出生届は誰でも出せるわけではないが

こんなニュースがありましたが。

「内密出産は、法令に抵触する可能性」 慈恵病院に熊本市が見解 (朝日新聞デジタル)

熊本市の慈恵病院、「こうのとりのゆりかご」を設けていることで知られているが、

とある女性が家族に出産を知られることを懸念し、匿名での出産を希望するという話があって、

結果的にはこれはなくなったのだが(cf. 匿名での出産希望の女性、身元明かすことに同意 出産後に考え変わる)、

それは可能かと熊本市に問い合わせていたものの回答が来たところによれば、それは法令上難しいのではないかとのことである。


ところで出生届を提出できる人というのはかなり厳密に決められている。

戸籍法第五十二条 嫡出子出生の届出は、父又は母がこれをし、子の出生前に父母が離婚をした場合には、母がこれをしなければならない。

② 嫡出でない子の出生の届出は、母がこれをしなければならない。

死亡届と並んで本人が提出できない届出の1つである。

嫡出子の場合は父か母、非嫡出子は母ということである。

このことから出生届の届出人(戸籍に必ず記載される)が「父」でなく「母」であった場合、

非嫡出子と疑われる可能性があるという話があるが、戸籍はむやみに見られるものではないし。

なお、これは出生届に記載する人がこれでなければならないという話であって、

署名(ちょっと前まで署名押印だった)をしてしまえば、実際に届出を持参するのは代理人でよく、

さらに窓口での本人確認もないので、わりと怪しいもんだけど。


ほぼこのルールにより届出がなされているが、

例えば非嫡出子で母親が出産後に亡くなったりすると、誰も届出ができないことになる。

それでは困るので、上記の人が届出ができない場合はこう規定されている。

③ 前二項の規定によつて届出をすべき者が届出をすることができない場合には、左の者は、その順序に従つて、届出をしなければならない。

第一 同居者

第二 出産に立ち会つた医師、助産師又はその他の者

というわけで同居人(子を実際に育てることになった人ということかな)も届出可能で、

これも無理ならば出産に立ち会った人も届出ができるわけである。


さて、最初の話に戻るわけですが、慈恵病院には「こうのとりのゆりかご」があって、

これは捨て子を保護するためのものであって、出生届は提出されていないはずである。

この場合、病院は警察に通報し、熊本市長が戸籍に登録することになる。

戸籍法第五十七条 棄児を発見した者又は棄児発見の申告を受けた警察官は、二十四時間以内にその旨を市町村長に申し出なければならない。

② 前項の申出があつたときは、市町村長は、氏名をつけ、本籍を定め、且つ、附属品、発見の場所、年月日時その他の状況並びに氏名、男女の別、出生の推定年月日及び本籍を調書に記載しなければならない。その調書は、これを届書とみなす。

その後、特別養子縁組などの方法で育てられることとなるとみられる。


ところが病院で出産した場合はそういうわけにはいかないんですね。

まず、母親が届け出るべきという原則は、本人にその意志がないという。

となれば、この場合は病院(医師・助産師)が届出をするべきである。

ところが病院は母親の身元を知ってるんですよね。

「内密出産」は、予期しない妊娠をした女性が孤立出産をして母子の命が危険にさらされることを防ぐため、病院の担当者にのみ身元を明かして出産し、子どもは後に出自を知ることができる仕組み。慈恵病院は独自に受け入れを表明しているが、実例はない。

にもかかわらず、そのことを出生届に記載しないのは不誠実であるし、受け入れられないだろう。

また「棄児」でもないだろうから、市町村長が戸籍に記載するのも違うだろう。

もしも、病院も戸籍への記載をしなければ、生まれた子供の権利に関わる大きな問題である。

これはさすがに受け入れられないだろう。ゆえに不可能ではないかということだと思う。


しかし、これを見て思ったんですけど、届出義務がある人が母親の身元を本当に知らなければどうなるんでしょうね?

実際にこんなことがあるかはわからないんですが……

父親は母親の身元は知らないけど、生まれた子を引き取って育てて、母親は失踪したとする。

すると父親は出生届を出さないといけない。

非嫡出子だから本来は届出できないが、母親が届け出ないなら同居人として届け出るしかない。

で、この場合、母も父も出生届には書けないじゃないか。

(出生届に父の名前を記載できるのは嫡出子か胎児認知がある場合に限られる)

いずれにせよ法務局への問い合わせなどでかなり難航しそうだなとは思う。

病院に間に合わず出産… 出生証明書出る?出ない? (朝日新聞デジタル)

医師・助産師の発行する出生証明書がない場合、出生届の受理に時間がかかるという話がある。

聞き取り調査、写真、DNA鑑定により確認しているようである。


ちなみに出生届は本人が提出することができない届出だと書いたが、

本来提出すべき人が提出しないまま大人になってしまった場合には別の方法がある。

無戸籍の方に関する手続 (法務局)

2つ方法があって1つが法務局から出生事項記載申出書を提出してもらう方法。

これは本来、出生届を出すべき人(母親など)が判明していて、催告しても届出をしない場合にとれる方法である。

こんなのがあったんですね。

もう1つが裁判所の許可を得て就籍する方法。これは父母が戸籍上特定できない場合に取られるという。

そうなる前になんらか打開して欲しいところなんですが。


ちなみに法務省によれば母空欄の出生届であっても日本国籍があるのが確かなら戸籍に記載するだろうとのことである。

匿名で出産希望の女性保護 病院 “行政は早急に対応を” 熊本 (NHK)

ただ、母空欄の出生届がどういう場合に発生するのかは明らかではないところがある。

この慈恵病院の「内密出産」では病院が母親の身元を知る以上は該当しないだろうが、

世の中には何らか存在しているのかも知れない。

ただ、市町村の判断でできるものとは思えないので、法務局とのやりとりで時間はかかるだろうけど。