ニュースになっていたのですが、衆議院議員選挙の選挙区について、アダムズ方式による区割りが審議会で決定されたようである。
小選挙区「10増10減」など区割り案 首相に勧告 見直し過去最多 (NHK)
これにより、1票の格差は2.096倍から1.999倍に縮小するとのこと。
って言うほど変わらんような。
ここには2つの原因があって、1つは従来よりも市町村が分断される選挙区を減らしたこと。
アダムズ方式で○○県に○選挙区など決まっても、ピッタリ等分できるわけではない。
ここ10年ぐらいは人口の多い都道府県でこのばらつきが小さくなるように、市町村を分断したりして調整していた。
ただ、ここには実務的な難しさも多いことは明らかだった。
アダムズ方式により都道府県に配分することで、そこまで無理しなくてよくなった。
分断が解消されるのは75市区町に及ぶ。(区は指定都市の行政区、東京都の特別区の両方)
もう1つの要因が、1票の格差を決める上で重要な人口最小の選挙区が変わっていないこと。
人口最小の選挙区は鳥取県第2区(米子市ほか)、これは変わっていない。
その原因は鳥取県に2選挙区というのが人口に比して異様に多いことにある。
都道府県への配分時点で1.7倍(鳥取県と岡山県)の格差が付いてるんですね。
従来は都道府県に配分する時点で2.0倍の格差があったので改善はしているのだが。
鳥取県を除けば1.5倍(香川県と岡山県)の格差に縮小するので、鳥取県がだいぶ足を引っ張っていることは確かである。
そもそもアダムズ方式による都道府県ごとの選挙区配分はどういう仕組みなのか。
ここに「令和2年国勢調査人口(確定値)に基づく計算結果の概要」というのがある。
この配分にあたっては各都道府県の人口をある数字Xで割って、小数点以下を切り上げた数字を選挙区数とする。
Xは選挙区数の合計が289となるように定めていて、今回はX=466600である。
この人口/Xの数値がもっとも小さいのが鳥取県でその数字は1.178である。
鳥取県の人口は1選挙区には少し多いが、2選挙区に切り上げると1選挙区の人口が少なくなりすぎるのである。
この問題はとりあえずは鳥取県だけの問題である。
人口/Xが2.001のようにギリギリ2を超えて3選挙区割り振られた都道府県と、切り上げ幅がほとんどない都道府県の間での格差は1.5倍(=3/2.001)となる。
鳥取県の次に人口/Xが小さいのは島根県の1.423だが、これで切り上げがほとんどない選挙区との格差は1.4倍(=2/1.423)に留まる。
すなわち3選挙区割りあてるには人口が少ない都道府県の方が支配的になると。
この問題を打開する方法は2つ考えられる。
1つは鳥取県に安定的に2議席割り振れるようにXの値を小さくすること。
鳥取県の人口/X>1.333 とすれば都道府県間の格差は1.5倍までとなり、
この場合、選挙区数が30ぐらい増えるとみられ、比例代表に割りあてる議席数にもよるが、単純に30議席ぐらい増えるのだろう。
その程度なら許容できると思うが、将来の鳥取県の人口減少率は全国より高い水準になるので、将来にわたって議席数が増え続けることになる。
そうなるとちょっと厳しいんではないかと思う。
もう1つは鳥取県の選挙区の一部を他県とまたがって設定するということで、
これは現実的な気がしていて、鳥取県・島根県は中海周辺で両県にまたがる生活圏があって、鳥取・島根の放送局はNHK以外は両県を放送エリアとしている。
鳥取県・島根県を1グループとしてアダムズ方式で選挙区を割り振ると、
X=462000として、鳥取・島根で3選挙区、岡山県+1選挙区となり、都道府県間の格差は1.5倍までに収まる。
あとは鳥取・島根をむりなく3選挙区に分けられるかが問題だが、
例えば、米子市・松江市周辺で1選挙区、それ以外の鳥取県・島根県で各1選挙区、
というのはというのは可能なんじゃないかという気はする。
都道府県をまたぐ選挙区といえば、参議院の鳥取県・島根県選挙区、徳島県・高知県選挙区という先例がある。
国会議員選挙において選挙区の運営は都道府県の選挙管理委員会で行われるが、
両県にまたがるということで特殊な体制がいろいろあって面倒そうではある。
一部の選挙区が2県にまたがることで運営上の不都合があるかもしれない。
衆議院の場合、政見放送が特殊になりそうな気がするけど。
(衆議院の政見放送は県単位・政党単位なので、単純に両県で放送して済む話でもない)
でもやってやれないことはないと思うけどね。特に鳥取・島根は。
都道府県あるいはグループ(鳥取・島根)で2議席以上の配分にする場合は、
都道府県あるいはグループへの配分時点での格差は最大で1.5倍になると書いたが、
これを縮小するには都道府県またはグループへの配分を3議席以上になるようにすればよく、
人口/X=3.001のようなところに4議席割りあてたときの1.3倍が最大となる。
それを実現するには人口/X<2.250となるようにグループ化する必要があり、
秋田県・山形県・富山県・福井県・山梨県・和歌山県・鳥取県・島根県・徳島県・香川県・高知県・佐賀県・宮崎県について隣接府県でのグループ化を考える必要がある。
これらについて都道府県またぎの選挙区を許容すれば、配分時点での格差は1.3倍に収まる。
あとは具体的な区割りで多少格差は増えるが、2倍より許容幅を狭めても組めそうな気はする。
1票の格差があることがどうしてもダメとは言えないと思うが、
衆議院についてはどうしても是正できない理由が説明できるところはないと思う。
こういうのが気にならないわけではないけど。
移動に3時間の高野山と本州最南端・串本が一緒に 和歌山、新区割り案に広がる困惑 (産経新聞)
衆院選区割り改定案、川西市西部が兵庫5区に 分割解消見送りに市長「遺憾」 (神戸新聞)
前者は和歌山県を2選挙区に分ける場合、紀北から紀南まで含む選挙区を作らざるを得ず、橋本市から串本町までものすごく南北に長い選挙区になると。
ただ、南北に長いといえば、東京都第3区(品川区と小笠原村を含む島しょ部)の方がよっぽど長いんですよね。
それでも政見放送などの選挙運動手段も用意されていますからね。
後者は兵庫県の各選挙区の人口を、鳥取県第2区の人口の2倍に抑えるためには、
人口16万人ほどの川西市を2分割しなければどうしても合わないという話。
1票の格差で選挙結果が歪められてきたかというと、衆議院も多少あると思うが、
参議院の方がひどくて、そもそも人口あたりの定数でも3倍近くの差があるが、
それ以上に問題なのが改選数1の選挙区、2の選挙区、3以上の選挙区で選挙の意味が全く違うということである。
改選数1の選挙区は総取りなので差が付きやすい。
改選数2の選挙区はかつては2つの大きな政党で分け合うのがほとんどで差がつかない。
現在は二大政党制と言いがたい面もあるが、その傾向は続いている。
改選数3以上の場合、公明党や共産党のような政党が議席を狙いやすくなる。
選挙区によるので一概に言えない面もあるが、改選数1の選挙区では自民党が強い傾向にあり、1票の格差と相まって極めて有利になっている。
ただ、参議院特有の半数改選の都合もあり、都道府県をまたぐ選挙区を許容したとしても、今の制度でこの差を埋めるのは困難だと思う。
これは抜本的な見直しが必要だが、自民党にとって積極的に動く理由は乏しいからか、全く動きが見えない。
鳥取県が足を引っ張っている状況をどう見るかという話はあるものの、
それを除けば衆議院はこんなもんだろうという感じはありますね。
やはり現実的な区分けを考えるとこうならざるを得ないのかなと。
従来に比べれば全体的に格差は縮小したのは確かだし、配分方法にも一定の合理性はある。
鳥取県と他県(おそらく島根県)にまたがる選挙区を許容することで、
もう少し許容幅を狭めて1.9倍とか1.8倍の格差も実現できるようになりそうだが、
やはり人口最大・最小同士の比較で格差を出すとこれぐらいになっちゃいますね。
よく「地方の声が届きにくくなる」(岸田首相)というようなことを言うけど、
そもそも国会議員はどのように選出されても全ての国民の代表である。
確かに選挙のことを考えると議員の政治活動の中心は選挙区内ということになるが、
本来はそういうわけではなく、もっと広く国民を代表して活動しなければならない。
人口の希薄な地域のニーズをくみ上げてもらうには、当該地域の選挙区選出の議員だけではどうにもならないのは今に始まったことではない。
自民党はそういうことができる政党のはずだから、不平を言うより役目を果たすべきではないか。
区割り変更で大変なのは選挙区が減るところだけではなく、増えるところもそうで、
東京都は従来よりシンプルな区割りにはなるが、ほとんど全部が変わってしまう。
これにより同じ政党の複数の現職議員の本拠地が同じ選挙区になるケースもあるかもしれない。
選挙区が増える方向なので、立候補断念というケースは少ないと思うが。
区割り変更以外にもいろいろな要素はあると思いますけどね。
お前はいつまで議員を続けるつもりなのかって人もまぁいますから。