難所をピンポイントに手を入れるのも

最近になって、山形新幹線と秋田新幹線の在来線区間の改良の話が出てきた。

山形新幹線米沢トンネル(仮称)整備計画の推進に関する覚書の締結 並びに山形県内の鉄道沿線の活性化等に関する包括連携協定の締結について (pdf) (JR東日本)

秋田新幹線新仙岩トンネル整備計画の推進に関する覚書の締結について  (pdf) (JR東日本)

どちらも難所をトンネルを主体とした高規格線路に付け替えるというものである。


山形新幹線・秋田新幹線は新幹線と在来線の直通系統と位置づけられ、

新幹線の改良というよりは在来線の改良に位置づけられるものである。

なので改良後の線路は普通列車も走ることになる。

ただし、県境なので普通列車は少なく、大半は つばさ号 あるいは こまち号 である。

改良後は在来線としては高速の160km/hとか200km/hで走行可能となり、

現在は減速して走る区間が多いことからすればかなりの高速化となる。

山形新幹線の方が10分程度、秋田新幹線の方が7分程度の短縮を見込んでいるとのこと。


ただ、時間短縮というよりは遅延・運休対策と老朽化対策という意味合いが強いようだ。

険しい区間を走るので天候の影響を受けやすく、橋などの老朽化も課題である。

長大トンネルを含み、高速走行可能な線路の建設費はかなり高い。

山形新幹線の方で1500億円、秋田新幹線の方で700億円の見積もりである。

これ、後で紹介するけどかなり高額なんですよね。

老朽化対策でもあるのでJRも一定負担するとみられるが、地元負担が発生することは間違いない。


山形新幹線・秋田新幹線は既存の在来線を新幹線のレール幅に変更して運行されている。

このため、線路幅を変える工事、新幹線車両の購入が主なところである。

それぞれかかった費用はこんなものである。

  • 山形新幹線(福島~山形間)
    • 地上工事費318億円、車両費202億円
    • 山形ジェイアール直行特急保有(株)が国補助金47億円と出資金・借入金を原資に整備し、JRからリース料を受け取り借入金返済
  • 秋田新幹線
    • 地上工事費:598億円、国:県:JR=1:1:3で分担
    • 車両費310億円、秋田新幹線車両保有(株)が購入し、JRからリース料を受け取り返済

車両は当初はリースで対応したが、以後の置き換えはJRで購入している。

で、注目すべきは地上工事費である。

今回の難所を改良するのにかかる費用というのは、当初の新幹線直通プロジェクトよりも高額なのである。


在来線のレール幅を変更して新幹線との直通運転を可能とするというのは、

一見するとコストパフォーマンスに優れた方法に思えるのだが、実はそうでもない。

新幹線と在来線が直通できても、在来線が遅いと結局遅いからである。

検討されたことはあるが、秋田新幹線以来、この方法の採用例はないのが実情である。

既存の線路に大きく手を入れるぐらいなら、新しく線路を引いた方がよいと。

整備新幹線は国からの補助が充実しているので、JR・沿線地域の負担は抑えられる。

それで、在来線の高速化とは比べものにならないの高速化が実現できるのだから、結局はこれがコストパフォーマンスがよいのである。


もちろん難所だけピンポイントで改良するという選択肢はあって、

結果的には山形新幹線・秋田新幹線とも遅れながらもそういう手に出た。

しかし金額を見てもわかるけど、けっこうな金額になるんですよね。

時間短縮という観点で見ればあまりコストパフォーマンスはよくないという話もある。

ただ、遅延・運休といった課題を打破できることは大きな意義であり、

そこも含めればかなり価値の高い取り組みであるとも言われている。


整備新幹線はいくら国の支援が手厚いといっても、

予算の制約もあり、北陸新幹線はかなりの長期間をかけることになったり、

在来線の採算が悪化するため、JRから地域で引き取ることが求められるという課題もある。

これで困ってしまったのが西九州新幹線で、高速化の効果が大きい武雄温泉~長崎を先行して建設し、

その間は在来線がそこそこ使えるのでフリーゲージトレインを使うという構想だったが、

フリーゲージトレインの実現が困難と判明し、話が違うと佐賀県が騒いでると。


というか費用負担の話は山形新幹線・秋田新幹線のトンネルにもあるんだよな。

県境のトンネルなので、JRと両県で分担するというのが一般的な考えだが、

冒頭で紹介したJRとの合意にはそれぞれ山形県と秋田県しか加わっていない。

福島県と岩手県はそれぞれ積極的にここに関与しようとしていない。

とはいえ、何らか負担せざるを得ないとは思うんですけどね。