イギリス国王が元首って言ってもね

イギリスでエリザベス女王が亡くなり、いろいろあるわけだけど、こんな話題が。

「なぜ英国王が元首に?」 オーストラリア、女王死去後の議論に注目 (朝日新聞デジタル)

イギリスの国王はカナダやオーストラリアなどの国王も兼任している。

え? そうなの? と思った人もいるかもしれないけど、歴史的経緯からこうなっている。

ただ、イギリスから独立国家になって長いので、この体制を続けるのかという議論は常にあったと。

それが長年にわたり君臨し続けたエリザベス女王が去り、変わるかもねという話。


それにしても、なんでイギリスの国王は複数の国の国王を兼任しているのか。

ことは1931年にさかのぼる。

当時はイギリスは世界中に領土を持ち、大英帝国と呼ばれていた時代である。

その中でも、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アイルランドは自治領(Dominion)として自治が認められていた。

とはいえ、この当時は独自の外交はできず、総督は本国政府の代理人という位置づけだった。

それが、1931年に決定されたウェストミンスター憲章により、

総督は国王の代理人と位置づけられ、イギリス政府は各政府に干渉し得なくなった。

これにより各自治領は独立国として認められるようになったわけである。


この方法のメリットは立憲君主制のシステムを変更する必要が無いことだろう。

イギリス本国と同じ議院内閣制であれば、首相は議会で選ばれ、それに従って国王が任命する。

実際には国王の代理人である総督が任命を行うわけだけど。

なので、その後にイギリスから独立する国の多くでもこの方式は採用されていて、

日本の近国ではツバルがこのシステムで1978年に独立国となっている。


一方でイギリスから独立した国の全てがこのシステムによっているわけではない。

マレーシアとブルネイはいずれもイギリスから独立した国だが、元首はイギリス国王ではない。

実はイギリスの支配下にあった時代もスルターンと呼ばれる王がずっといたんですね。

ブルネイはイギリス支配下の王国がそのまま独立したものである。

マレーシアはマレー半島とボルネオ島周辺の複数のイギリス植民地が統合して独立国になったものである。

統合前の各植民地の体制はいろいろだが、その中にはスルターンがいる国が複数あった。

このため、マレーシアの元首は複数の州のスルターンの輪番制の国王ということになった。

議院内閣制で儀礼的な役割を果たす国王がいるという点ではイギリスと同じだが、

その国王はイギリス国王ではなく、国内のスルターンの輪番制という珍しい体制である。


一度はイギリス国王を君主とする立憲君主制としながらやめてしまった国も多い。

1931年にこのシステムを採用した国のうち、南アフリカ、アイルランドは共和制に移行している。

インドやパキスタンも独立後に一時的にイギリス国王が君主だったが、早々に共和制に移行している。

もともと儀礼的な役割しかないわけだから、あまり意味は無いと。

共和制かつ議院内閣制の場合には、主に儀礼的な役割を担う大統領が設けられ、

インドの場合は国会・州議会議員による間接選挙で選出されている。


実のところ、カナダやオーストラリアなどイギリス国王を君主としたところで、

総督の任命以外はほぼ全て総督に委ねられているところである。

オリンピックの開会宣言、これはオリンピック憲章で国家元首が行う規定があり、アメリカなら大統領、日本なら天皇、イギリスなら国王となる。

ではカナダやオーストラリアではどうなのか?

1976年のモントリオールオリンピックではカナダ国王としてエリザベス女王が開会宣言を行っているが、

以後のカルガリー(1988年)・シドニー(2000年)・バンクーバー(2010年)はいずれも総督により開会宣言が行われている。

こんなところから国内における国王の儀礼的な役割は全て総督に委ねられていることがわかる。


そして総督は首相の推薦に従って国王が任命しているわけである。

どういう人を総督に任命するかという考え方は時代によって変わっている。

ただ、イギリス国王のように世襲制というわけはないことは確かである。

首相が総督を選び、総督が元首と儀礼的役割を担うという部分を見ると、

これは共和制かつ議院内閣制の国ではまぁあるスタイルなんですよね。

さっきインドでは間接選挙で大統領を選ぶと書いたが、そういうことですね。

だから議院内閣制のまま共和制に移行するなら、あまり変わらないんですね。


儀礼的な役割しかない国王とか天皇とかって何の意味があるんだ?

という疑問はあったわけだけど、儀礼的な役割を担う人をルールに従って世襲で決められるというのは大きなメリットなんだろうなと。

大統領制の国だとまた違うと思うんだが、議院内閣制の国の元首は政治的に中立であることが求められる。

しかし、それを政治家が選ぶとか、選挙で選ぶというのはどうにも違和感がある。

この点、日本の皇族は選挙権が停止され、政治参加が認められていない。

そのように政治的中立が求められる一族から規定に従って世襲で君主を選ぶというのは揉めない方法なのではないかと。

とはいえ、そのような王族がいる国というのは限られているのも実情である。

(そう考えるとマレーシアの輪番制の国王というのはよく考えたものだなと思う)


とはいえ、そうして選ばれる君主が適任者である保証はないのも確かである。

病気や年齢で十分に役目を果たせない場合は摂政を置くなどの対応も可能だけど。

2019年に行われた天皇の生前退位が特例法での対応になったのもそうだけど、

君主の選出方法を恣意的に変えると、政治的な問題になりかねない。

このときは客観的に見て生前退位が問題になることはないだろうと判断できたけど。

世襲もそれはそれで難しいことがたくさんあるのである。