貸与ってことにしておこうか

このニュースを見てちょっと気になったことがあった。

大英博物館、パルテノン神殿の大理石彫刻をギリシャに返還へ。世界に広がる略奪美術品返還の動き (ARTnewsJAPAN)

イギリスの大英博物館(British Museum)が盗品だらけというのlはよく言われた話だが、

その1つがエルギン・マーブルと呼ばれるパルテノン神殿由来の彫刻である。

その彫刻について貸与という形で、アテネのアクロポリス博物館に戻るか?

ということなのだが、貸与ってことはギリシャに戻っても「大英博物館蔵」なの?


実は日本にも似たような境遇の文化財がある。

それが東京国立近代美術館で保管・展示されている戦争記録画である。

この美術館特有の所蔵品だが、厳密には借り物である。

実はこの戦争記録画は太平洋戦争後にアメリカ軍が戦利品として入手、

東京都美術館での保管の後、アメリカ国内に運ばれるも、これといって活用されず。

そんな中で日本の美術史にとって重要な作品群であると返還を求めたところ、

1970年に「無期限貸与」ということで東京国立近代美術館にやってきた。


ところで国立の博物館・美術館で保管・展示されるものは大きく3つに分けられる。

1つ目は博物館・美術館自身が所有しているものである。

入手方法は国有財産の移管や購入・寄贈など。

2つ目は文化庁所有の文化財で、これは相続税の物納や、重要文化財の買取により国有化されたものである。

かつてはこれらの文化財は国立博物館などに移管されていたが、

現在は文化庁所有で国立博物館で保管・展示するという体制になっている。

皇族からの納税・寄付に由来する三の丸尚蔵館の所蔵品も今年には文化庁所有になる予定である。(元は御物だけど)

3つ目が寄託ということで、寺社・個人などから預かっているものですね。

奈良国立博物館で展示されている彫刻(多くは仏像)の多くは「○○寺」など記載があるが、

それは寺からの寄託ということで、所有権は寺にある。

寺社に収蔵・展示施設が整備され、所有者の寺社に戻った仏像もあるのだが、

それでも依然として寄託品は多く、建物の工事期間中に避難のためやってくる仏像もある。

寄託品は所有者の意向で写真撮影が禁じられていることもある。


で、アメリカ政府からの無期限貸与というのは、文字通りに捉えれば寄託となる。

ただ、国立美術館の目録に登録されていることから、美術館の所蔵品と同等に扱われているようだ。

「無期限貸与」というのは「○○氏寄贈」と同じような意味で書かれているようだ。

無期限貸与というのは戦利品を寄贈できないというアメリカ側の事情によるらしく、

アメリカ政府が所有権を行使するつもりは特にないよう。

とはいえ、純然たる所蔵品とも少し違うようである。

実はこの戦争記録画はコレクション展以外で展示されたことはないらしい。

他館への貸出や企画展での展示というのは行われたことがないとか。

このあたりは戦争記録画という題材も問題なのかも知れないが。


国境をまたいだ文化財の譲渡というのは制度的に難しいことがあるらしい。

今回話題になっているエルギン・マーブルは、エルギン伯爵トマス・ブルース氏からの博物館に寄贈されたものである。

問題はエルギン伯がオスマン帝国の皇帝から許可を得て彫刻を持ち帰ったところであろうと思うが、

寄贈により収蔵した博物館がこのことに責任を持つ必要があるかは怪しい。

そんな中での妥協策が所有権を残したままの貸与ということなのだろうが。


こういう論争はいくらでもあって、日本関係でもいろいろある。

正当な取引で伝来したとみられるものでもいろいろケチが付く有様である。

国境をまたいだ話ではないけど、東京国立博物館所蔵の法隆寺献納宝物も、斑鳩から遠く離れた東京にあるのはどうなのかなとは常々思うんだけど、

一方でこれらの宝物を皇室に実質的に売却したことが、現在の法隆寺につながっていることもまた事実である。

法隆寺の財テクの跡

これも文化財の伝来にはいろいろな背景があるという一例ということで。