ディープインパクトの孫が勝つ

種牡馬として活躍していたディープインパクトが亡くなったのが2019年のこと。

今年2歳がディープインパクトの子、最後の世代である。

最後の歳はあまり種付けできずに亡くなったので、かなり頭数が少ないが、

アイルランドのAuguste RodinがイギリスのG1を勝ったと言うことで、

種牡馬になってから亡くなるまでの13世代全てでG1優勝馬を出すという大快挙である。


そのディープインパクトの子も引退して種牡馬や繁殖牝馬となってきた。

ただ、困ったことが日本のサラブレッドの多くがディープインパクトの父、サンデーサイレンスの子孫ということである。

日本のサラブレッド生産者は極端なインブリード(近親交配)を嫌う傾向があるという。

昔だったら外国から種牡馬を輸入して……というのも好まれた。

外国から輸入した種牡馬が重宝された時代は、日本は種牡馬の墓場と言われたこともあったという。

でも今はそんな時代ではなくて、日本競馬で活躍している馬の父親の多くは、ディープインパクトもそうだけど、日本で活躍した馬である。


打開方法の1つは繁殖牝馬の方を外国から輸入するという方法である。

ディープインパクトの交配相手として世界中からそうそうたる繁殖牝馬を集めており、

それがディープインパクトの息子たちの交配相手にシフトしているというわけ。


2つ目はアウトブリードでいける組み合わせを探すということで、

多くがサンデーサイレンスの子孫といっても全部じゃないですから。

ディープインパクトの孫世代で初めてG1を制覇したのがキセキ(2017年の菊花賞で優勝)である。

母の父がディープインパクト、父がルーラーシップ、これだと4代目まではアウトブリードである。

あるいは牧場によっては、サンデーサイレンスの血を引かない繁殖牝馬がまだまだいるらしいんですよね。

以前、元ダノックス所有馬が種牡馬として人気という話を紹介した。

高い馬を買って活躍馬を種牡馬にする

このダノンバラードってのがディープインパクトの息子なんですけど、

種付け料が安価な割には大変優秀で、今年の新潟2歳ステークスで娘のキタウイングが優勝、馬主・生産牧場がミルファームということで驚かれた。

ディープインパクトの息子が種牡馬として各地の牧場に散っていくことで、

このように意外な活躍をするディープインパクトの孫というのも増えるのだろう。


そして3つ目の道がインブリードである。

アウトブリードにこだわっては選択肢が限られてしまうわけで、

極端なインブリードは好まれないが、3代父と4代父に同じ馬がいるぐらいならアリだと。

そんな中でディープインパクトの娘の交配相手として期待が大きいのが、

エピファネイア と モーリス である。どちらもサンデーサイレンスは曾祖父である。

ディープインパクトの娘には限らないけど、このようなサンデーサイレンスのインブリードはいろいろ試された。


客観的に見て一番上手く行っているのはエピファネイアらしい。

2020年の牝馬三冠を達成したデアリングタクト、昨年に皐月賞他G1 3勝を挙げたエフフォーリアなど。

ただ、この2頭とも4歳になってからは苦戦している。

エピファネイアの子は2歳・3歳での活躍はよいのだが、4歳春以降は条件戦とか見ても苦戦する傾向があるという。

2~3歳で活躍できること自体はよいことなのだが……


モーリスは日本とオーストラリアを往来する種牡馬である。

1世代目から日本ではピクシーナイト(スプリンターズステークス優勝)、オーストラリアではHitotsu(ヴィクトリアダービー優勝)とG1優勝馬を出した。

立派なことではあるのだが、少し思惑と違うところもあったようだ。

まず1つはインブリードよりもアウトブリードの活躍馬が目立ったこと。

インブリードの期待馬は思ったほどの活躍ができなかったようだ。

もう1つはモーリス自身が4歳から本格化したように、子も晩成ということである。

オーストラリアは2歳戦が重視されるので、3歳のダービーを勝つってのはちょっと遅いんですよね。

日本でも3歳のクラシックレースでは存在感が発揮できていない。


そんな中、今日のエリザベス女王杯ではジェラルディーナが優勝した。

母はディープインパクトの子で最も稼いだジェンティルドンナである。

そして父はモーリスである。インブリードでG1優勝馬を出してきましたね。

お母さんがすごいんだという話はありますけど。


このジェラルディーナという馬は2歳で未勝利は突破したが、そこからは苦戦し、1勝クラスを突破したのは3歳7月のことである。

連勝で2勝クラスを突破して、秋華賞を目指すも抽選で外れ同日の3勝クラスに出て勝利。

4歳秋になってオールカマー(GII)で重賞初勝利するも、運がよかっただけでは?と疑われる。

そして、中長距離の重賞で活躍する牝馬の多くが集結したエリザベス女王杯、

ここでG1制覇を果たしたわけである。立派なものである。


ディープインパクトの孫でG1優勝馬というのはまだ限られた存在である。

  • キセキ(母父ディープインパクト)
    • 2017年菊花賞
  • ラウダシオン (父リアルインパクト、その父ディープインパクト)
    • 2020年 NHKマイルカップ
  • Blowout(アメリカ調教馬) (母父ディープインパクト)
    • 2021年 ファーストレディーステークス
  • アカイイト (父キズナ、その父ディープインパクト)
    • 2021年 エリザベス女王杯
  • ソングライン  (父キズナ)
    • 2022年 安田記念
  • Victoria Road(アイルランド調教)(父 Saxon Warrior、その父ディープインパクト)
    • 2022年 ブリーダーズカップジュベナイルターフ
  • ジェラルディーナ (母父ディープインパクト)
    • 2022年 エリザベス女王杯

さすがにディープインパクトの子が減っていく中で、孫世代の活躍馬が増えることは間違いないと思うが……

ただ、そこまでは遠かったんですよね。

牧場により作戦はいろいろだと思うが、ディープインパクトの子孫をいかにして生かすかというのが日本競馬にとって重要なことは確かである。

父モーリスという作戦がこうして実ったことはポジティブな話ではないか。