宮島行きのみの課税だとか、
いろいろな事情を考えれば対象者に桟橋で納付してもらうしかない。
これでは1枚のきっぷで売るメリットもだいぶ薄れてしまう。
これが定期券以外で鉄道・船の連絡きっぷの発売をやめる理由である。
(宮島から出る方向に限れば従来通りの対応も可能そうだけど)
船の利用方法もだいぶ変わる。
従来は宮島口桟橋から乗船する場合、下船時に改札があった。
きっぷを持ってない人は乗船前にきっぷを買うが、
今どきはPASPY・ICOCA他で払う人が多いだろうからそのまま乗り込む。
ちなみにこの航路は両社ともPASPYのシステムを導入している。
当初からICOCAはPASPYのシステムで扱えたし、2018年からはSuica他も使えるようになった。
ただ、PASPYは広電の方針で2025年に廃止される計画がある。
宮島訪問税への対応として、まずは宮島口桟橋に改札を設けるそう。
先ほど書いたようにPASPYは廃止の方針が決まっている。
このため両社ともICOCAのシステムを設置するようである。
単純に自動改札機にICカードをタッチすると運賃・訪問税が一括して引き去られる。
現金の場合は券売機で訪問税込みのきっぷを買うとQRコード付きの乗船券が出る。
これを改札機のQRコード読取り部にかざすと通過できるという。
大半の訪問者はこの方法での対応になると思われる。
在住・在勤・在学者、あるいは年間納付の人は証明書を持っている。
券売機にはQRコード読み取り機があり、ここに証明書をかざすと運賃のみのきっぷが買える。
とはいえ、このケースは限定的なんじゃないかなという気がする。
住民で都度きっぷを買って乗る場合もICカードの利用が多いと思われる。
その場合は有人通路にあるQRコード読み取り機に証明書をかざして、その上でICOCAをタッチして運賃のみ払うことになる。
定期券の利用はさらに多そうだが、この場合は事前に証明書のチェックが行われる。
桟橋窓口で定期券を購入する場合は購入時にチェックを受ける。
今月から導入されるICOCA定期券はJRの駅での購入となるが、
この場合は証明書のチェックは桟橋窓口で行うとのこと。
事前に確認を受けるとICOCA定期券で自動改札機が利用できる。
おそらくICOCAと証明書の情報を紐付けるのだろう。
JR西日本宮島フェリーで定期的に渡る利用はこの方式が多くなるのだろう。
あと、イレギュラーなケースとして訪問税を含まないきっぷを持っている場合。
JRの 青春18きっぷ などは今後もJR西日本宮島フェリーは乗り放題だが、
課税対象外あるいは年間納付の人以外は訪問税の支払いだけ必要になる。
明確なことは不明だが、訪問税だけのきっぷを買うことができるようで、
訪問税を含まないきっぷとともに有人通路で一緒に見せるのだろう。
なお、宮島松大汽船でも広電のフリーきっぷ「一日乗車乗船券」が使えるが、
こちらは訪問1回分の宮島訪問税を含んだ形で発売されることになる。
電車一日乗車券があるのにこれを買う人は宮島訪問は確実ということなんだろうな。
ほとんどの訪問者にとってはICカードをタッチすればそれで終わりなのだが、
それでカバーできないケースが多々あるのでいろいろ複雑になっている。
QRコード読み取り対応の券売機・自動改札機・係員端末など独特な機器も多い。
課税対象外証明書・納付証明書は廿日市市と船会社のシステムで連動しているようで、
ICOCA定期券利用者の証明書事前チェックはけっこう高度な仕組みとみた。
ここまでして徴収できるのが1人1回100円というのはどうなんでしょうね?
宮島訪問税は観光客の増大に伴い、島内の環境整備にかかるコストの負担を求めるものである。
地方交付税交付金などは訪問者による行政コストを考慮していないので法定外普通税である宮島訪問税を導入するというのが廿日市市の主張である。
(泉佐野市の空港連絡橋利用税の考えも似てるが、実態としては連絡橋の国道化で失った固定資産税の補填である)
制度で賄えない行政コストの補填が目的なので訪問1回の課税額はそこまで高くは出来ないし、
宮島での日常生活に関わる訪問への課税は好ましいとはいえない。
ただ、訪問目的によって課税・非課税が変わるのは難しいので、
在住・在勤・在学者以外でも日常的に訪問する場合は年500円に抑えることで悪影響を抑えた。そんなところではないか。
しかし、このような方法をとれるのはほとんどの人が船で渡るからこそである。
思い返してみれば富士山の入山料でさえ容易な話ではなかった。
富士山は登山者が多く、環境対策や安全対策にコストがかかるのは明らかである。
そこで入山料を設けることになったがいろいろ課題があった。
全ての登山ルートで網羅的に徴収するのが困難という理由が大きかった。
そこで任意に「保全協力金」を求めるという形になった。
1人1000円で一部の登山口では現地支払いもできるが、事前にコンビニなどで払うこともできる。
山梨県側では強い呼びかけにより7割ほどが払っているのだが、
静岡県側は6割に満たないのは登山口が分散することによる難しさもあるのだろう。
「1人1000円」の富士山入山料、任意の協力が初めて目標の7割上回る (読売新聞)
訪問者による超過コストを補うために費用を徴収するという考えは、
比較的受け入れられやすいが、公平な徴収ができるところは限られる。
伊是名村・伊平屋村・渡嘉敷村・座間味村でも入域者への課税をしているが、
これも船や飛行機(定期路線なし)での入域に限られるからこそ可能なものである。
これらは住民も含めて全ての入域者を課税対象としている。
もっとも島民は割引運賃が適用されるので、一般の訪問者に比べれば実質的な負担は軽いが。
他の考えとしては宿泊への課税があり、こちらは多くで導入されている。
欠点は日帰りでの訪問に課税できないこと。
東京都・大阪府・福岡県のように府県レベルでの導入ならともかく、
京都市のように市単独だと市内宿泊者にしか課税できないので、
近隣地域(例えば大津市)に宿泊して京都市内に訪問しても特に何もない。
倶知安町のように滞在型のリゾートを想定したものならともかく、
実際には日帰り観光客も含めて考えないといけないよなと思う。
また、この考えでは観光客の流入を抑制するほどに高い費用は徴収できない。
法定外税ではおそらくそのような設定はできないと考えられる。
先ほど富士山の入山料のことを書いたが、そもそも登山者数が多すぎる問題は別の対策が必要になる。
山梨県が富士スバルラインを電車専用道路にする構想を出している。
路面電車という手段の妥当性はかなり疑問はあるのだが、
緊急車両や山小屋への貨物輸送では自動車を使い続けられるようにして、
登山者の輸送を一元化するには既存の道路に電車を走らせるのはよい口実である。
そして登山者の輸送を電車で一元化すれば、登山者の入り込みもコントロールできる。
他の登山道や、吉田口でも5合目まで歩いて行く登山者はコントロールできないが。
鉄道連絡船としてのアイデンティティを失うことになるので、そこは気になる。
(その特徴が残る鉄道連絡船は今後は南海フェリーが国内唯一となる)
利用者の多くは鉄道・船ともに1枚のICカードで利用できるとは言える。
主に観光客はICカードのタッチで運賃・訪問税の支払いが完了し、
頻繁に訪問する人は、1枚のICOCA定期券で鉄道・船とも利用できる。
なので実態として不便になるとも言えないところはあるが。