馬主服がいいんじゃないって

先日、Twitterで地方競馬の勝負服のことが話題になっていたが、

ことの発端になったらしい西山オーナーの提言がBlogにまとめられていた。

懲りずに地方競馬改革論 (西山牧場オーナーの(笑)気分)

西山オーナーは「ニシノ」「セイウン」の馬名で有名だが、ブロガー馬主としても有名だそう。

馬主ってなにを考えてるんだろうなぁというのはファンからなかなか見えないところだけど、

大物馬主がファンにも見える形で(元はファン向けというわけではなかったらしいけど)語っているのはなかなかないことである。

Blogのことは知ってたけどTwitterまでやってたんですね。しかも、そこでファンと意見交換できるとは強者だ……


ここで地方競馬の活性化のために、馬主観点で3つの提言を書いてある。

その筆頭が「勝負服を馬主服にする」ということである。

JRAでは騎手が着る服(これを勝負服と言う)は、基本的に馬主が決めた柄の服を着る。

これはJRAに限らず、世界的にも一般的な考え方である。

ところが地方競馬では、基本的には騎手が決めた服を着ることになっている。

馬主の視点でみれば、JRAで馬を走らせれば、自分の所有馬には必ず自分の決めた服を着た騎手が騎乗してくれるが、

地方競馬では、騎手の服は騎手次第であり、自分の馬が走ってもこれといった目印はない。出馬表の文字だけの存在である。

ここが馬主服を着て騎乗となれば、馬主としてもモチベーションが上がるんじゃないかということである。


とはいえ、地方競馬のファンとしては、なかなか複雑な思いがあるようである。

騎手服に親しんできたということもあるけど、やはり観戦しやすさということで言えば騎手服の方がよいのである。

騎手の数は馬主の数に比べればはるかに少なく、すなわち覚えやすく、

1つのレースに同じ馬主の馬が複数出ることはあっても、同じ騎手が複数の馬に騎乗することはない、すなわち被りがない。

確かにこの点においては合理的である。


でも、なんで日本国内で馬主服と騎手服が分かれてしまったんだろう?

JRAのルーツは、外国人居留地で行われていた競馬に由来する。

ヨーロッパの競馬が貴族同士の競い合いから始まり、日本でも上流階級のスポーツとしてスタートした。

一方で地方競馬はちょっと違うらしく、各地で生産者が馬を持ち合って、調教して、走らせるという形でスタートして、

その昔には、馬主・調教師・騎手の全てを兼ねることも珍しくなかったという。

これが分業されていく中で、騎乗時に着る服は騎手のものという考えが定着していったようだ。

ちょっと決定的な理由はわからないんだけど、生産者が自分の生産馬を走らせるところから始まったというのはあるんだろうと。

なお、韓国の競馬も騎手服だそう。ダートコースだけであることといい、日本の地方競馬によく似てますね。


とはいえ、これが地方競馬が騎手服で一貫しているのか言うと、ほころびはある。

地方・中央交流競走では、JRA所属馬が地方競馬にやってきて地方馬とともに走るわけだけど、

ここでJRA所属馬はJRAの勝負服、すなわち馬主服を着て出走するわけである。だから騎手服と馬主服の混在はあったんですね。

さらに、現在では大半の競馬場で地方馬であっても、その馬主がJRAの馬主登録をしている場合は、

重賞レースなど一部のレースではJRAに登録している馬主服を着用できるという制度が導入されている。

同じ馬主なのに、JRA所属としての出走なら馬主服、地方所属としての出走なら騎手服というのはアンバランスと考えたんだろう。

より踏み込んだところでは、ホッカイドウ競馬では独自の馬主服登録制度を持っていて、希望すればJRA馬主資格の有無を問わずに馬主服が使える。

ただし、これも一部のレースに限られていて、大半のレースでは騎手服での騎乗となるようである。


ところでちょっと話は変わるのだけど、地方所属馬がJRAのレースに出る場合、

もしもその馬主がJRAの馬主資格がない場合は、その年限りの馬主資格を取得しての出走となり、

その場合には枠番にちなんだ「交流服」と呼ばれる服を借りて、騎手はこれを着用して騎乗する。

一方で、馬主がJRAの馬主である場合は、登録している馬主服を着ての騎乗となる。

それで先月12日、函館10R 横津岳特別に、ホッカイドウ競馬所属のシンボという馬が出走して、見事に勝利したのだが、

驚いたのは騎手が着ていたのが、白と桃色の縞模様の馬主服である一方で、この馬主の馬が過去に出走したという記録がなかったこと。

ちょっと変な気がしたが、おそらくはこの馬主は共有馬主として、JRA馬主なんだろうと思う。

複数の馬主で共有している馬では代表馬主の名前しか見えないので、隠れ馬主はありうる。

馬主が所有馬の騎手に自分の決めた服を着せるには登録がいるが、このレースのために登録をしたんでしょうね。

幸い、ホッカイドウ競馬には独自の馬主服制度があるので、ここで使っているのと同じ柄にしておけば、同じものを使い回せる。


ホッカイドウ競馬でさえ、馬主服が一部のレースに留まるのは、ファンのことを思うと踏ん切りが付かないのもあるのかもしれない。

地方競馬で馬主服を導入すると馬主の負担が重いからでないかなんていう指摘もあったけど、

特注ということで高いのかとおもったら1着2万円ほどとのことで、馬にかかるお金(例えば馬1頭1ヶ月預けると数十万円)に対しては大したことはない。

勝負服は調教師が管理するので、馬1頭に1枚必要とも限らないわけですから、なおさら大したことはない。

馬主観点で言えば、西山オーナーの言うとおりだが、地方競馬に思い入れがある人ほどに、ファンのことを思うと踏ん切りが付かないということか。

西山オーナーは地方では数頭の所有に留まるようで、その点では地方競馬から一歩引いたところからの意見である。

ただ、もう重賞レースなどではほころび始めているわけで、ファンとしても納得せざるを得ないところまで来てるのではないか。

当初はあれこれ言われるかもしれないけど、すんなりと受け入れられてしまうかもしれない。

中途半端に騎手服があるとかえって反感を買うかも知れないので、切り替えるなら一斉にやった方がいいでしょうね。


他の提案としてはこんなことが書かれている。

②口取りを全部やる。馬主不在なら主催者が写真代を払って、馬主に贈る。
③出走馬主席を広く豪華にして、地元の美味いレストランを入れる

口取りって優勝馬の記念撮影ですね。馬を騎手・厩舎関係者・オーナーらで囲んで撮影すると。

現在、JRAでは馬主の立入制限などの都合で口取り式は行われていないが、

本来は未勝利戦から全レースでやっていることで、オーナー不在であってもそのときいる人で撮影しているよう。

地方競馬でも口取り式はやっているのだが、オーナー不在でも全レースでやってるかは定かではない。

どの競馬場のどのレースでも1勝は1勝としてたたえるために写真を撮ろうということで、これはもっともな話。


馬主席については、スタンド改修などのタイミングでそれなりの品格のある空間になりつつあるようだが、

馬主席のレストランか……JRAの競馬場だとあるらしいですね。品格がある分には高いらしいけど。

俺の馬が走るところを観戦に行くぞと連れ立って競馬場に行くのに、モチベーションになるってことなんでしょうね。

ただ、競馬場の主な客層には合わない(だからこそ馬主エリアのレストランなんてのがあるんだろうけど)ということで、

レースの規模なども考慮すると、地方競馬ではなかなか難しいのかも知れないね。

というかJRAでも営業日数が極めて限られる中で、馬主席のレストランなんてなかなか難しい商売なのでは?


この中で馬主服は、主催者の費用負担はない割に、馬主にとって一番インパクトがあることかもしれないね。

一方で地方競馬の馬主も地方競馬のファンの1人としてちょっと迷ってしまう。そんな難しさも透けてくる提案だった。

こういうことを堂々と言えるのはすごいと思いますよ。