陸上国境の走る沙頭角

日本と他の国の国境はすべて海上に引かれている。

なので陸上国境というのはどうにもなじみがないものである。

陸上の国境も川や湖など水域を隔てている場合もあるし、

山や原野などあまり人が住まないところにひかれるものが多い。

ただ、場合によっては市街地の中に引かれる国境というのもある。


日本にはどうにもなじみのない陸上国境、事実上もっとも近いのは香港である。

中華人民共和国の香港特別行政区は独自の出入境管理を行っている。

隣接する深圳市の間は陸続きだが、この境界は国境同様に扱われている。

イギリス統治下だった時代からの経緯もありかなり厳格な管理を行っている。

香港側では境界部付近を辺境禁区という許可を得なければ入れない地域にしており、

そのような事情もあり香港の中では自然豊かな地域だとされている。


そんな香港と深圳の間なのだが、1箇所だけ市街地にひかれた境界がある。

それが沙頭角である。陸上境界の東端にあたる。

イギリスが香港のうち新界を租借するとき、河口を境界に定めたのだが、

川が干上がってしまい陸地化、そこに市街地ができてしまったということだそう。

この境界部には中英街という、片側が中国(深圳)、片側が英国(香港)という通りができた。

さて、道路を挟んで片側が深圳、片側が香港ではどうやって管理しているのかと気になるところだが……


まず、沙頭角一帯は両地域とも許可を得なければ入れない地域になっている。

香港側は中英街を除く地域は近年は比較的許可を得やすいようである。

日本人でも手続きを踏めば入ることができるので観光で訪れている人の情報が見つかる。

というのも沙頭角を香港北部の海上観光の拠点にしようとしているようで、

その目的でまずは船着き場への往来を認めるようにして、まもなく中英街を除く地域の往来が容易に認められるようになったと。

ただ、中英街については香港側から許可を得て入るのはとても難しいことが知られている。

事実上は中英街に住む香港住民以外は許可が出ないということである。

中英街と出入りする部分には検問所が設けられている。


一方の深圳側なのだが、こちらは大陸住民は一定の制約のもと許可が出るそうである。

こちらで許可を得ると中英街の香港側まで往来できることになる。

さっき出てきた検問所は中国側で許可を得て入った人を通さないという目的もある。

と、考えると便宜上は中英街の香港側までは事実上は大陸側の管理下にあるとなりそうだが、

確かに出入境管理の点ではそうだが、もう1つ観点があってそれが税関である。

この中英街一帯は香港側の関税制度が適用されているとみられる。

香港は輸入品の関税はほぼ無税だそうなので、大陸からここに来て買い物すると免税ショッピングができる。

免税ということを抜きにしても香港で売っているようなものが買えると。

このため賑わったという経緯があるのだが、それをおおっぴらにやっては密輸である。

そこで深圳側から入った人は一定額以下のものしか持ち出せないようになっている。

また、地元住民を別としてはあまり頻繁には許可が出ないようである。


国境地域への立ち入りには特別な許可を要することや、関税制度で特別な扱いがあることは多いようだ。

逆に言えば、これらの制度が同制度とみなせる場合は往来を制限する必要はない。

オランダとベルギーの国境が入り組むバールレという町があるが、

1つの町にオランダとベルギーの2つの町の行政機関があるなど、

生活面では家屋の玄関のある国の制度に従う点で国境を意識する必要はある。

しかし、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの3国は以前よりベネルクスという関税同盟を結んでいた。

しかし、その前にはさらに歴史があって、それが1815年に成立したネーデルラント連合王国である。

ちょうど現在のオランダ・ベルギー・ルクセンブルクに相当する。

組織的には現在のオランダ王国の原型と言える。

(ブリュッセル・フランダース・ワロン地域とは?)

このためこの3ヶ国の間では出入国管理を行わないと取り決めがあったそうである。

現在ではEUの枠組みで当たり前に行われていることだが、この3ヶ国ではより古くからある。


ところで冒頭で日本から事実上もっとも近い陸上国境が香港・深圳間だと書いた。

しかし、おそらく境界を感じるという点では韓国と北朝鮮の間が最も近いのだと思う。

ただ、韓国の立場としてはここより北も自国の領土であって、あくまでも軍事境界線に過ぎないということである。

立入には特別な許可が必要で、ソウル近くでも開発が抑制されているのは似ているが。

以前は観光のため板門店一帯に立ち入ることができたが、現在は行われていないそう。

境界部には開城工業地区という両国共同運営の工業団地もあったが、運用停止されて長い。


距離的には中国・ロシア間の国境が近いのかなと思うが、これもなかなか往来が難しいですね。

なんて事情を考えると、香港ってことになるのかなと思った。

香港にしても深圳にしても日本から飛行機で直行できるし、

両地域の往来の激しさは世界的にも有数のものと知られている。

厳密には国境ではないですけど、事実上は国境だし。