SAF(Sustainable Aviation Fuel: 持続可能な航空燃料)についての記事を見て、
気になって調べたらわりと詳しい解説が見つかった。
SAF(持続可能な航空燃料)とは?特徴や製造方法、開発企業を紹介 (朝日新聞デジタル)
飛行機の燃料といえば灯油ですね。(地上で燃料に使う灯油より品質基準は厳しいが)
灯油と同じような成分の燃料を持続可能な方法で作ることをSAFと言っている。
同じようなことは灯油に似た軽油を使う自動車や船にも言えそうだが……
その中でも航空燃料に注目されるのは、2つ事情があるのではないかと思う。
1つはそもそもエネルギ消費が大きく、ゆえにCO2排出量も多い輸送手段とされていること。
もう1つは自動車のような電動化が難しいということではないか。
これは燃料の重量が燃費に大きく影響するがゆえのことである。
SAFを製造する方法は大きく3つの方法があるそうである。
- FT合成油: バイオマスを熱分解したガス分子を結合して灯油にする
- 水素化植物油: 油脂(廃食油など)に水素を加えて分解して灯油にする
- アルコール合成パラフィン: バイオエタノールから酸素を取り除いて結合して灯油にする
それぞれ長所も短所もある。
現在、SAFと言えば2.の廃食油に水素を加えて分解したタイプが多いのかな。
水素を加えて分解するというのは石油精製でも使われている技術で、
それと同じことを廃食油に対してやればよく、技術的にも成熟している。
廃食油は食品産業で油を使うと発生するので再利用すれば無駄がない。
ただ、問題は廃食油の確保できる量は限られているということ。
航空燃料のために植物油を増産するのに農地開発というのも難しい。
この方法を拡大するなら、藻類を栽培して油を得る方法との組み合わせが必要だと。
1.のFT合成法は、これはゴミから航空燃料を作ると言った方がよいかも。
木でも生ゴミでもプラスチックでも、熱分解すれば水素と一酸化炭素が得られる。
このようなガスから炭化水素を作る技術は古くから存在して、FT法という。
石炭や天然ガスからガソリン・灯油・軽油を作る技術として開発されてきた。
ただ、FT法では投入した原料のエネルギの半分程度の燃料しか得られないという。
熱分解と合成で多くのエネルギが熱に変換されてしまうためである。
それでもFT法を積極的に使ったのが南アフリカだというのだが、
これはアパルトヘイト下で石油の輸入が困難なので、石炭から自動車燃料を作る必要があったから。
ろくでもない技術だなと思ったかも知れないが、FT法にはよい面もある。
それは熱分解できれば効率はともかくなんでも燃料にできることで、
このため、他の方法での資源化が難しいバイオマスの燃料化に適する。
後で書くのだが、木材からエタノールを作る技術というのが開発されていて、
セルロースやヘミセルロースは発酵してエタノールになるのだが、リグニンは分解できずに残ってしまう。
しかしそれも熱分解すれば燃料になりうるというわけである。
3.のアルコールから燃料を作る方法が増産への期待度が大きいらしい。
バイオエタノールの原料というのは食品との関係が深いものが多い。
例えば、サトウキビだと砂糖を抽出した残りの糖蜜がバイオエタノールの原料になったり、
トウモロコシは逆にアルコール発酵後の残渣から飼料や油を作ったり……
ある程度は共存できると思うが、食料・飼料との競合が課題だという。
ただ、木やわらなど、食べられない繊維質のものを原料とするバイオエタノールもあって、
こちらは現状、有効に活用されていない原料を使えるので期待があると。
しかし、サトウキビやトウモロコシと違って、先に何らかの処理が必要になる。
エタノールはそれ自体が燃料でもあるし、プラスチックの原料にもなりうる。
そういうところで注目が多いというのもあるようだ。
そう考えると航空燃料より優先するべきところがあるのでは? とも思う。
ただ、それを上回るほどの増産を期待した技術なのかなと思った。
廃食油は天井が見えているけど、バイオエタノールはまだあるということかね。
SAFということは別にしてもバイオマスの利用というところでは、
- 飼料化: 食品残渣を家畜の飼料として利用
- アルコール発酵: デンプン分などを発酵によりエタノールにする
- 堆肥化: 生ごみを発酵(4.のメタン発酵を含む)により肥料にする
- メタン発酵: 有機物を発酵によりメタンガスにして発電などに利用
- 熱分解: 有機物を熱分解して炭にしたり、ガスをFT法で合成して燃料にする
- 燃焼: 有機物の燃焼により発生する熱エネルギを利用
上ほど条件が厳しい印象がある。
飼料にできる食品残渣は限られるし、アルコール発酵は糖に分解できるものでなければならない。
とはいえ、飼料もバイオエタノールも利用価値が高い物質である。
堆肥化は下水汚泥など広範囲に行われているが重金属が多く含まれては肥料にならない。
都市化が進んだ日本では堆肥化しても肥料の行き先に困る問題もある。
このため下水汚泥は発酵の有無によらず最終的には焼却されることが多い。
メタン発酵は残渣を肥料にしない前提ならば、プラスチックや金属が多少混ざっても可能である。
そこで発生するのがガスなので燃料としてその場で使わざるを得ないが、精製して都市ガスに注入したり、自動車燃料にしたりというのはある。
燃焼や熱分解は有機物なら何でも良いし、燃焼して残るのは灰だけでコンパクト。
さらに灰はセメントの原料になるので、これもリサイクルになる。
単純に燃焼してその場で熱エネルギを使うとなると用途は限られるが、
熱分解して燃料を作る方法は効率はともかく、できた燃料は輸送できる。
その上でSAFの3つの製造方法を見たときに、
バイオマスが油脂として入手できるなら水素化して燃料にして、
糖に分解できるならアルコールにして、そこから燃料を作り、
どちらでもなければ熱分解してFT法で燃料に出来るというわけである。
上に書いた方法ほど効率が高いと思うが、それぞれ原料が異なる。
特に熱分解は他の方法で利用されなかったり、分別困難なものが利用できる。
この点では将来的な期待はけっこうあるのかも。