日本の在外公館は大使館と総領事館と政府代表部で構成される。
政府代表部は後で紹介するけど、国際機関に対応して設けられる組織で、
一般的には首都に設置される大使館と、それ以外の主要都市に設置される総領事館というのが一般的な考えだと思う。
なお、過去には公使館、領事館も存在したし、現在も設置する国はあるが、日本では大使館、総領事館に集約されている。
大使館の代表者は特命全権大使で、領事館の代表者は総領事だけど、これってどれぐらい違うのか?
また、日本には公使館はないと書いたが、大使館に公使が詰めていることがあるらしい。公使は大使とどれぐらい違うのだろうか?
以前、兼勤駐在官事務所のことをこう紹介した。
「在セーシェル日本国大使館」という看板の付いた建物はセーシェル国内にあるが、
在セーシェルの外交団の代表である特命全権大使はケニア国内にいるので、名目上の大使館はケニアにある。
このため、セーシェルにある大使館と看板の付いた建物は日本の制度上は「兼勤駐在官事務所」となる。
しかし、この事務所には(特命全権大使ではない)大使という役職の人が詰めている。
調べたところ、外務公務員法という法律では、特命全権大使・特命全権公使・特派大使・政府代表・全権委員・外務職員が外務公務員として定義されている。
このうち常勤なのは特命全権大使と外務職員だけですね。
(外国での儀式・会議に参加するために特派大使・政府代表が任命されることはある)
外務職員は外務省所属の一般職公務員で外交領事業務に従事する外務省本省か在外公館勤務のものということ。
それ以外の外務公務員は特別職ということで天皇による認証を要する。
特命全権大使は天皇からの信任状を託され、これを任地の国家元首に捧げるわけですね。
これによって日本政府を代表して外交上の交渉ができるわけですね。
というところで、(特命全権大使ではない)大使も、(特命全権公使ではない)公使も、総領事も定義されてないじゃないかとなった。
しかし、外務公務員法では「公の便宜のために国際慣行に従い」省令で定める「公の名称」を名乗ることを認めている。
ここにいろいろな名称が定義されている。
領事業務にあたる職員として総領事などの名称があること、
「主として外国政府と交渉し、又は国際会議若しくは国際機関に参加する職員その他特別の必要がある職員」に大使・公使を名乗らせることがわかる。
だから、常勤の外務公務員は特命全権大使とそれ以外(一般職)に二分されていて、
そこから必要によって大使・公使・総領事などの役職が振られるというわけか。
特命全権大使とそうでない大使がいるというのは、
会社の役職で 常務取締役 と 取締役ではない常務 がいることにも似ているかも知れない。
同じ常務という役職でも、常務取締役は会社法上の役員であって、取締役ではない常務は従業員でしかない。
社内における立場はあまり変わらないかも知れない。
実のところ、特命全権大使が一般職の外務省職員に対して格上かというと、
アメリカ合衆国などの大国に駐在する大使は外務省の事務機構の最高幹部にあたる事務次官より格上という話もあるが、小国に駐在する大使はそこまででも。
大国の大使館には特命全権大使に次ぐ役職として公使がおかれるが、わざわざ置いても置かなくてもいい公使という役職を置くのだから重要度は高いでしょう。
また、総領事は本来は領事業務ということで外交業務とは異なる役割があるが、
調べると 在ニューヨークや在香港の総領事には大使という役職もあるという。
セーシェルに特命全権大使ではない大使がいるのもそうだけど、必要なら柔軟に任命してるんですね。
それでも重要なのは特命全権大使は駐在する国において日本政府を代表する立場であること。
これは国の規模によって変わらないから特別扱いなんですね
しかし、特命全権大使という役職の人でも、特定の国相手に外交を行わない場合がある。
その1つが最初に書いた国際機関に対応して設けられる政府代表部の特命全権大使。
日本政府を代表するという信任状は持ってるはずだが、渡す先はあるのか?
欧州連合日本政府代表部の大使は欧州理事会議長に信任状を渡したそうだが、
これは逆に欧州連合代表部が日本にもあって信任状を受け取ってるから特別な気がするが。
いずれにせよ国際機関において日本政府を代表するという立場は理解できる。
もう1つが国内勤務の特命全権大使……え? そんなのいるの?
「特命全権大使(沖縄担当)」「(関西担当)」「(国際貿易・経済担当)」「(北極担当)」など並んでいる。
関西担当大臣とか北極担当大臣とか一体なんだ? と思ってしまうけど、それぞれ意味は違う。
沖縄担当・関西担当はそれぞれ 外務省沖縄事務所・大阪分室の代表者として当地に駐在している。
関西担当大使は、関西圏に訪問する外国要人の受入や、外国公館が集中する大阪・神戸での外国公館対応をしているそうだ。
「オリンピック・パラリンピック競技大会担当」など国内開催の国際的イベントに合わせて、外国要人受入のための大使が設けられることもしばしばあるという。
沖縄担当大使は、大使という役職だけど専ら国内対応のための役職で、
これはアメリカ軍基地問題についての沖縄県における外務省窓口らしい。
こういう国内駐在の外交機構幹部って他の国でもあるのかな?
と調べたら 中華人民共和国外交部駐香港特別行政区特派員・駐澳門特別行政区特派員 が見つかった。
特派員は副部長クラス(外交部長=外務大臣なので副大臣クラス)の役職だそう。
国際貿易・経済担当とか北極担当の大使というのは、
国際会議などで出張ベースで日本政府を代表する大使ということですかね。
当たり前ですが、北極担当だからといって北極駐在する必要は必ずしも無い。
北極評議会という北極地域にある国々の集まりがあるが、ここに日本はオブザーバーとして参加している。
そのために大使を任命したが、普段は国内勤務でよいということでこうしているようだ。
なお、特命全権大使以外にも国内勤務の大使というのはいろいろいるらしい。
「儀典長〔大使〕」のような記載があるが、こういうやつですね。
外国政府との交渉や国際会議の参加などで必要かどうかで決めているので、
このクラスの役職なら当然に大使というのは読めないが、そういうものはあると。
というわけで制度上は非常に難しいですね。
確かなことは日本は国交を結んでいる国に対応して特命全権大使を1名(他国と兼任の場合はある)送っているということですね。
1ヶ国に2名以上ということはなく、それ以外は公使とか(特命全権大使ではない)大使ということになる。
大使館に大使が複数詰めることもないと思われるから、特命全権大使ではない大使がいるとすれば、兼勤駐在官事務所 か 総領事館 であろう。
しかし国内勤務の特命全権大使ねぇ。
国会で「それいる?」というような質問書がやりとりされているのが検索でかかるが、
確かに特命全権大使である理由はなに? という疑問は残りますよね。
「外務省大阪分室長」では小物感がすごいが、特命全権大使かというと大げさな気はする。