イギリスの本家ダービーステークス、日本から参戦かと言われた馬が2頭いたが、
いずれも国内で皐月賞・日本ダービーと走るのが本線となったようだ。
これ自体は結局はそうなるよねという感じなのだが、
ダートに目を向ければケンタッキーダービーを目指すのが何頭かおり、
今月末のUAEダービーは日本からの参戦ではもっとも重要な前哨戦である。
大井のダート三冠が創設されてもこのルートに賭ける馬は多い。
イギリスのダービーに参戦かと言われたのが2頭いると書いたが、
まず1頭目がシンエンペラーである。2020年の凱旋門賞を優勝したSottsassの弟である。
矢作調教師がフランスのセリ市に出向いて210万euroで落札したんだよね。
当然、これはオーナーからの依頼を受けてのことだが、藤田晋氏である。
こんなん日本で走るんかと思われたところもあったが、京都2歳ステークスを優勝、
この頃に英ダービーも視野と報じられていた。
その後に年末のホープフルステークスで2着となったのだが、
この走りを見た結果なのか、国内路線でという話になったようである。
もう1頭がジャスティンミラノ、共同通信杯優勝後にダービー登録を行った。
「選択肢を広げるため」ということだったが、こちらも皐月賞→日本ダービーに決めたようである。
そもそも前提条件として、元々イギリスのクラシック5競走は1歳時から登録が必要だった。
しかし、これが今年から廃止され3歳2月に初回登録を行えばよいことになった。
これにより出走の確度が高まった段階で登録を行えばよくなり、上記のような話が出てきたわけである。
なお、日本においても桜花賞・皐月賞・オークス・ダービー・菊花賞は2歳10月に初回登録が必要で、
本家に比べれば幾分遅いが、他のG1レースが2週間前と考えると早い。
もっとも現在は追加登録も可能で、その場合でも登録料は200万円である。
10着以内に入れば賞金(出走奨励金)で元が取れるレベルなので、特に菊花賞は追加登録での参戦は多い。
本家ダービーの出走を考えた明確な理由はわからないのだが、
シンエンペラーは皐月賞・日本ダービーに向かないという懸念があったのではないか。
スピード勝負の色合いの強い春二冠は向いていないという考えである。
皐月賞前にもかかわらず「菊花賞の本命」と言うような人もけっこういる。
ただ、最終的には皐月賞・日本ダービーと走るべきという判断になったようである。
ジャスティンミラノは日本ダービーの出走権争いが厳しいと見たためではないかというのがある。
重賞を勝っていれば普通はダービー出走は問題ないと考えられるのだが、
今年は賞金順での出走が厳しくなるかもしれないという観測もあったようだ。
心配しすぎな気はするんだけど「選択肢を広げるため」という理由は理解できる。
皐月賞で5着以内に入れば優先出走権が得られるので、そこに入れれば問題ない。
皐月賞には勝つ気で挑むなら、ダービーも当然出走できるという理屈ではないか。
さて、冒頭にダートだとケンタッキーダービーを目指す流れは根強いが、
本家ダービーとケンタッキーダービーの違いは賞金である。
日本ダービーの1着本賞金は3億円(2023年~)となっている。
去年までは世界で最も賞金が高いダービーは日本ダービーだった。
皐月賞と菊花賞も1着本賞金は2億円に引き上げられ、三冠ボーナスは3億円、
ちなみに本賞金と言っているのは、この他に登録料を原資とする付加賞があり、
クラシック競走は早期登録のため付加賞の金額が比較的多く、
昨年の日本ダービーの1着付加賞は2735万円と、実際は1割増ぐらいになる。
一方の本家ダービーは1着賞金は85万ポンド、1.6億円ぐらいか。
イギリスにしては高額賞金だが、日本ダービーの半額なんですよね。
ちなみに2000ギニーの1着賞金は2000ギニー(2100ポンド)……ではなく約19万ポンドで3500万円ほど。
ジャスティンミラノが勝った共同通信杯は4100万円、G3だがこっちの方が高い。
これがダートになるとだいぶ違う。
今年から始まる大井のダート三冠の1着賞金は 羽田盃が5000万円、東京ダービーが1億円、ジャパンダートクラシックが7000万円である。
従来の賞金を考えれば大奮発である。あと三冠ボーナスも8000万円ある。
とはいえ、ケンタッキーダービーとUAEダービーと比べると見劣りする。
ケンタッキーダービーは今年から1着賞金310万USドル、およそ4.6億円である。
日本ダービーが世界最高賞金のダービーでなくなったのはこれが原因である。
芝に限れば日本ダービーは引き続き世界最高賞金のダービーである。
なお、昨年の賞金は186万USドル、それでも2.7億円だから高額である。
これに並ぶほど、というか一時抜かれたことがあるほど高額賞金のダービーがある。
それがUAEダービーである。今年の1着賞金は58万USドル、8500万円……
あれ? いや、この金額でも羽田盃よりは高額ですけどね。
確認したところ2020年だけ賞金が高くて1着150万USドルで大奮発だったと。
で、このときにケンタッキーダービーの賞金を追い抜いて、
それに対抗してケンタッキーダービーの賞金が増額、今年にさらに増額して逃げ切りを図った。
一方のUAEダービーはドバイワールドカップデー全体の見直しで減額になったと。
とはいえ、UAEダービーはG2である。そう考えれば今の賞金も高額である。
ちなみにアメリカ三冠の他のレースは、プリークネスステークスが1着90万USドル、
ベルモントステークスが1着120万USドルである。
短期決戦のアメリカ三冠完走は容易ではないが、もしもUAEダービー→アメリカ3冠を連勝すれば、578万USドル、およそ8.5億円である。
京浜盃(羽田盃の前哨戦)と大井のダート三冠を全部勝っても3.3億円である。
これまでの賞金を考えれば頑張ったのだが、これは全く歯が立たない。
登録料なし(競馬法の規定で地方競馬は登録料の制度がない)、輸送費はTCKまたはJRAが負担だから、リスクは全然違うが。
ただ、JRA所属馬にとっては春二冠は出走権争いが厳しい問題もある。
全日本2歳優駿を優勝したフォーエバーヤングがUAEダービー→ケンタッキーダービーを選んだのは、
名誉や賞金のこともあるだろうけど、国内の出走権争いから逃れる意味もあったと思う。
UAEダービーの前にサウジダービーに出走して優勝、90万USドルを獲得している。
ってサウジダービーってUAEダービーよりも東京ダービーよりも賞金高かったんですね。
G3なんですけどね。(国際格付けのない東京ダービーには言われたくないだろうけど)
以前、旧友と賞金が高いレースはやはり面白いという話をしたのだが、
賞金が高いから充実したレースになるかというと必ずしもそうとは言えないが、
賞金が安いレースはだんだん細っていくし、高いレースはだんだん充実してくる。
それが顕著なのが3000m級の超長距離戦ではないか。
日本生まれセントレジャー経由凱旋門賞行き
イギリスではセントレジャーはもはや春二冠取るような馬が走るレースではない。
ニジンスキー(1970年三冠達成)が最後の三冠馬ではないかと言われているが。
伝統あるレースのあるイギリスだが、2400m以上の長距離戦を軽視する流れもあり、
そこをアイルランドのクールモアが送り込んだ日本産馬(父ハーツクライ)がかっさらっていったわけである。
というかダービーの2400mですら怪しいんだよね。
ダービーを勝ったAuguste Rodinもクールモアが送り込んだ父ディープインパクトの馬ですからね。
(生まれはアイルランドだが、母馬は交配のために日本に来ている)
賞金が安くては投資もままならんと、イギリス競馬の貧乏エピソードでもある。
一方の日本では3000m級のG1としては菊花賞と天皇賞(春)がある。
3000m級の3歳戦というセントレジャーを忠実に続けるのは本家と日本の菊花賞ぐらいしかない。
日本でも菊花賞をパスする有力馬が増えたり、3200mの天皇賞(春)が格上挑戦余裕だったり、
3000m級のレースレベルが少し危ぶまれた時期もあったが、
それぞれ皐月賞と天皇賞(秋)の賞金引き上げに合わせて2億円と2.2億円になり、持ち直してきた感はある。
なお、優勝馬のレベルは安定して高く、天皇賞(春)も菊花賞も世界のトップ100 G1レースの常連である。
昨年のケンタッキーダービーのときこんなことを書きましたが。
将来的には東京ダービーをケンタッキーダービーに並ぶ権威のあるレースにしたいけど
(ケンタッキーダービーに3頭参戦)
日本ダービーはもはや本家ダービーを凌駕するレースになっていると言える。
それはシンエンペラーとジャスティンミラノが国内路線を選んだことにも現れている。
一方の東京ダービーはまだ国際格付けもないし、賞金もまだ物足りない。
目指すところとしては地方競馬を含めた日本ダート競馬のレベルアップだろう。
裏付けとなる馬券売上次第だが、下級クラスも含めて賞金を上げていき、
その先にはケンタッキーダービーを凌駕する権威あるレースになることもあるかもしれない。
ちなみに今年から時期がかわってドバイワールドカップとドン被りと書いた川崎記念、
今年から1着賞金1億円になるそうで。東京大賞典と同額で帝王賞(8000万円)より高い。
帝王賞より川崎記念の方が高額賞金!? とざわついていたが。
TCKはダート三冠とその前哨戦でかなりの賞金増額をしてしまった一方、
川崎記念は年間を通じたレースの充実のために時期変更したのに、どうしても充実してもらわないと困るという理由はありそうだが。
確かに帝王賞は同時期に他によきレースがないので勝手に充実しますからね。