以前、UHFのテレビのチャンネルを調べたときに知ったんだけど、
ワイヤレスマイク、法令上はラジオマイクという言葉になっているが、
これの使える周波数帯に変更があったとかいう記述が見つかった。
ラジオマイクの運用者からすれば困った話なのだが、使える周波数帯が広がったとも取れる話だったらしい。
目的は700MHz帯に携帯電話用の帯域を確保すること。
ちょうどテレビの53~62chがデジタル放送移行後に空くので、それと合わせて連続した帯域を確保しようとしたわけだ。
どうもBand28というバンドに対応するらしいね。世界的に標準化された帯域の1つなので、対応端末も多くなるだろうと。
ただし、この帯域にはラジオマイク用の帯域が含まれていたものだから、引越の必要があった。
対象はA帯という帯域を使うマイクで、免許を受けないと使えないのでプロ向けという位置づけだ。
免許不要で適当に勝手に買って使えるB帯のマイクは特に関係ない。
もともとA帯はFPU、映像・音声の中継場所と放送局を結ぶのに使われる通信で使われる帯域との共用ということになっていた。
干渉しないことがわかっている周波数は使えると。そういうことですね。
これが今後は、710MHz~714MHzはラジオマイク専用、470MHz~710MHzはテレビと共用、1240MHz~1260MHzはFPUと共用となるそう。
テレビと共用の帯域はテレビと干渉しないことが条件で、空いている帯域を使うからホワイトスペース帯(WS帯)というそう。
電波の有効利用というのもいろいろあるが、使ってない帯域なら使っていいだろというのも有効利用なのだ。
なぜこんな話を書いたのかというと、こんな記事を読んだからだ。
アイマス10thライブのマイク運用について考えてみた。 (rencontRe Lab)
同時に使えるワイヤレスマイクの本数というのはあまり多くないと言われていた。
真面目に考えればワイヤレスマイクの数で出演者数の限界が決まるという話もあった。
もしくは一部の出演者にはダミーマイクを持たせるというのがチャンネル数不足に対する現実解という話もあった。
ただ、上に書いたようなラジオマイクの帯域変更があったおかげで、マイク44本+イヤーモニター12台(推定)を収容できたのではと書いてある。
出演者34人で西武ドームで歌おうと思うとこうなるらしい。
イヤーモニターというのは歌っている人に音を返すための装置で、ワイヤレスマイクと組み合わせて使われることがある。
音を返す方法としては歌っている人に向けてスピーカーを置くという方法が一般的だ。
ただし、広い会場ではあっちゃこっちゃにスピーカーを置いてしまうと収拾が付かないので、別の方法を考えなければならない。
そこでイヤーモニターである。歌っている人の耳に直接、音を返すわけである。これならスピーカー間の干渉を考えなくてもよくなる。
と、それはよいのだが、イヤーモニターもワイヤレスなので電波が必要になる。
ということは例えばマイク20本分の帯域があったとしても、イヤーモニターを使うとなれば全てをマイクに割りあてられないということになる。
もっとも返しは1人1人別々の回線を使う必要はなくて、数人のグループで1つの回線としても実用にはなるよう。
上の記事によれば34人の出演者に対して、イヤーモニターの返しで12回線使っていたのでは? と推定している。
マイクとイヤーモニターを合わせると56回線も必要なのだが、これを収容するのは旧来のA帯では収まりきらない。
すなわちかつてはダミーマイクでも使わない限り、これだけの出演者が同時に歌うことはできなかったわけである。
ただ上に書いた周波数帯の変更の結果、旧A帯で28回線、テレビのホワイトスペース帯で28回線ぐらい確保できたのではと書かれている。
ちょうど過渡期だからこそこういう対応ができたということになるのかな?
将来的には旧A帯は使えなくなるわけだからね。
けっこうな無茶をして実現したステージだったようだ。
以上は周波数帯の変化により多くのワイヤレスマイク(イヤーモニターを含む)を収容できるようになったという話だが、
もう1つのアプローチとしてデジタル化というのがある。
これまでワイヤレスマイクはFM変調が用いられてきたし、上の記事で書いてあったマイクの型番を調べたらFM変調って書いてあったからアナログだ。
実はアナログでは使える帯域にマイクの回線を敷き詰めることができなかった。3次相互変調ひずみという問題があるからだ。
これに目的の周波数の近くに2つの妨害波が入ると、増幅器の非線形性の影響で、周波数の関係によっては目的の周波数に被る妨害波が生み出されることがある。
なのでお互いに妨害しないことがわかっている周波数の組み合わせをメーカーは考えていて、
28回線というのは所定の帯域に28回線敷き詰められるという意味ではなく、3時相互変調ひずみも考慮して問題ない28回線の組み合わせがあるということなのだろう。
ただし、デジタルの場合はこれが問題とならないので、本当に所定の周波数帯に敷き詰めることができる。さらにノイズにも強い。
いいことづくめのような気もするが、一旦デジタルにする都合、遅延とか問題もあるのは確からしい。
そういう長所・短所を踏まえた上で選択しているのだろうが、電波の有効利用という点では一考に値する。
いずれにしてもちょっと前までは実現しようがなかったステージであることだけは確かなことだ。
ここまで使用可能な回線数を酷使するステージというのはあまり多くないと思うのだが、
できなかったことができるようになるってのは大きなインパクトがありますからね。
もちろん今までもダミーマイクを混ぜば、見た目はそれっぽくなっていたわけだけど、
そういう手段によらず、正攻法で実現できるようになったことの意義は大きい。