こんなニュースがあったのですが。
東京工業大学と東京医科歯科大学が法人または大学の統合に向けて動くか? とのこと。
もともと関係の深い大学ではあり、大学ファンドの助成を受けられる国際卓越研究大学の認定を狙ったものではないかとのこと。
この大学ファンドと国際卓越研究大学というのはどういうものかという話ですが。
大学の教育・研究活動の充実のためには金が必要だが、社会保障関連費で火の車の日本政府が出せる金は限られる。
そこで、10兆円の大学ファンドを科学技術振興機構に作り、このファンドの運用益から大学に助成することで教育・研究活動の充実を図ろうという話が出てきた。
安定した資金が確保できることで、長期にわたる人材確保や設備投資ができるということである。
従来はプロジェクトベースの研究資金に頼るところが多く、研究者の身分の不安定化を招いてきたことへの反省もあるんだと思う。
ただ、このファンドの助成を受けられる大学は5校程度になるのではないかとのこと。
さらに国際卓越研究大学の認定を受けるためには、年3%の事業成長が求められるという。
というのもこのファンドの原資となる10兆円は財政投融資、すなわち借入金なんですね。
事業期間は50年と長く、できるだけ元本に手を付けず、運用益を大学への助成に回すという想定だが、借入金なので返さないといけない。
この大学ファンドの図には大学からファンドに向けて「資金拠出」という矢印があるが、
ファンドからの助成金で教育・研究活動を充実させた先には、集めた資金を積み立てて、
自ら積み上げた基金の運用益で教育・研究活動をさらに充実させることが求められるというわけである。
ファンドから助成された資金には返済義務はないが、事業成長により将来的には自力でファンドを充実させられる大学でなければならないということが問題である。
このことから、単純に研究活動の充実度が上位の大学が認定される形にはならなさそう。
10兆円ファンドの「稼げる大学」に5大学検討 選択と集中へ不安も (朝日新聞デジタル)
大学にアンケートを行ったところ、この時点で前向きな大学は5つあったそう。
名古屋大学・東北大学・早稲田大学・大阪大学・東京農工大学 である。
やはり認定のハードルの高さが課題で、規模や内容面でそもそも見合わない大学も多い。
3%の事業成長が求められるということで、これがかえって制約となり「毒まんじゅう」を食わされることにならないかという警戒もあるようだ。
教育・研究活動の充実には金は欲しいが、なかなか難しいと。
そんな中で実は東京工業大学と東京医科歯科大学は前向きに考えていたのではないかということである。
東京工業大学は理学と工学ということで自然科学の基礎から応用まで扱い、
また東京医科歯科大学もまた自然科学の応用分野の1つである医学を扱う。
医工連携という言葉もよく聞かれるように、自然科学の応用という点では親和性が高い。
もともと関係は深いと書いたが、両大学が1つの組織となることで、
国際卓越研究大学の認定条件である3%の事業成長に向けたストーリーを描きやすくなる。
それを抜きにしても研究基盤の強化という点ではメリットがあるんじゃないかということである。
ところで、かつては国立大学法人が合併する場合、大学も合併することになっていた。
2007年に大阪外国語大学が大阪大学と合併し、大阪大学の外国語学部と言語文化研究科の一部に継承されたのがその一例である。
ただ、2019年以降は1つの国立大学法人が複数の大学を設置できることとなり、
現在は3つの国立大学法人で複数の大学を設置している。
- 東海国立大学機構 : 名古屋大学・岐阜大学
- 北海道国立大学機構 : 帯広畜産大学・小樽商科大学・北見工業大学
- 奈良国立大学機構 : 奈良女子大学・奈良教育大学
大学自体は統合せず法人だけ統合するのは、地域性や専門性という観点だろう。
東海国立大学機構の2大学はそれぞれが総合大学で、注力分野は似ているが、名古屋・岐阜と立地が異なるので、その地域性を重視したとみられる。
奈良国立大学機構の2大学はいずれも奈良市で近接していて、教育系の大学同士、
これだけ見るとなぜ2つある? と思うけど、一方が女子大学ということが大きい。
国立の女子大学ということで、女性リーダーの育成に果たす役割が多く、理学部と工学部(2022年新設)もあり、女性研究者・技術者の育成という役割もあると。
このため奈良女子大学の看板を下ろすという選択は取れなかった。
逆に奈良教育大学を集約するという選択肢もとれない。こちらは男女共学だし。
一方でいずれも比較的規模の小さい大学で、共通点も多いので、法人統合による効果も大きいと考えられたのだろう。
ということでこちらは女子大学という専門性が重視された結果ですね。
東京工業大学と東京医科歯科大学については、大学統合・法人統合どちらの可能性もあるようだ。
国際卓越研究大学の認定がどういう仕組みなのかよくわからないけど。
1つの大学になれば、その大学で認定を取りに行けばよいわけだが、
法人統合の場合、2つの大学が連名で認定を取りに行くのか、
あるいは一方の大学が認定を受けて、他方の大学と連帯するという形になるのか。
そういえばさっき認定に前向きな大学に名古屋大学ってのがあったけど、
同一法人の岐阜大学との関係はどうなんだろ?
大学が認定を受けると国立大学法人の全体の経営に影響するのは確からしいが。
東京工業大学と東京医科歯科大学の統合説はさておいても、
大学ファンドは恩恵を受けられればありがたいけど、難しいというのが現在の各大学の認識なのかなと。
借入金でファンドを作って50年は面倒見るから、その間に自力で基金を積み立てられる大学だけ寄ってこいというのは厳しい。
認定を受けなければ「3%の事業成長」など求められることはないが、金がなくては教育・研究活動の充実もままならない。
というわけで行くも地獄、行かぬも地獄ということになりかねないと。
もっともこういう選択肢があるのは研究活動が極めて充実した一部の大学のみで、
「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」という、特定分野あるいは地域に特化した大学向けの制度に期待している大学の方がはるかに多い。