塩化カルシウムは難しい

先日、韓国が尿素水不足で困っているという話が合ったが、

国内在庫や中国以外からの緊急輸入などで当座はしのげそうということになったようだ。

とはいえ、世界的な供給の相当分を担ってきた中国からの輸出が止まると、

日本を含めて世界的な尿素、あるいはアンモニア派生品の供給にも影響するわけですから、

日本だって人ごとではないわけで、どうしたもんかなと思う。


そんな韓国のニュースなのですが。

「第2の尿素水」塩化カルシウム?…韓国内では生産中断、中国産が99.5% (Yahoo!ニュース)

塩化カルシウムも尿素と同じように中国からの輸入に極端に依存している物質で、

実は韓国では過去に冬場の気候が厳しかったときに不足して困ったそうである。

実際、2009~2010年と2012~2013年の冬、全国的な大雪で塩化カルシウム不足現象が起こり、地方自治体が除雪作業に大きな困難を抱えることになった。国内の需要は急増するのに、気象の悪化によって輸入塩化カルシウムの船積が遅れて価格は暴騰した。

輸入規制とかそういう話ではないですが、供給量増加に対応しにくかったと。

調べたところ、日本でも塩化カルシウムを国内で製造する業者は1社のみとなっており、

中国からの輸入に頼るところが多い物質だという。

それがリスクとして大きいかというとなんとも言えないところがあるが、難しい事情もある。


塩化カルシウムの用途としては、道路などに撒く融雪剤と、乾燥剤としての用途がある。

塩化カルシウムの製造はソーダ灰(炭酸ナトリウム)の製造と関係が深い。

ソーダ灰の工業的製造法のソルベー法では、同時に塩化カルシウムも生産される。

すなわち塩化カルシウムはソーダ灰の副生物というわけなんですね。

しかし、ソーダ灰の製造方法はソルベー法に限らない。

ソルベー法は食塩と石灰石を原料にソーダ灰と塩化カルシウムを作る方法である。

一方で、主にアメリカで算出されるトロナという鉱物を焼くことでもソーダ灰は作れる。

実はこの方法が低コストであるので、アメリカ産天然ソーダ灰は競争力が高く、世界供給の3割ほどがこれだという。


結局のところ、ソーダ灰・塩化カルシウムの供給について日本も韓国も置かれた状況は似ていて、

歴史的にはソルベー法で国内生産をしてきたところ、

アメリカからの天然ソーダ灰と、中国でソルベー法で製造されたソーダ灰・塩化カルシウムが入ってくる。

さらにソーダ灰の需要は減少傾向にある。

これはソーダ灰の需要として大きいのがガラスの材料なのだが、

飲料容器はプラスチックに代替され、ブラウン管テレビは作られなくなり、建物用のガラスの需要も減っている。

このことから国内でのソーダ灰製造の必要性はどんどん減っていったわけである。

現在、日本国内でソーダ灰・塩化カルシウムの製造を行っているのはトクヤマだけで、

この前にはそれまで製造していた セントラル硝子 と販売会社の統合を行っている。

独占禁止法の審査資料を見ると、国内の供給が1社になるが、輸入品との競争があるので問題にならないという記載がある。


ところでどうしてソーダ灰・塩化カルシウムを中国から輸入するんでしょうね。

日本もソーダ灰は輸入品はアメリカ産と中国産であり、塩化カルシウムの輸入品は中国産という。

アメリカ産ソーダ灰はトロナに由来するものなので、これは理由が明確ですが。

調べたところ、原料となる食塩を生産する塩田がある地域でソーダ灰の製造をしているからだという。

ソーダ灰の原料は食塩と石灰石で、どちらも日本にたくさんあるわと思ったかも知れないが、

実はソーダ工業用の食塩というのは大半がオーストラリアなど外国からの輸入である。

塩作りもいろいろ

日本国内で海水から塩を作る場合、イオン交換膜を使って海水を濃縮して煮詰める方法である。

この方法は気候に左右されず、安全性の高い塩が作れるが、塩化マグネシウム(にがり)などの不純物がやや多くなる。

食用としてはあまり問題はないが(それどころか にがり を多く残した食塩も製造されている)、

工業用としてはこれは不都合な場合があり、そのような純度の高い塩は天日塩の輸入で対応しているという。

なお、工業用であっても純度の要求が厳しくない食品工業用・融雪用・ボイラー用としては国産の食塩も使用される。


さて、冒頭に書いたが塩化カルシウムの用途としては融雪剤と乾燥剤の用途があるが、

実は道路が凍結する前に撒くならば、食塩の方が低コストでより効果的である。

このことから塩化カルシウムの利用を減らして、食塩を多く使うようにする傾向があるという。

ただ、それが塩化カルシウムがいらないというわけではなく、

塩化カルシウムは溶解熱が大きいため、溶けることで氷を溶かす効果がある。

なので、凍結した後に散布するならば塩化カルシウムの方がよいため、そこに役割分担がある。

とはいえ、融雪用の塩化カルシウムの供給が細るなら、食塩への代替が進むであろうと。


そんなわけで、塩化カルシウムの国内製造というのは多方面からの影響で細っていくわけである。

ソーダ灰はトロナを焼けば作れるから、そもそもソルベー法を使わなくてよいし、

ソルベー法の原料の食塩を輸入するより、塩田とソーダ灰製造が直結した地域から輸入するのが有利だし、

塩化カルシウムの値段が上がれば、食塩の散布に切り替えるところが多くなる。

なんとか日本では1社だけ持っているが、どうなんでしょうね。


余談ですが、中国のどこに塩田とソーダ灰工場があるのかと調べたところ例えば山東省らしい。

青島市を中心に化学工業が盛んであり、この背景にはソーダ工業があるとのことである。

しかし緯度は水戸市と同じ程度、塩田作るにもそんなに日照などの条件がよいとも思えないが。

調べたところ冬場は乾燥するので、これを生かして塩を作っているらしい。

日本の輸入天日塩というとオーストラリアやメキシコで製造され、ここら辺は年柄年中降水の少ない地域なので、

2年などの長期間かけて海水を濃縮して、食塩を結晶化させていくわけだけど、

中国の場合、夏は雨が降るのでそういうわけにはいかず、春に塩の収穫をするということらしい。

あと、乾燥した地域だと塩が堆積した層の上に塩田を作れるが、

雨が降る地域ではそうもいかず塩田をタイル張りして、泥が混入しないようにしているらしい。


あとトロナって何かという話ですが、これは塩湖の堆積物に由来する鉱物だそう。

日本では塩といえば海にあるものだが、乾燥地などでは内陸でも塩分が貯まるところがある。

それが湖水としてあれば塩湖であり、地中に閉じ込められれば岩塩である。

そして塩湖が二酸化炭素を吸収すると炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムになり、

それが地中に閉じ込められ鉱石化したものがトロナであるということで、できる条件はけっこう厳しい。


日本で食塩といえば、国内の海水から作ったものか、オーストラリア・メキシコなど年柄年中降水が少なく日照に恵まれた地域で作られたものかが大半である。

しかし、中国のような雨が降る季節がある地域で作られた食塩に由来する物質も輸入しているし、

塩湖によって育まれた鉱物に由来する物質も輸入しているというわけですね。

このあたりは知らないことだらけだった。