NHSにも歯医者はあるんだが

あれ? そうだったのと思ったんですが。

パンデミックにより、イギリスの歯科事情は著しく悪化した。英国民保健サービス(NHS)の待機者リストは肥大化し、虫歯の治療に12ヶ月待ちを記録する異常事態となっている。

(歯科予約がイギリスで12ヶ月待ち 接着剤とヤスリの「DIY歯科治療」が問題に (Newsweek))

イギリスの公的医療制度はNHSといい、原則無料で診察を受けられる。

ただ、歯科はそうではないらしいと以前見たことがあって、ということは歯科は自費診療しかないのか? と思い込んでいたがNHSもあると。

とはいえ、NHSでも歯科は無料ではなく、一部負担金があるという。

あと、眼科も同様に自己負担があり、他の診療科でも処方薬は自己負担があるという。


日本の医療保険制度ではどの診療科でも自己負担金が求められる。

高額療養費制度もあるので過度な負担にならないように配慮はされているが、

それでもある程度の所得のある世帯にとってはけっこうな負担になる。

そういう事情からすると、NHSの原則無料というのはあるべき姿に見えるが、

NHSは医療のアクセスという面で大きな問題を抱えている。


NHSで診察を受けるためにはGPという総合医を登録する必要があり、

緊急の場合を除き、GPの診察を受け、専門的な医療を要する場合はそこから紹介してもらう。

日本では医療機関がフリーアクセスであるがために、医療機関の分担に課題があり、

その点ではよい仕組みのようだが、これが大問題である。

というのもGPが専門的な医療機関に紹介しても、非常に待ち期間が長いのである。

行政から割りあてられた予算枠の中で運営されているが、リソースが慢性的に不足している。

その中で緊急度の高い患者を優先的に診察しているというのはあるのだが、

待機期間が長いので緊急になっている患者も少なくないんじゃないか。

あと、そもそもGPへのアクセスも課題があり、GPの診察を受けるまでの日数もかかる。


歯科については医科と別体系なので、GPとは別にかかりつけの歯科医を登録する。

そして歯科医の診察を予約するのだが……これがなんと12ヶ月待ちに達していると。

その背景にはNHSの歯科診療に対して支払われる報酬が少ないことがあるという。

しかもそうして長期間待って受診したところで、冒頭に書いたように歯科は自己負担がある。

以上のことを総合的に考えたときに、自費で歯科診療を受ける人が多くなる。

ただ、自費診療はどうしてもお金がかかる。誰もが受けられるものではない。

NHSは自己負担金があるといっても割安だし、減免措置もあるはず。

だからこそ低所得者にはNHSの歯科診療は重要なはずなのだが、そもそも診察が受けられないという。

この結果が「DIY歯科診療」だという。

そこまでいかずとも、NHSでの歯科診療を待てないから、プライベートの歯科で安価で手っ取り早く抜歯を選んでしまうのもなかなかの問題である。

と、NHSの歯科診療は大変な機能不全に陥っているということである。


こういう話を聞くと、日本はあんなに歯医者があってよくやってるなぁと思うが。

歯医者だけじゃないですよね。他の診療科もいろいろありますよね。

イギリスではNHSの医療機関とプライベートの医療機関があるというけど、

日本では保険医療機関しか基本的にはないですよね。

もちろん保険適用外の診察もありますけど、虫歯の治療を保険適用せずやる人はいないでしょう。

もっとも詰め物については保険適用外の素材で自己負担で作る人はいるが。

その場合も虫歯を削る部分は健康保険が適用されている。これを選定療養という。

健康保険の適用範囲はいろいろ制約はあるが、治療効果を大きく損なうほどのものではないだろう。


NHSの医療機関のコストは税で賄われているため、国の予算次第である。

それに対して日本の場合は、各種の健康保険制度がある。

この保険制度には税金も投入されているが、主には保険料負担による。

社会保険制度全般に言えることですが、基本的には保険料で賄うところだが、

負担能力が低い人の負担軽減のためには税金が投入しているということがある。

最近は高齢化で医療・介護への税投入が増えているが、保険料負担も増えた上で税負担も増えているということである。


だからといって際限なく医療費が増えては保険料・税負担が増えて困るので、

診療報酬というのは医療機関のコストを合理的に反映するようにしている。

日本で保険診療を受けるメリットとしては、この診療報酬が適用されることで、これがそもそも安いんですよね。

その上で自己負担3割、高額療養費制度なんてのもあるわけですから。

それでもちゃんと医療機関の経営は成り立つわけですよね。

日本では民間の医療機関が多くて、それもけっこうな高価な設備もいろいろ持っている。

それに見合っただけの収益が得られるということである。


ただ、そのためには医療機関は効率的な経営が求められるのも事実で、

新型コロナウイルスで入院治療を受けるべき人が激増したときに、対応する余力が無いということが問題となったこともある。

また、看護師などの所得水準が低いことも問題である。

だからといって単純に診療報酬を増やせない事情もあって、

保険料や税負担が増えることの問題だが、そうして増やした報酬が人件費に回るわけではなく、診療報酬で経営者が私服を肥やすだけになりかねない。

最近、介護・看護・保育といった分野で「処遇改善加算」という形で、確実に給料に回る場合にはその事業所の報酬に一定の加算するという制度ができた。

しかし、条件が厳しいので適用されない事業所が続出している状況。


民間の医療機関が公的な医療制度の多くを担っていることはありがたい。

なかなか公的な医療機関だけでここまで張り巡らせるのは難しいでしょう。

ただ、それゆえの課題もけっこうあるのは確か。

しかしイギリスのNHSはそういう問題を超越しているのは確かなんじゃないか。