実は厳しい期日前投票の要件

こんなニュースがあったのですが。

選択肢に「介護」なく 選管職員が期日前投票拒む 名古屋市 (産経新聞)

宣誓書の選択肢が選べなくて、期日前投票できなかったという話。

どれを選べばよいかは、投票の背景を説明すれば教えてくれると思うのだが、

職員が積極的に聞き取ることはなく、どれか選ばないと投票できないとしたことが問題である。

投票に来た有権者にも落ち度はあるような気はするが、職員の対応に問題があったということである。


でも在宅での家族の介護ってどの選択肢になるんだろう?

最初に思ったのは「病気等」の選択肢だが、家族の介護って自分の病気ではないよなぁと。

そこで公職選挙法の期日前投票の規定を確認したら、厳密なことをいうと期日前投票の条件はかなり限られていることがわかった。


第四十八条の二 選挙の当日に次の各号に掲げる事由のいずれかに該当すると見込まれる選挙人の投票については(略)期日前投票所において、行わせることができる。

一 職務若しくは業務又は総務省令で定める用務に従事すること。

二 用務(前号の総務省令で定めるものを除く。)又は事故のためその属する投票区の区域外に旅行又は滞在をすること。

三 疾病、負傷、妊娠、老衰若しくは身体の障害のため若しくは産褥じよくにあるため歩行が困難であること又は刑事施設、労役場、監置場、少年院、少年鑑別所若しくは婦人補導院に収容されていること。

四 交通至難の島その他の地で総務省令で定める地域に居住していること又は当該地域に滞在をすること。

五 その属する投票区のある市町村の区域外の住所に居住していること。

六 天災又は悪天候により投票所に到達することが困難であること。

1~6の理由が見込まれることが条件となっている。

実際には状況が変わってこれらの条件を満たさなくなってもよいが、投票時点ではいずれかの見込みが必要である。


さて、それでそれぞれの理由を詳しく見てみると、

1.は総務省令という言葉が出てくるが、これは公職選挙法施行規則ですね。

これを見るといろいろ書いてあるのだが簡潔に言えば冠婚葬祭ですね。

このためうちの市の宣誓書には「仕事等」というくくりで「仕事、学業、地域行事の役員の仕事、本人又は親族の冠婚葬祭、その他」と書かれている。

2.は投票区外に外出することである。外出の理由は問わないが、自宅近くだと条件を満たさないし、ましてや在宅では該当しない。

1.も外出という点では同じような気はするが、在宅での仕事や、自宅近くでの葬式や地域の仕事も対象になるので、これが1.と2.の要因を区別する理由である。

3.は完結に書けば「歩行困難または刑事施設に収容」ということになる。

これはうちの市の宣誓書では「病気等」というくくりになるのだが、

条文上は、病気などの理由で歩行困難でなければ期日前投票できないように読める。

おそらくそこまで厳しく捉えられてはいないと思うのだが……

5.は他市町村での不在者投票の対象としてよく知られている。

6.は台風による悪天候が見込まれるときや、災害からの避難中に使われる。

新型コロナウイルス対策で混雑を忌避して期日前投票する場合もここに該当するという。


4.はほとんど該当する人はいないので、宣誓書の選択肢に書かれていないこともある。

無人島なのに期日前投票? 投票所入場券の謎、記者がたどった (朝日新聞デジタル)

総務省令(公職選挙法施行規則)で定める地域というのは相当限られた地域である。

しかも、そこに挙げられた地域には無人地帯も多い。

東京都では小笠原村の硫黄島・南鳥島・母島が該当する。

硫黄島は自衛隊、南鳥島は気象庁関係など、仕事か他市町村居住を理由とした不在者投票が行われる。

母島は普通に投票所があるが繰り上げ投票になる。(期日前投票所もある)

輪島市の舳倉島(投票箱が運べなくなる懸念から島内には当日の投票所がなく、臨時の期日前投票所が設けられる)のような例外はあるが、ほとんど機能していない。


冒頭に出てきた人の場合、どこに該当するのか。この条文からはわかりにくい。

普通に歩けて、在宅の理由が一般的な家事ならば、対象にはならなさそうだ。

ただ、おそらくは在宅での介護は「職務又は業務」に該当するとみられる。

このため「仕事」を選べばよかったわけである。


最近は当日の投票所設置が人員配置の面で難しいということで、

投票所を集約して、期日前投票所の巡回で対応するケースが増えている。

巡回の期日前投票所は選択肢の1つで、常設の期日前投票所の近くに行くときに投票することもあるし、むしろそっちの方が多そう。

あるいは従来より遠くなるとしても、当日に投票できる投票所もある。

しかし、よくよく考えてみると当日在宅の人は、さっき書いた舳倉島のような例外を除けば、投票所が遠いというだけで期日前投票はできないのである。

実際、どういう理由を選んでいるのか。

巡回投票所を使うのは高齢者が多いだろうから「病気等」を選んでいるのか、

外出する可能性もあると汎用的な「レジャー・用事等」を選んでいるのか。


なかなか実態に即しているとは言いがたいが、期日前投票制度が始まってからはあまりあれこれ言われることもなくなった。

不在者投票できる条件について、詳しく解説することもない。

宣誓書の「病気等」という選択肢は、条文上は「歩行困難」なのが条件だが、そこまで厳しいと思わせない記載になっている。

これは意図的に誤解を狙っているのだと思う。

実際には「レジャー・用事等」を選ぶべき、歩行困難とまで言えない人の通院・入院でも「病気等」を選んでいることは多いと思う。

でも、それを問いただすことはないので判明することはない。


そもそも期日前投票の宣誓書っているの? という話もある。

今住んでいる市では投票所入場券の裏面に宣誓書が刷り込まれている。

これに記載すると期日前投票所で渡すだけで投票できると。

期日前投票の場合、投票所入場券を持たずに来る人の割合は当日よりは多いとみられる。

このため投票所にある宣誓書に必要事項を書いてもらった方が好都合というのはあるかもしれない。

とはいえ、大半の人は投票所入場券を持参して、期日前投票に来るんですよね。

宣誓書にはなんとなく記載されていることを確認して、あとは入場券のバーコードを読み取って、氏名を確認して投票用紙を渡して、書類を回収するだけである。

回収した宣誓書の集計は別途行うかも知れないが、その程度である。


このあたりは不在者投票の制度をそのまま引き継いだことが問題なのかも。

もともと不在者投票の条件はそこそこ厳格だったし、投票用紙の郵送先などの情報が必要なので、何らか書類の提出が必要なのは確かである。

しかし期日前投票になって、投票所入場券を持参して、その場で投票して帰るだけの人に追加で得るべき情報は、期日前投票を行う理由程度である。

そもそもその理由だってだいぶいい加減な運用がされているのだから、

それってそもそも必要なの? というのはもっともな指摘である。


郵便での不在者投票とか、職員以外による代筆とかは、不正投票の原因にならないかとか、選挙の秘密への懸念などの心配があり、難しい面がある。

ただ、期日前投票についてはそういう懸念はあまりなくて、やりたければどうぞという感じの制度である。

なので、あれこれ細かい事を言わんでいいような気はする。

ほとんどはかつての不在者投票の名残だと思うのだが……

もうちょっと広く「当日に投票所に到達することが困難と見込まれる」とすればよくて、それが事実であることを宣誓させるほどでもない気がする。

投票所入場券のない人は、宣誓書のような紙に書いてもらったほうがよいが、それはまた別の問題でしょう。