やはり無力化されたストライキ

昨日、JRA厩務員・調教助手の労働組合がストライキをやっていた。

これは去年3月に実際にストライキをした3つの組合によるもので、

栗東トレーニングセンターの多数派組合である全国競馬労働組合は不参加である。

無力化されたストライキ

ということは影響はほぼ美浦トレーニングセンターに留まるということ。


去年と似ているのは影響範囲が主に美浦のみということだが、

今回はそもそも全国競馬労働組合はストライキ予告するまでもなく妥結している。

去年の経緯も踏まえれば2011年からの新賃金体系を抜本的に見直すのは難しいだろうし。

その時点で競馬開催を全部中止するというのは現実的ではなかっただろう。

しかも今週末はダービーウィークということで東京・京都の2場開催、

ダービー週にストライキをぶつけてきたのは世間の注目度を高めるため、

という側面もあったかもしれないが比較的人手がかからない週末という側面もあったのかもしれない。


と、それではストライキの意味がないではないかという話だが、

逆に実効性を高めようとしたのが木曜の交渉で決行と決めてしまったことと、

土曜に競馬開催に関わらない業務も含めて全面的にストライキをしたことである。

去年のストライキは週末の競馬開催に関わる業務が対象で、

交渉を金曜夕方まで引っ張ったため、ストライキ回避する前提で輸送もしてしまったことで実効性を失ってしまった。

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「今回は(水やエサやりをする)保安員も置かなかった。言いたくはないが、ホースマンとしてはがっかりする手法。これは今回が初めてだと思います」とある。

一見するとそれだと馬の世話をする人が誰もいなくなってしまいそうだが、

実際には正規の厩務員ではないスタッフがいるので、最低限はそれでなんとかなるだろうと。

そこを見越して全面ストライキに踏み切ったのではないかと見た。

ストライキ中の人手を確保したければ競馬をやらなければよいということである。


とはいえ、このストライキもあまり実効性のないものになってしまった。

通常は土曜出走馬の美浦~東京競馬場の輸送は土曜朝に行うが、

ストライキ期間に入る前の金曜中に輸送をしてしまったのである。

日曜出走馬は東京なら当日輸送、京都なら前日輸送だから通常は影響はあるが、

これは頭数も限られるし、おそらくは金曜輸送で対応したのではないか。

この結果、出走取消は日曜の京都で1頭出ただけだったらしい。

(もっとも、その前にストライキを見越して回避した馬はいるかもしれない)

競馬場まで連れて来れば、栗東の調教師あるいはJRA職員の支援もあるわけだ。

通常は厩務員・助手のやる作業をこれらの人が対応していたわけである。


以前も書いたのだが、栗東と美浦でストライキへの対応が分かれたのは、

厩務員・助手は賞金の5%を進上金として受け取るという構造があるように思う。

もしも馬主が賞金を稼げていれば、厩務員・助手も賞金を稼げていると。

賞金が稼げる自信があればストライキなんてやらん方がいいわけである。

ただ、成績が低迷する厩舎にとってはそうはいかない。

そこで給料の底上げを訴えているわけだが、これは結果を出せないのに給料を要求することである。

厩舎スタッフの給料というのは預託料として馬主に請求するのだが、

このような構造からなかなか馬主には理解が得られにくい状況である。

ただでさえ飼料代の負担が増加しているというのにである。


一方のJRAにとっても厩舎スタッフの肩を持つ理由は乏しいところがある。

JRA所属馬の出走1回につき厩舎運営奨励金として150000円を支払っている。

今年から35000円上乗せされ、これはスタッフの処遇改善にも使える。

これは直接的に厩舎に支払われる報酬だが、馬主にとっても特別出走手当があり、

出走させることで預託料をある程度はまかなえる仕組みである。

JRAとしても出走頭数を確保しないと馬券が売れないわけだから、

出走馬確保のために手当を充実させる考えはあるかもしれない。

でも実際はダートや芝短距離で出走機会が得にくい馬が多いわけである。

だからJRAとしても成績が出ない厩舎や馬主の肩を持つ理由はあまりない。

強いて言えば頭数が少なくなりがちな芝中長距離に出られる馬を集めてほしいと。


JRAの認識としては現状のトレーニングセンターの規模は法令で定められたレース数に対して過大で、

実際、調教師への貸付馬房数はゆるやかに減少しているところである。

馬房数と厩務員・助手の定員というのはリンクしてるので、これも少しずつ減っていると。

レース数に比して馬の数が減れば、クラス下位の馬も出走機会が得やすく、手当・賞金の底上げにもつながるとは言える。

ただ、そうすると厩務員・助手の総数が減るわけである。

2011年に厩舎スタッフの定員減に合意したときも退職者を補充しないことで減らしており、

厩務員・助手を目指す若手が減っているという問題の解決にはならない。


結局は旧賃金体系の厩務員・助手がもらいすぎという話になるのかもしれない。

当時、不利益変更と言われないように賃金テーブルを維持してしまったが、

それがゆえに若手の報酬を底上げするのが難しくなっているのではないか。

出走機会の底上げができれば報酬を増加させられる可能性はあるが、

年間のレース数が限られているため分母を減らす方法でないとなかなか難しく、

そうすると結局は新しい厩務員・助手を雇えないという結果になってしまう。


結局のところ厩務員・助手の報酬というのは低い方に合わせざるを得ない。

調教師にとっても人事の自由度が低いという事情もあるし、

厩務員・助手にとっても調教師の定年や馬房減があっても他の厩舎に移って雇用が維持される。

担当馬(厩舎内で分配する場合は厩舎所属馬)に左右される進上金はいいシステムとはいえないが、

基本報酬を低い方に合わせる代わり、成果報酬が大きいという形でバランスを取っているとは言える。

抜本的に見直すべきではという話はあるかもしれないけど、それは容易な話ではない。


今回のストライキは去年と作戦の差はあったが、競馬開催を押し切られてしまうのは承知の上だったのでは。

その上で厩務員・助手の報酬はどうあるべきなのかと馬主らに考えてもらう。

2場開催のダービー週の土曜日というところにねじ込んできたのは、

パフォーマンス以外のなにものでもないが、それが重要だったのだろう。

それにしても美浦だけのストライキでは効果がなさすぎますが。


さて、今日の日本ダービー、優勝したのはダノンデサイルだった。

馬主のダノックス(野田順弘オーナー)と言えばセレクトセールで爆買いしていることで知られ、

もう1頭のダービー出走馬、ダノンエアズロックは4億5000万円(本体)の超高額馬である。

ダノンデサイルもセレクトセールで1億3500万円(本体)で十分に高額である。

ダノックスはNHKマイルカップ2勝(ダノンシャンティ、ダノンスコーピオン)、

香港スプリント優勝(ダノンスマッシュ)などマイル以下の戦績がずば抜けている。

一方で中長距離となるとイマイチという感じはあったが、

それでもダービー勝つんだからやっぱり持ってる馬主だと思いますね。

高額馬を買えばなんとかなるというものでもないですから。

まさかの長距離G1初制覇がダービーとはびっくりだね。


あとレース後に驚いたのは3着のシンエンペラーが凱旋門賞に行きたいという話。

去年から菊花賞の本命と言われ続けていたのだが菊花賞ではないらしい。

ダービー勝てば凱旋門賞だとは思ってたが、勝てなくてもそっちなんですね。

数々の快挙を成し遂げてきた矢作調教師がそう言うのだから、

菊花賞より凱旋門賞というのはある程度は確信があるのだろう。

ホープフルステークス2着、皐月賞5着、ダービー3着と勝ちきれないが、

戦績としてはそれなりに立派だし、体裁としては悪くはないんだろう。