最近、各地域の競馬主催者がムチの使用回数の制限を厳格化している。
日本のJRAでも今年1月から制限が厳しくなり、違反が相次いでいる。
ただ、このムチの使用制限は地域によりけっこう差があるらしい。
というのが短期免許で日本で騎乗していたレーン騎手(オーストラリア所属)が、
今後1年間の短期免許取得できないことになったことに現れているのだが。
ムチの使用制限は動物愛護の観点から定められたものである。
下記の使い方を制限するという基本的な考えは国際的に統一されているそう。
a.馬が怪我をするほど(過度に強く)鞭を使用すること。
b.肩より上方に腕を上げて鞭を振り下ろすこと。
c.反応(脚勢)のない馬に対し、必要以上に鞭を使用すること。
d.明らかに着順の大勢が決した後に、必要以上に鞭を使用すること。
e.入線後に鞭を使用すること。
f.ひばら(脇腹)へ鞭を使用すること。
g.鞭を過度に頻発して使用すること。
h.頭部若しくはその付近に対して鞭を使用すること。
i.原則として鞍より前方に逆鞭で鞭を使用すること。
ほとんどの地域ではこの考えの元にムチの使用を認めている。
ただし、ノルウェーなど一部の地域では危険回避以外の目的でのムチの使用が禁止されている。
1986年からムチを使わない競馬を導入して、これが定着した結果だそう。
上記のルールの運用方針は地域により差があるのだが、
最も問題なのが「鞭を過度に頻発して使用すること」の運用方法である。
ムチは馬への合図として効果的だが、適切な頻度というのがあるという考えである。
この「過度に頻発」の考えが地域により差があると
よく話題になるのが 日本 と オーストラリア と ヨーロッパ の差である。
この中で厳しいのがヨーロッパの考え方である。
地域差はあるがレースを通じての使用回数を制限する考え方は共通的である。
フランスは4回、イギリスは6回など。(いずれも平地競走の数値)
レースを通じての使用回数が多いことを「過度に頻発」と考えるわけである。
ノルウェーもレースを通じて0回に制限しているという言い方ができる。
日本では連続して5回以上のムチ使用を「過度に頻発」と扱っている。
2完歩以上空ければ連続とはみなされないことになっている。
漫然とムチを使うのではなく、馬の反応を見ながら使いなさいということか。
日本のルールではレース全体のムチ使用回数はかなりかさむことがある。
間隔を空ければ全体の使用回数は不問だからである。
完歩を開ければ使用回数に制限はなく、2016年小倉記念の和田竜二(クランモンタナ)はレースを通じて30発近く使用しましたが、間隔を開けていたので制裁とはなりませんでした。
オーストラリア はスタートからゴール100m手前までのムチ使用回数を5回に制限している。
ゴール手前100m以内に限っては使用回数の制限を受けない。
ゴール手前では厳しい攻防となることが多いので緩和していると。
これこそがオーストラリア所属のレーン騎手が日本で制裁を多数受けた理由である。
残り100mとはいえ、その中でムチを連打すると5回に収まらないのである。
日本ではゴール手前でも間隔を空けずに使うことは「過度に頻発」となる。
オーストラリアではゴール手前100mに留まる物は「過度に頻発」に取らないと。
この考え方の差がレーン騎手の失敗の理由だったらしい。
なお、日本・オーストラリアともに交流の多い香港競馬については、
「過度に頻発」の数値基準を持っていないようである。
ルールとしては存在するはずなので、過度に頻発で制裁もありうる話だが、
日本やオーストラリアで認められている程度ならば許容しているのではないか。
あと、違反時の制裁内容もヨーロッパは厳しい。
日本ではムチの使用方法の違反は制裁金となることが通常である。
違反回数がかさむと制裁金の額は増えるが、それでも最大10万円だそうで、
騎乗手当の金額を考えれば大した痛手でもないような気がする。
世界的に見れば騎乗停止というのが処分内容として一般的かと思うが、
フランスではあまりに超過回数が多い場合は馬自体を失格にするルールが導入されることになった。
フランス競馬、9月からはムチ使用9回以上で即失格処分に (JRA-VAN Ver. World)
これはムチの使用制限の違反が調教師・馬主にも及ぶということであり、
調教師・馬主サイドもムチの使い方にも目を向けて鞍上を考えないといけないと。
ここまで見てきたように日本の制限は世界的にはかなり緩い方である。
ただ、連続使用に着目する考え方自体は妥当性が高い気がする。
1回でも馬にとって苦痛となるようなムチの使い方は別のルールで禁止しているので、
そうすると短時間に繰り返すことが問題ということになる。
2完歩空ければ連続とみなさないことが妥当なのかとか、
連続使用回数を5回まで許容するのが妥当なのかというのはあるけど。
オーストラリアの残り100mになると制限から外れるのは、
ごく短時間ならば過度な使用も許容しようという意図もあるのかもしれない。
100mを通過するのにかかるのは5秒程度で、その先はもうムチは使われることはない。(禁止事項に入線後の使用がある)
実務的なことを考えればここが制限から外れることのメリットは大きい。
ということを総合的に考えてムチ使用回数の制限は残り100mまでなのかもしれない。
このムチの使用制限が動物愛護に真に寄与しているか?
根本的には人間の想像で議論しているに過ぎないだろうから。
明らかに身体に傷を付けるような使い方はそもそも禁止している。
そうすると精神的な苦痛がどの程度あるかという話になると思う。
ほとんどないんじゃないかという話もあれば、ムチを使うこと自体の効果を疑うような話も見る。
結局のところ、ムチ使用回数の制限というのは政治的な介入で決まる部分が多いようで、
ノルウェーのムチを使わない競馬も当時の大臣の指示によるものだったそう。
日本は国内の事情としてはムチの使用についてはそこまで言われていない。
今の日本競馬でもっとも問題視されているのは暑さでは?
ただ、ムチについても国際的なルールとの整合は意識せざるを得ない。
連続使用に着目して数値基準を持っているのは日本独自の方法としても、
他地域の基準とあまりにかけ離れた数値基準では整合性が疑われる。
地域により差は大きいものの、制限が厳しくなる方向は変わらないだろう。
日本は今年1月から制限が厳しくなり、制裁数も大幅に増えたという。
現状は最大10万円の制裁金に限られているが、効果は疑わしいところもある。
場合によってはより厳しい制裁も考えることになるのかもしれない。
数値面の話よりそっちの方が大きな話のような気がする。
どうなるでしょうかね?