君主が亡くなるとき

日本時間では今日の未明に報じられたとおりだが、

イギリスのエリザベス女王が96歳で亡くなられた。

今年は在位70年のプラチナジュビリーを祝ったところであるが、

普通に考えて女王として在位70年というのはそうそうあることではない。


日本とイギリスは立憲君主制の国という点で共通的だが、

国民統合の象徴としての天皇と、イギリスの国王というのは制度上はさておき、実態としてはかなり似た存在である。

「君臨すれども統治せず」とはよく言われたものですが、世界的にも模範となったモデルである。

その中でも最近70年はイギリスの国王といえばエリザベス女王なのですから、

多くの人にとって、立憲君主制の君主の代表例として知られていたわけである。

それだけに世界的にもものすごく大きな存在だったわけですよね。

イギリス国内の喪失感は相当なものだと聞くけど、世界的にもそれなりでしょう。


日本では2019年に天皇の生前退位が行われているが、

このきっかけとなった現在の上皇陛下からのメッセージには下記の通りあった。

既に八十を越え、幸いに健康であるとは申せ、次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています。

(象徴としてのお務めについての天皇陛下お言葉 (NHK))

実はここ最近は日本に限らず、各国で君主の生前譲位が流行った時代でもある。

やはり高齢化社会において、亡くなるまでその役目を果たし続けられるかというところにはかなり懸念があるわけである。

公務もいろいろですが、公職の任命だとか、日本でいえば国事行為というのはどうしても天皇がやられなければならないわけである。

もちろん摂政を立てるという対応はあるのだが、それは象徴としてどうなのだと。

こういう問題提起があり、もっともだと特例法で退位が行われたわけである。


そんな中でエリザベス女王は亡くなるまで国王の役目を果たすのだということだった。

実際、亡くなる2日前には首相の任命式を果たしている。

ロンドンではなく、女王滞在先のスコットランドのバルモラル城で行われたのは異例だが、それでも国王としての役目を果たした通りである。

トラス氏、イギリスの新首相に就任 女王が任命 (BBC)

なかなかできるもんではありませんよ。


さて、そんなエリザベス女王が亡くなったと報じられる少し前のことである。

日本時間では昨晩、こんなニュースが入った。

The Queen is under medical supervision at Balmoral after doctors became concerned for her health, Buckingham Palace has said.

(Queen under medical supervision at Balmoral (BBC))

女王は健康状態に懸念があるため医師の監督下に入った。という意味ですかね。

イギリスの12:30ごろに王室から文書で発表されたようである。

イギリス王室が健康状態について発表するのは異例のことらしいのだけど、

ただ、やはりこういう地位の人の健康状態が悪化すると、関係者の動きが活発になるので、発表しないわけにはいかなかったのが実情かと思う。

実際、これが報じられたあたりで女王の子らはバルモラル城へ急行している。


この後、14時頃には公共放送のBBCでは特別編成に移行している。

そして出演者は揃いもそろって黒いスーツに黒いネクタイなのである。

あれ? と思うわけですよね。

でも今の時点では公式には”concerned for her health”なんですよね。

この時点で喪服なの? というのはとても違和感があった。


というのも日本では亡くなってまもなく喪服というのは、死を予期していたようで失礼であるというのがある。

これも見解が分かれるところはあるのだが。

いずれにせよ正式に亡くなったと報じられる前はおかしいと思うわけですよね。


これについてはいろいろな解釈があるようだが……

まずBBCとして避けたかったのは派手な服装で女王の死を伝えることだったのではないかとのこと。

それだけならば喪服のごとき黒尽くめはどうなのか? とは思うものの、

女王の健康状態悪化を厳粛に受け止める体で、女王の死を厳粛に受け止める準備をしているということではないかと。

あるいは実態として女王は亡くなっているのだが、王室から公式の発表があるには時間がかかるので暗示しているとか。

少なくともBBCの出演者が黒服になったあたりで、BBCに内示があったのは確実であろうと。

その後、現地の18:30頃にBBCではエリザベス女王の死を報じている。

王室からは文書で発表されたので、これを読み上げる形での発表であり、

“The Queen died peacefully at Balmoral this afternoon.”との記載である。


これは日本だとより厳格だけど、死亡というのは医師の診断によるものである。

日本では「男性が心肺停止の状態で見つかり」みたいなニュースがあるけど、

心肺停止と報じられるものはほとんどが死体である。

もちろん心肺停止からまもなく搬送され、蘇生するものもあるのだが、そういうものは極めて限定的である。

しかし、死亡診断はできないので、客観的に見てすでに死んでいても、そうは報じられないわけである。

今回のエリザベス女王の場合、死亡となったのは公式には”this afternoon”なのでこのあたりの時間関係を検証することはできないが、

心肺停止で蘇生の見込み無しと判明した段階でBBCや関係機関に内示があり、

王室関係者が揃った段階か、その前かはわからないけど、死亡診断があり、

そしてここから王室で発表に向けた準備をして、正式発表ということだったのだろう。


こういうのって日本だとどうなるんだろう?

というとやはり類例は昭和天皇崩御しかないわけですよね。

大きく異なるのは昭和天皇はそれ以前から健康不良が報じられていたこと。

このため継続的に健康状態が報じられていたところである。

亡くなった当日の朝6:35から宮内庁は会見で「本日午前4時すぎにご危篤の状態になられました」と発表、これがテレビでも中継されている。

関係者の動きも報じられ、その後、宮内庁から会見があるという予告が入り、

7:55からの宮内庁の会見で「午前6時33分、吹上御所において崩御あらせられました」と発表された。


結果的に言えば、ご危篤と会見で発表された段階では亡くなっていたわけだが、

会見のセッティングにはある程度時間もかかるだろうから、やむを得ないだろう。

その上で実際に崩御を報じるにあたっての準備をして、会見をセッティング、

会見の予告という形である程度予期させるところはあったものの、

正式には宮内庁が会見で発表することによって、正式に崩御を報じることになるわけである。


発表が文書であるか会見であるかという違いはあるものの、2段階で報じていることは類似しており、

また、正式な発表より少し前に死を予期させる動きがある点は似ている。

今回はエリザベス女王がロンドンから離れたバルモラル城にいたことで、

関係者の集結に時間を要し、その分のタイムラグが見えたところはあるし、

第一報が”concerned for her health”とぼんやりしていたが、これはイギリス流の表現ということで。


というわけでやはり日本とイギリスの感覚の違いを感じるところはあるものの、

基本的なところはかなり類似しているということは確認出来た。

広く国民に伝える前に関係機関には何らか情報が行くわけで、

ただやはり公式に出るまでには明確には伝えられないというところは同じである。

BBCではそこで喪服を持ってくるのかとか、気になるところはあるんですけどね。


というわけでイギリスとしては新しい国王の時代が始まるわけである。

チャールズ皇太子あらためチャールズ国王である。

イギリスでは硬貨・紙幣に国王の肖像があしらわれており、これが変わることになる。

また、切手では国名のラテン文字表記に代えて国王の横顔を入れているが、これも変更である。

さらに国歌も変わってしまう。”God Save The Queen”から”God Save the King”である。歌詞も変わる。

このあたりはイギリス特有のことで、それでええんか? という話はあると思うが。

とはいえ、そういうシステムなのでそれは仕方ないですよね。

天皇が即位して改元が行われて、コンピュータシステムに手が入る日本もそれはそれで特有だけど。