最近こういう話が報じられたところだが。
「65歳未満で軽症、基礎疾患なし」なら受診避けて 厚労相呼びかけ (朝日新聞デジタル)
「症状が軽く65歳未満で基礎疾患がなければ、慌てて医療機関を受診することは避けること」という話である。
すでに発熱外来は受診困難な状態になっており、できるだけ中等症以上あるいは重症化リスクの高い人の受診につなげたいという意図があるのだが、果たしてこの意図が正しく伝わっているか。
そもそも新型コロナウイルスの診断・療養体制はどうなっているかという話である。
この下に「新型コロナウイルス感染症に対する保健・医療提供体制」という図がある。
ここに記載されたフローによればこんな感じである。
- 発熱相談センターから紹介を受けて、診察・検査医療機関を受診
- 陽性の場合、医療機関が継続して観察する場合と保健所に引き継ぐ場合がある
- 保健所で入院要否を判断する
- 入院が必要な場合は医療機関、酸素・医療提供ステーションへ
- 宿泊療養が必要な場合は宿泊療養施設・感染拡大時療養施設へ
- 自宅療養の場合は、入院に移行する可能性が高い場合は保健所で対応
- それ以外はフォローアップセンター(50歳以上・基礎疾患)、自宅療養さポートセンター(自身で健康観察)
という形で極めて階層化されているわけですね。
このような体制を取る理由は入院が適するが入院が難しい患者が多いことに尽きる。
新型コロナウイルスの患者は軽症・中等症I・中等症II・重症の3区分であるが、
酸素吸入を要する中等症IIの患者でも入院が難しい状態になっている。
このため酸素・医療提供ステーションがあるのだが、まぁ野戦病院だね。
ということは肺炎のある中等症Iや、あるいは軽症でも他の病気との関係で危険と判断されても、これで入院は難しいわけである。
というわけで、宿泊療養か自宅療養(往診が前提だろう)が選ばれるわけだが、急変のリスクが常に伴うので大変である。
だから宿泊療養というのもなかなかありつけないんですよね。
・コロナの症状がある方で、50歳以上の方や心疾患、呼吸器疾患又は糖尿病等、重症化リスクの高い基礎疾患のある方(なお、宿泊療養施設では対応困難な慢性肺疾患、心血管疾患を有する方、内服等でコントロール不能な糖尿病の方等は除きます。)
・同居の家族に重症化リスクの高い基礎疾患のある方や妊婦がいて、早期に隔離が必要な方
宿泊療養施設では中和抗体薬の点滴での投与に対応できる体制があることも、宿泊療養を重症化リスクの高い患者に割りあてている理由の1つである。
このことから本人が無症状またはごく軽症で、専ら同居者への感染拡大を防ぐためには感染拡大時療養施設が使われているようである。
かつての宿泊療養というのはこの点が重視されていた気もするが。
これらに当てはまらない場合、自宅療養以外の選択肢はないのだが、
そもそも新型コロナウイルスの軽症というのが肺炎がないという程度の意味で、高熱などで大変苦しい患者も多いわけである。
そんな中で発熱外来が逼迫しているから、受診するなというのは、
理屈としては正しくてもなかなか厳しいことではないかなと思う。
ところで新型コロナウイルスについて、宿泊療養や自宅療養であっても、生命保険では入院として扱われることが一般的だという。
これは本来入院を要すると判断されたにもかかわらず、入院できず待機施設・宿泊療養・自宅療養となるケースが多いことなどから決められたルールという。
しかし、入院した場合は医療機関から入院期間を表す書類が発行されるが、
入院していない場合は医療機関は書類を発行できない。
そこで入院証明書に代わるものとして、保健所や宿泊療養施設を管轄する行政機関で療養証明書を発行しているようである。
ただ、これが患者数の激増でものすごく逼迫しているらしい。
あと、ごく軽症であっても保険金目当てで医療機関を受診する人が出てくるという問題もあって、これが冒頭の呼びかけの要因の1つでもある。
そもそも現在、新型コロナウイルスということで特効薬が使えるのはかなり限られている。
これは重症化リスクの高い軽症患者に対象にしていることと、併用薬の制限や催奇性などの課題が多いことがある。
塩野義製薬が一般的な軽症患者を対象にした薬の承認を求めているが、有効性を示すデータに疑問符が付いており承認の見込みが立っていない状態である。
このことから基本的に重症化リスクのない軽症患者は対処療法しかない。
服薬でリスクに見合った効果が得られることが確認できている条件は限られているということである。
というわけで大変難しい状況である。
新型コロナウイルスはいつか普通の風邪になるのではないかと言われていたが、
そもそも夏のこの時期にマスク着用の励行や会食を控えるなどの対応が行われていても、これほどの大流行をすることがまず異常である。
その上、軽症と言われる中でもひどい高熱に見舞われる患者が少なくないのに、
まず軽症だと思っても症状が急変して重症化することもまぁあるわけだ。
このあたりはインフルエンザのような対応が難しい要因の1つである。
そうはいってもこの患者数激増に対して回らないのは問題であり、
このことから「陽性者登録センター」という新しいシステムが動き始めた。
東京都「陽性者登録センター」開設 自主検査しオンライン登録 (NHK)
これは抗原定性検査や行政の無料検査で陽性となった人が、医師の診察によらず患者と登録できる仕組み。
登録されると自宅療養さポートセンターによる支援が行われる。
対象は当面は20歳以下で重症化リスクが低いことである。対象者は限られるが。
ただ、課題もあって、それは検査キットが必要なことで、最近は薬局での入手も困難になっているようである。
この制度が始まるに当たって、東京都では依頼すればキットを翌日に届けてくれるシステムを作ったそうだが。
家庭内に感染者がいる場合など、検査によらず症状のみで「みなし陽性」として診断することができるルールがあるが、これは医師による診断に限られるようだ。